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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第三十章 ふたりで戦います
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第30章 第6話

 結局。

 土日とテイクアウトは惨敗、店内も苦戦、礼名のアコーディオンも全く功を奏さなかった。

 しかし、くよくよしても仕方がない。

 次の手は打ってある。


 日曜夜、店を閉めると急いで公民館へ走った。

 勿論、臨時の商店会に参加するためだ。

 議案は「輸入食品館ウィッグの営業内容変更に関する要望案」。

 ムーンバックスとオーキッドが連名で招集を依頼した。

 ウィッグの無料試飲コーナーは地元喫茶店の営業を不当に圧迫しているとして、その撤去を要求する、と言った内容だ。何せウィッグはバックに大資本がついている。大資本によるこんな暴挙は許されるべきじゃない。


 公民館に駆け込むとムーンバックスの店長・奈月さんは既に来ていた。


「奈月さん、今日は頑張りましょう」

「ええ。わたしも店員みんなの生活が掛かってますから!」


 赤い眼鏡の奥に強い意志を覗かせて、彼女は言い切る。


「やあ悠也くん、早いねえ」

「あ、三矢さん。準備手伝います」


 僕は商店会長の三矢さんと一緒に椅子を出して並べながら。


「今日はよろしくお願いします」

「うん、分かってる。だけど提案が通るかどうかは商店会員の総意だからね。それに可決できたとしても強制は出来ない。勿論、商店会として然るべき圧力は掛けるけどね」

「分かってます」


 強制できなくても構わない。正義が手に入れば次の手はある。

 商店会開始は夜九時三十分。

 時間になると四十名ほどの会員が集まった。

 しかしその数は七夕セールの時より断然少なかった。

 みんなあまり関心がないと言うことだろうか……


 やがて。

 三矢さんが招集の経緯について説明をする。

 続いて提案者側として奈月さんがマイクを握った。

 僕も礼名もその横に立つ。

 三人は堂々と胸を張り、そしてみんなに一礼する。


「ウィッグさんのお店は輸入食品を販売し利益を得る。そのために五十席を超えるテーブルやマグカップに入った試飲コーヒーの提供が必要でしょうか? ウィッグさんでお買い物をしたお客さまに一服の場を提供するのは私ども喫茶店の務め。それは商店会が共に栄えていく正しい姿だと思うのです!」


 奈月さんの演説に僕は思いっきり拍手をした。勿論、会場からも拍手が起きた。

 真実その通りだと思う。それが商店街という集合体の意義ではないだろうか。

 拍手が鳴り終わると三矢さんが会場を見渡して。


「次は、ウィッグ中吉店支配人の月守様からの抗論です」


 キザっぽいスーツにその長身を包み、リーゼントで決めた月守さん。彼はゆっくり壇上に立つと会場を見下すようにぐるりと見回した。


「みなさん、これが私どもの営業スタイルです。それを評価して戴くのはお客さま。たくさんのお客さまに来て戴くこと、それこそが商店会の皆さまへの何よりの貢献。私どもの調査ではウィッグが開店してから中吉商店会の通行量はそれまでの平均を50%も上回っているはず。私どもの営業方針にご理解を戴けないのであれば店舗移転もやむを得ません。これは社の幹部の意向です!」


 彼の話は短かったが明快だった。イヤならやめてやる、と言うことだ。

 相当な投資をして開店たった数日でそんな言葉が出ようとは、全く予想だにしていなかった。そしてそれは商店会のみんなも同じだったようで。


「開票結果を発表します」


 十五分後、壇上に上がった三矢さんは僕の視線から目を逸らせた。

 そう、僕たちの提案は商店会の仲間によって否決されてしまった。


          * * *


 家に帰るまで礼名は俯いたままだった。

 多分悔し涙を流していたのだろう。

 僕だって悔しい。

 いつもお店を助けてくれた商店街のみんながウィッグに票を入れた。

 僕らの店の売り上げは危険な状態なのに。


 家に入ると灯りを点ける。

 礼名は微かに微笑むと気を取り直したように言葉を紡いだ。


「仕方ないよね。確かにウィッグが出来て商店街は潤ってるんだし」

「だからって!」

「みんな必死なんだよ。経営ギリギリのお店も多いって聞くよ。だから仕方がないんだよ! こうなることは覚悟していたよ。だけど何とかしなきゃ……」


 礼名は今日来ていた郵便物を手に二階へと上がる。

 確かに礼名の言う通りなんだけど、そう簡単には割り切れないっていうか……

 あの後、奈月さんは青ざめた顔で、それでも僕らに自分の非力を詫びた。

 勿論彼女は何も悪くない。立派な演説をしてくれたのに。


 僕はシャワーを浴びる。そうして重い気分のまま二階へと上がった。

 礼名に風呂場がいたことを知らせようと彼女の部屋の前に立つ。

 いつもなら大きな声で伝えるんだけど、今日はそんな気分じゃない。


「どうして! お兄ちゃ ……じてるよ……」


 中から礼名の呟きが聞こえる。

 どうしたんだろう?

 やはり今日の出来事は相当にショックだったのだろうか?

 慰めてあげなきゃ……


 僕はドアのノブをゆっくり回した。

 そして彼女の様子を覗き込……


「!?」

「あっ! お兄ちゃんっ!」


 机に座っていた礼名が慌てて振り返る。

 机の上には数枚の写真が!


「見ちゃダメッ!!」


 急いで写真を隠そうとした礼名。

 だが、慌てて手を動かした所為せいか僕の足元にその一枚がひらひらと舞い降りた。


 それは、学校近くの公園で、僕と麻美華が寄り添っている写真だった。



 第三十章 完


 第三十章 あとがき


 皆さん、いつもご愛顧心から感謝しています。

 作者に成り代わりこの倉成麻美華、お礼をして差し上げますわ。


 さて、オーキッドが危険な状況なのにかたくなに私たちの応援を拒む礼っち。何が彼女をそうさせるのでしょう。私と綾音が手を組めば色んな手が使えるというのに。何か考えがあるのかしら?


 それに悠くんは私との関係を礼っちにバラしてしまうとか言ってたのだけど、もう話してしまったのかしら? 礼っちを見ているとそんな感じは受けないんだけど。私は話して貰ってもいいんだけどね。って、寧ろ話して欲しいわ。そうしたら今よりもっとお兄さまに甘えられるでしょ? 礼っちだけ妹ポジションって絶対ずるいわ。


 と言うわけで、新コーナー「作者に聞く」のコーナーです。

 このコーナーは毎回主要キャラクターの面々がこの物語の作者に興味があることを単刀直入に聞きまくるという、まあ、そんなありきたりなコーナーです。


 作者の日々さん、覚悟は宜しいですか?


 では、最初の質問です。

 作者さんが一番好きなキャラクターは誰ですか?


「誰と言われても、全員に思い入れがありますね。麻美華さまが悠也とふたりの時のデレ具合は最高に好みですし、桜ノ宮さんは本作のヒロイン中、ただひとり妹ポジションを持たない王道のガールフレンドで、実は彼女には全く欠点が見当たらない完璧美少女の設定です。そう、普通の男なら桜ノ宮さんになびくのが当然でしょうね」


 ……質問は「一番好きなキャラクターは?」なのですが?


「どうしてもひとり選べと言われると、やっぱり辛い境遇を明るく生き抜く神代礼名ちゃんかな」


 えっ? 声が小さくって聞こえませんね。もう一度仰ってください!


「神代れい……」


 えっ? 今日のホスト役は誰か理解していますか?


「神代れい……」


 ちょっと、空気読みなさいよ! この物語のメインヒロインはこの麻美華さまに決まってるでしょ! 麻美華さまの必殺アッパー浴びたいのかしら! ねえ作者さん? ごるらあ~!」


  『ピンポンパンポ~ン

   映像が乱れていますが、ただいま機材の調整中です。

   しばらくお待ちください……』


 あ、番組の不手際、大変失礼致しました。


「ぐふっ…… げほっ……」


 では、もう一度伺います。作者さん、一番好きなキャラクターは誰ですか?


「はい…… 倉成、ま・み・か・さま、で、す…… ぐほっ!」


 えっ、何ですか? 今日の質問はこれで終わり? 作者が死にそう? あっ、ちょっとやり過ぎちゃいましたね。てへっ! 次は波風が立たないテーマを選びましょうね!



 と言うわけで次章の予告です。


 ウィッグの攻勢に為す術なく売り上げを落とすオーキッド。しかし神代兄妹に訪れた危機はそればかりではなかった。いや、オーキッドの売り上げなんてどうでもよくなるくらいの一大事が神代兄妹を襲う。果たしてふたりはこのピンチから抜け出すことが出来るのか?


 次章『やっぱり麻美華は女神さま』も是非ご期待下さい!

 あなたの可愛い倉成麻美華でした!


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