第21章 第4話
ミニコンサートは大きな喝采の内に終了した。
寸劇に続く歌は熱狂的な盛り上がりを示し、ステージ終了後に行われた『サンタさんのプレゼントタイム』にも長蛇の列が出来た。
「ねえ礼っち、どうしてプレゼントを渡すよい子の中に高校生とかが混じってたの?」
「だって本物のサンタクロースは、プレゼント対象を年齢で区切ってないと思うんです」
「あなた何言ってるの? 本気で本物のサンタクロースがいると信じてるの?」
「礼名ちゃんはロマンチストなのね。あたし、その気持ち少し分かるわ」
プレゼント企画について、対象は当初『小学生以下のよい子』だった。しかし、その商店会の案に礼名は異を唱えた。
「いいんじゃないですか、年齢なんかで切らなくても。自分が『よい子』だと思ったら、プレゼントが欲しい人には年齢なんか気にしなくても並んで貰ったら。だって、もし本物のサンタクロースがいたらみっつの子でもアラフォーのおばさんでも、よい行いをした人にプレゼントで報いると思うんです」
「まったく礼名ちゃんには敵わないな~ 分かったよ。そうしよう。ただし、『よい子のみんなへ』と言う設定だけは残すよ。数量に限りもあるからね」
三矢さんの計らいでプレゼントコーナーでは『年齢制限はありません! よい子のみんなは並んでくださ~い』と呼びかけた。お陰で中吉らららフレンズを間近で見たい『大きなよい子』もたくさん来たわけだが。
「結局、最後はファンの集いみたいになっちゃったわね!」
「その上、やたら聖應院の生徒が多かったし!」
「まあまあ。良いじゃないか、みんな喜んでくれたんだし」
「そうね、そう言えば悠くんったらサンタレンジャーにやられたあと嬉しそうな顔をしてたわね。あれは何なの?」
「あれって、あれはチラッと……」
チラッと二人のパンツが丸見えだった、なんて言えるわけもなく。
「チラッと?」
「いやなんだ。自分の役目が終わって安心したんだ」
「違うわよね、悠くん。あなた見たでしょう、私と礼っちのスカートの中を」
「い、いや、それはその不可抗力、と言うか……」
「見たんですか、お兄ちゃん!」
「いや、だからそれは……」
「勿論、礼名の方にロックオンですよねっ! 麻美華先輩のは視界の隅にあっただけですよねっ!」
いや、何を言っているんだ? 礼名。
「あら、今夜は麻美華の真っ赤なパンティを思い出しながら、ひとりでハアハアするんでしょ?」
「しねえよっ!」
「ダメよ神代くん! 女の子のパンティー見たら妊娠しちゃうわよ!」
「だから、しねえよっ!」
「で、麻美華先輩のと礼名の、どっちのが気に入ったんですかっ!」
「勿論、麻美華よね。礼っちのクマさんパンティーじゃ萌えないわよね」
「クマさん穿いてませんっ!」
「あら神代くんずるいわ、あたしのだけ見てないなんて。ほら、今日のあたしは黒よ!」
「余計な情報与えないでよ! 今晩悶々とするじゃないか!」
あ。
ホンネ出ちゃった……
* * *
そしてやってきたクリスマスイブ。
今夜はオーキッドのクリスマスパーティーだ。
「神代くん! 礼名ちゃん! じゃあ、またあとでね!」
「私は働いてあげても良いのよ、悠くん」
パーティーには桜ノ宮さんと麻美華も招待していた。だけど今日のホストは僕と礼名のふたりだけ。だって、桜ノ宮さんも麻美華も結局バイト代を一円たりとも受け取っていないのだ。今日はその感謝の意味もあるし。
校門でふたりに手を振ると、礼名と共に帰路につく。
「ねえお兄ちゃん、寄り道してもいい?」
「ああ、勿論!」
嬉しそうに僕の前を歩きながら何度も何度も振り返る礼名。
プレゼントのおねだりだな。
クリスマスには欲しいものがあると言った礼名はイブの日に一緒に帰ろうと言った。だから今日は多めにお金も持ってきている。しかし何が欲しいのかな?
「お兄ちゃん、こっちこっち!」
彼女は急ぎ足でイベントホールの方へと向かいながら僕を手招きする。
そうして見えてきたのは巨大なクリスマスツリー。
「ねえお兄ちゃん、一緒に写真撮ろうよ!」
彼女は鞄から倉成光学製の広角デジカメを取り出すと通りがかりのサラリーマンに撮影を頼んだ。
「じゃあ撮るよ、はいチーズバーガー!」
ぱちりんこ
「ありがとうございますっ!」
若いサラリーマンは軽く手を上げ去っていく。
受け取ったデジカメにはカラフルなツリーを背景に礼名と僕のツーショットが綺麗に収まっていた。
「こうしてふたりで写真撮って貰ったの、初めてだよね!」
礼名は嬉しそうにそう言うと、カメラを手に持ったまま歩き出す。
「次は写真屋さんだよっ!」
彼女はデジカメプリントのチェーン店に立ち寄ると、さっきの写真を一枚プリント予約する。そしてその待ち時間に店内を見て回る。
「お兄ちゃん、礼名ワガママ言っていい?」
「あ、プレゼントだね。何でも言いなよ」
新しいカメラだろうか? もしかして三脚とかかな?
しかし礼名が手に取り持ってきたのはノート大の黄色いアルバム。
「これ欲しいんだ……」
二百八十円。
型落ちのセール品で値段の割に作りはしっかりしているが……
「これだけか?」
「うん、礼名へのクリスマスプレゼント」
結局、レジで写真代とアルバム代を支払う。五百円硬貨から楽勝でお釣りが来た。
「えへへっ! よく撮れてるね! お兄ちゃんはやっぱり格好いいよ。ねえお兄ちゃん、これから毎年クリスマスに一枚ずつ写真を撮ろうよ。そしてこのアルバムに収めていくんだ。あっ、ふたりの愛の結晶が誕生したらその子も一緒だよっ!」
破顔して腕を絡めてくる礼名。
「僕たちは兄妹だからそんな未来は……」
「大丈夫、いい子にしてたらサンタさんが叶えてくれるからっ!」




