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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十四章 あれから一年経ちました
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第24章 第1話

 第二十四章 あれから一年経ちました



 貧乏、それは買い物と言う楽しみを侵す恐ろしい病。


「お兄ちゃんこっちこっち! 新しいお店だよ! ちょっと見ていこうよっ!」

「わあっ! これかわいいよ! こっちの色も凄くいいよ!」


 だけど礼名は見るだけで大はしゃぎ。

 タダでこれだけ喜べたら遊園地はいらない。


「なあ礼名、気に入ったのがあったら買ってもいいんだぞ!」

「大丈夫だよ、見るだけで楽しいし、礼名、無駄遣いはしないよっ!」


 今日は月曜、そして学校もまだ冬休み。

 そう、今日は数少ない僕らの休養日だ。


「礼名が着てるピンクのコートも窮屈そうじゃないか。新しいの買ってもいいんだぞ」

「まだ大丈夫だよ。でも来年には…… そうだな、春になって投げ売りが始まったら拾っておこうかな!」


 僕らは市で一番の繁華街へ来ている。

 ここは中吉商店街とは規模が違う。

 大きなデパートがあってブランド店が並んいて、地下街があって人混みが凄くって、ともかく全然違う。


「このセーター可愛いよ! お兄ちゃんにどうかな? ちょっと試着してみない?」

「いや、僕のはいいから自分の探せよ」

「お兄ちゃんのセーターちっちゃいじゃない。それに袖が伸びてるよ!」


 バーゲン赤札ワゴンの中からよさげなセーターを手に取る礼名。

 値札を見ると確かに安い。


「じゃあさ、今日は一着ずつ買うってのはどうだ? 昨日は予想外の収入があったからさ」

「あ、うん、そうだね。じゃあ、そうしようっか!」


 日曜日は朝方、倉成壮一郎がやってきた。

 彼は麻美華がさくらんぼを食い尽くしたことに頭を下げると、お年玉だと言ってお金を置いていった。僕らは全力で遠慮したのだが、言葉巧みな彼に結局負けた。


 彼が置いていったのはふたり合わせて十万円。

 後で麻美華とも電話で話をしたが、諦めて受け取れと言う。

 悩んだ末、僕らはその金の半分を使って最高級のコーヒーカップを買うことにした。

 そう、彼専用にするために。

 そして残り半分はありがたく頂戴した。


 午後には大友の王子が聖應院せいおういんの仲間をぞろぞろ連れてやってきた。

 ブルーマウンテンやハワイコナという超高級豆ばかりを繰り返し注文し、八人で三万七千円使って帰った。純な喫茶店の客単価としては有り得ない高額だ。


 だけど。


「親父が全額払うからって言ってさ。豪遊しないと僕が怒られるんだ。なのに、これだけ飲んでもこんなに安いの?」


 王子はそう言うと、十万円と書かれた封筒をカバンに仕舞って帰って行ったが……


 あいつ、喫茶店を何様だと思ってるんだ!

 言っとくが、それでも原価は二割以下だ。

 こちとら真っ当な商売やってんだよ!

 うちの店で十万使えるんなら使ってみろってんだ!


「お兄ちゃん、このコートどうかな?」


 目の前で水色のコートを羽織ってみせる礼名。


「おっ、いいじゃん! 似合ってるよ! だけど、さっき見てたヤツの方がよくないか?」

「あっ、これだね。こっちはちょっと高いんだ……」


 値札を見ると七割引だが、それでも高い。

 だけど。


「こっちも着てみろよ」

「うん…………」


 水色のコートを脱いでハンガーへ戻すと、大人びたベージュのコートを羽織る礼名。その動きは女性らしくしなやかで、僕の胸はどくんと高鳴る。


「どう、かな?」

「うん、すごい似合ってるぞ!」

「でも、一万円超えるよ……」

「僕はこっちが好きだな。値段は気にするなよ。昨日幾ら貰ったと思ってるんだ!」

「ありがとう、お兄ちゃん」


 礼名は鏡を探すと嬉しそうに自分の姿を写す。

 嬉しそうな礼名を見ると僕も嬉しくなる。


「今日はいいことばっかりだよっ!」

「ああ、そうだな」


 いいことばっかりと言うのは、もうひとついい話があったと言うことだ。

 もうひとつのいい話、それは……


 今朝は九時になると中吉商店街にある不動産屋・三宅不動産に行った。

 勿論、うちの隣家と、裏のコインパーキングが桂小路の手に渡ったかどうかを調べるためだ。三宅不動産は地元の取り扱いが豊富で情報は容易に手に入った。


「普通はこんなこと教えられないんだけど、お隣さんの話しだし、礼名ちゃんの頼みとあっちゃ仕方がないな」


 そう言いながらも店主の三宅社長はイヤな顔ひとつせずパソコンを叩いて、どこかに電話もしてくれた。


「どっちも所有者はずっと変わってないね。ただ、悠也くん家の隣の空き店舗には商談が入っているよ。お客さんの素性は分からないけど仮押さえもされていないから、検討中じゃないかな。それから裏のコインパーキングね、地主さんを知ってるんだけど、あの駐車場って結構いい収入になってるらしくて、地主さん売る気がないんだよね。だから今は売りに出ていないはずだよ」


 話を聞いて礼名と顔を見合わせる。

 不動産屋さんの話を聞くまで真っ青だった礼名の顔が、少し生気を取り戻した。

 これで桂小路の交渉ペースを崩すことが出来るかも知れない。


「さあ、次はお兄ちゃんの服を探すよ~っ!」


 目の前で、大きな紙袋をぶら下げた礼名が笑顔で僕を呼んでいた。


「おい、僕の分はいいから次は礼名のセーター探したらどうだ?」

「約束が違うよっ! お兄ちゃんも着たきりすずめはダメだよっ!」


 そうして結局。

 僕も一着、柄物のセーターを買ってしまった。


「歩き回って疲れただろ? たまには喫茶店にでも行こうか、客として」

「わあっ、それいいねっ! えっと、じゃあさ、行きたいお店があるんだけど」


 笑顔の礼名に引っ張られて辿り着いたのは、メインストリートを少し外れたビルの三階だった。


 メイドカフェ シルキードレス?


「ここはさ、田代さんがバイトしてるお店なんだよっ!」


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