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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ゴドワ周辺の変化

 犬頭人や鰐頭人を含む異族をぞろぞろ引き連れていったせいか、トエスの挨拶回りは比較的穏やかに終わった。

 出迎えた周囲の村人たちの表情が若干引きつっていたような気がしないでもなかったが、実際に一戦やらかすよりはよほど穏便な手段なわけで、トエスとしてはこうして公然と武力を誇示する示威行動をしても特に良心は痛まない。

 むしろ、こちらが保有する戦力を早めに誇示することによって無用の武力衝突が避けられるのであれば、そっちの方が結果としては望ましかった。

 ゴドワと呼ばれる場所は、河川が一度氾濫するとぐちゃぐちゃになる土地で、周囲の勢力もそのまま放置しているような場所であった。

 耕作に適さないわけではないのだが、年に何度か雨量が多い時期にどっと川から土砂が押し流されてくるような場所で、わざわざ作物を育てるわけもない。

 上流の治水工事などをしっかりと行えばそれなりに利用価値もあるのだろうが、この時点でゴドワ周辺は耕すだけ無駄な場所として周辺住人に認識されており、その誰も欲しがらない土地を洞窟衆が占有した形になる。

 どうも森東地域の住人は交易とか商売に対してあまり熱心ではなく、水運における地の利などについても理解が浅いように思えた。

 それをいいことに洞窟衆はゴドワの両岸に船着場や倉庫、事務所などを手早く建てはじめた。

 鰐頭人たちにも山羊やアヒルのことを伝えた上で、

「相応の準備期間や試行錯誤が必要となり、必ずしも成功するとは限らないのだが」

 と前置きした上で、この周辺で畜産を開始することも伝えている。

 それ以外に、山地の冒険者ギルドに動物を生け捕りにしてこちらに送ってくるように依頼は出しているのだが、そちらの方はそれこそ畜産以上に具体的にどれくらいの成果を期待出来るものか、まるで予測が出来なかった。

 鰐頭人の方も、すぐに成果が出てくるとは期待しておらず、それに現状でも飢えているというわけでもなかったので、そうした伝達も比較的穏やかに受け止められている。

 鰐頭人たちはどうも、ここでは普通に魚や野生動物を捕らえて食べているらしい。

 そうした食糧となる生物も、別に不足しているわけでもない。

「山地の動物が欲しい」

 という彼らの欲望は、つまりは人間が嗜好品を求める感覚に近いらしかった。

 つまりそれだけ逼迫してはいないということで、洞窟衆とのやり取りに関しても、どうも「いかにして人間社会に適応していくのか」という遊戯を彼ら鰐頭人の間で競っているような風にも見えた。

 なまじ知能が高く、天敵らしい天敵もいなくなると、娯楽にも飢えるものらしい。

 その鰐頭人たちは、いよいよ本格的にゴドワより下流の水域を占拠して通行料を徴収する事業に乗り出していた。

 彼らの個体数は五百体前後であるという。

 それだけの人数ではそれまでその水域を縄張りとしていた水賊衆の代行をすることは出来なかったが、彼ら鰐頭人たちは通常の水賊衆とは違い、水運事業には徹底して手を出さなかった。

 その水域を利用する人間から通行料を徴収し、その見返りとして通行料を納めた人間の安全や積み荷は徹底して守ろうとする。

 単純にそれだけの仕事のみに限定しており、そして職務に関してはかなり真面目に遂行しているようだ。

 他の水賊衆からの襲撃を事前に防止し、それ以外に水難事故などにもかなり柔軟に対応している。

 船から落ちた積荷や人間の救出までやってくれる水賊衆はいなかったから、

「支払った通行料分くらいの価値はある」

 という評判が立ちはじめている。

 鰐頭人にその水域から閉め出された水賊衆にとっては災難でしかなかったが、この分だと鰐頭人たちの水域支配はかなり安定するのではないかと、トエスは予想している。

 鰐頭人はどこか鷹揚なところがあり、一度閉め出した水賊衆の船でも、通行料さえ支払えば、平然と通していた。

 鰐頭人たちは通常の、水賊衆同士の縄張り争いとは違った感覚で、この水域を監督しているらしかった。

 鰐頭人たちが水運事業に手を出していないことも、かなり関係があるのかも知れないが。


 第二陣、三陣の人員が到着してから、トエスは冒険者ギルドの者に依頼をして、鰐頭人たちの事業を助ける事務員を募集した。

 彼ら鰐頭人たちは知能だけを見れば通常のヒト族に決して引けを取らなかったが、文字を読み書きしたり計算をしたり、といった文化を持っていない。

 そのため、徴収した交通料を計算し、これから発生する支払いなどを記録し帳簿などをつける事務員が必要だった。

 誰でもいいというわけではなく、そうした仕事が出来るだけの知識と経験を持ち、なおかつしっかりとした契約魔法を結んで決して鰐頭人を裏切らない、そんなことが出来る人材であることが望ましい。

 端的にいえば、事務処理能力を持った契約奴隷が一番都合がよかった。

 奴隷といっても実態からいえば年限を区切った年季奉公に近く、さらにいえば鰐頭人は個々の人間にはあまり興味を持たなかったから、必要な仕事さえちゃんとこなせれば、人間の奴隷となるよりはよほど気楽な面もある。

 そうした求人を出してみた結果、読み書きと帳簿付けが出来る人間が何人か志願して来て、そのうちの半分近くが採用された。

 採用された者たちは、地元、つまり周辺の村から募集を見て応募した人間と、それに洞窟衆の呼びかけに応じて作業要員としてこのゴドワまで来た人間とが混在している。

 冒険者ギルドには応募してくる人間の意思と能力、それに報酬などの条件面さえ折り合えば出身地などは気にしない風潮があり、今回も本人の能力とやる気を審査した上で採用される人員が決まっていた。

 前述のように鰐頭人はすでに十分な収益をあげる仕組みを構築していたし、その仕組みをこれからも維持しようとすると鰐頭人だけでは手の届かない場所が出てくる。

 その鰐頭人には手の届かない場所を補完するための人員であり、異族を相手にしてもこうした契約を公然と斡旋して締結させることを、冒険者ギルドはこの土地でも公然と示した形であった。

 洞窟衆の関係者にとっては別に珍しい事例でもないのだが、異族が相手であっても普通に各種の取引を行う洞窟衆側の対応は、この周辺の人員にはかなり奇異な光景に映ったらしい。

 しかし、洞窟衆側の人間はそうした好奇の視線も特段に気に掛けた様子もなく、淡々と予定されていた作業を進めていく。

 鰐頭人の件は、どちらかというとこのゴドワに着いてから突発的に発生した仕事でしかなく、それ以外に予定されていた作業がいくらでも山積みになっているのだった。

 船着場や護岸工事など、ゴドワに着いた洞窟衆側は湾岸部の整備を率先して行った。

 人手はいくらあっても足りないくらいだったので、周囲からも人を集め、作業によっては鰐頭人に手伝って貰うこともあった。

 多少の増水があっても被害を受けない台地を形成して、その上に倉庫や事務所などを構える。

 同時に、両岸に船着場やクレーンなどを設置し、荷捌きの効率化を図る。

 簡単にいってしまえばただそれだけの作業といえたが、ほとんどの仕事を人力でまかなわなければならないこの世界では、かなりの大がかりな工事となる。

 かなりの人数が必要となったし、それだけの人数を一度に働かせるとなるとその食事を用意するのもかなり煩雑な仕事だった。

 ここまで大きな工事ともなると、ただ賃金を用意しただけでは現場は動かず、それ以外に食糧を絶やさず、工具などの道具類も準備せねばならず、と、例によって輸送能力までもが試されることになる。

 ただ、洞窟衆はこれまでの経験からその手の仕事にも慣れていたので、必要となる物資の種類や量をある程度事前に予測し、用意することが出来た。

 トエスが到着した段階で用意していた物資を続々と送り続けていたので、これまでのところ、大きな混乱は起こっていない。

 強いていえば、船着場などの施設がまだ未整備の段階で到着した船は、荷物を満載した状態でしばらく水上に待機する時間を持つことになった。

 ただこれも、これほどの規模の造営作業を立ちあげる際の混乱としては、かなり小規模な物に留まり、むしろいきなりやってきた上、ごく短期間のうちにそうした工事現場の手配を済ませてしまう洞窟衆の力を、周辺住民は見せつけられた形となる。

 これだけの物量と予算とをとっさに用意して移送する能力があるということは、なにかことが起これば即応して現地で軍を起こすことも可能なわけであり、多少とも想像力がある周辺地域の有力者たちは、こうした動きを見た結果、洞窟衆に対する警戒心を強めた。

 異族を相手にしても平然とヒト同士と同じように取引を行い、はじめての土地でも臆することなく自分たちの領域を物凄い勢いで整備する洞窟衆とは、果たしていかなる組織なのか。

 あれだけの真似をして野心がまるでないとも思えず、周囲の有力者たちは内心では戦々恐々とした日々を送りはじめている。

 一方、洞窟衆に雇われた現地の人間は、かなり潤沢な賃金を貰った上、やはり洞窟衆経由で性能のいい農具その他の道具類や書籍類などを手に入れて、不意に湧いた好景気に沸いている。

 単純に金回りがよくなっただけではなく、それまでに触れたことがなかった文物に触れ、その上で対価さえ支払えばそれが自分の物になるという経験を、この森東地域の人間はこれまでにあまり経験したことがない。

 洞窟衆がこの土地にもたらしたのは潤沢な賃金だけではなく、商品や情報など、それまで閉鎖的だったこの地域の人々の認識を大きく拡張する事物だともいえた。

 このことは、長い目で見ると、森東地域の旧弊な価値観を根底から塗り替える出来事といえたが、そうした作用について自覚した人間は、この時点ではほとんど存在しない。



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