表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

25話 あんま調子に乗らねぇほうがいいぞ

 



 1ゲーム終了したところで各自小休憩になった。

 山田と野口と合流し、連れションに行きながら現状報告をしあう。


「いいよな~佐藤は~。女子メンツが最強でよ~」


「蘇芳さんと日和さんと北条さんとか、平和でもトップクラスの美少女が勢揃いだもんな。羨ましいぜ」


「ははは……そうかな」


 つい苦笑いを浮かべてしまう。

 傍から見たら確かに羨ましいかもしれないが、当事者からしたらたまったものではないよ。変わってくれるというのなら是非変わって欲しいぐらいだ、この地獄スパイラルからね。


 王道がいるから辛うじて生き延びられているけれど、彼がいなかったら今頃地獄絵図と化していただろう。


「そういう君達はどうなんだい。楽しんでる?」


「あぁ……まぁな」


「うん……楽しいぜ」


(ダメみたいだね)


 言葉とは裏腹な表情から色々と察してしまう。

 そうなるのも仕方ない。こういう集団での打ち上げってさ、一軍や二軍男子が内輪で楽しめるものなんだ。その輪に三軍が一人入ったところで空気扱いされてしまうのがオチだろう。


 王道のように気を遣える者がいればまだ救いようはあるけど、ここぞとばかりに女子にアピールしたい野球部坊主の畠山みたいなのしか基本いないからね。三軍男子は肩身が狭いんだ。


 じゃあそもそも打ち上げに参加するなって話だけど、打ち上げ自体には参加したいものなんだよね。


「じゃ、佐藤も頑張れよ」


「うん、君達もね」


「おう」


 これから2ゲーム目なんだけど、メンツは同じままだ。どうせならもう一回くじ引きをシャッフルしてくれればいいのにと思ってしまう。


「よぉ佐藤」


「あ、王道君」


 手を洗っていると、トイレに入ってきた王道から声をかけられる。まさか彼から接触してくくるとは思ってもいなかったので少し驚いた。

 カースト一位のキングが三軍の雑魚にわざわざ何の用かと疑問を抱いていると、王道はこう尋ねてくる。


「ちょっと聞きてぇんだけど、お前と蘇芳ってなんかあんの?」


 そうきたか。


「え? なんかって……なんだい?」


「実は親戚とかみたいな感じ? そうじゃねぇと、蘇芳が佐藤を気にかけるのが意味不明なんだよな」


 ナチュラルにディスってくるね。本人に悪気がないのがタチが悪い。言われた相手が僕じゃなかったら普通に傷ついているだろう。


 まぁ、彼からしたら何で目立たない三軍男子を蘇芳が気にかけているのか謎過ぎるんだろうね。


 さて、どう答えるか。

 答え方によっては王道を敵に回してしまうのでここは慎重にいこう。もし王道に嫌われてしまったら、クラスでハブられてしまいそうだからね。平穏平凡な生活を送るためにはできればハブられたくない。


「僕にも何がなんだか……からかわれているだけだと思うけど」


「ふ~ん、そういや佐藤って蘇芳のこと助けたらしいな。それか?」


「うん、どうやらそうみたいだね。自覚はなかったんだけど」


 と言ってから駅で困っていたところを助けたと搔い摘んで話す。実際はナンパを押し付けられたんだけど、そのことは隠し、彼女が蘇芳だと気付かなかったことも付け加えておく。


「へぇ、お前ってそういうことすんだな、意外だわ。やっぱ蘇芳が美女だったからか?」


「はは、まぁそんな感じかな」


「そうか、“でもあんま調子に乗らねぇほうがいいぞ”」


(そう言うと思ったよ)


 王道は僕に釘を刺しに来たんだ。蘇芳に構われているからって、勘違いして好きになるんじゃねぇよってね。


 蘇芳が僕に絡んでくる時点で、遅かれ早かれこうなることは分かっていた。

 僕が蘇芳とワンチャン付き合えるんじゃないかと思っている、と王道は考えているんだろう。だから釘を刺しに来たんだ。雑魚は分を弁えろってね。


 だから僕は、王道に誤解されないように否定しなければならない。


「調子になんか乗ってないよ。僕は全然、蘇芳さんのことは何とも思ってないし。僕がそう思うのも烏滸がましいっていうか、僕じゃどうなったって彼女とは釣り合わないしね」


「そっか……まっ、そりゃそうだよな。いきなり悪かったな、2ゲーム目も楽しもうぜ」


「うん」


 自虐混じりに否定すると、王道は納得したように僕の肩をポンと叩く。

 話はそこで終わり、王道はそのままトイレに向かう。

 僕はもう一度手を洗い、トイレを出た。


(ふぅ……)


 胸中で深いため息を吐く。

 何とか誤魔化して王道から敵認定されることだけは避けられた。あの回答次第では僕のモブ生活が詰むところだったから、内心は冷や冷やだったよ。


 本当に蘇芳アカネは僕にとって厄介な存在でしかないな。

 もう八神でも王道でもいいから、早く蘇芳を堕としてくれ。心より応援してるからさ。


「佐藤君」


「日和さん?」


 王道とのやり取りで喉が渇いたので茶を買っていると、突然日和に声をかけられた。


 まずいな、日和と関わるのは【モブの流儀その1 ああいう連中とは絶対に関わってはならない】と【モブの流儀その5 女子生徒とはなるべく会話を避ける】に抵触するからできるだけ避けたい。


 避けたいけど、声をかけられてしまったからには無視することもできない。


「どうしたんだい?」


「えっと、あの……」


(何だ?)


 僕から尋ねてみるも、日和は口ごもってしまう。口ごもるということは話しづらい内容なのだろうか。

 また八神についての恋愛相談だと凄く面倒なんだけど。

 と考えていると、彼女は勇気を振り絞るように口を開いた。


「佐藤君、蘇芳さんにいじめられてたりしてない?」


「へ?」


 話しが突飛過ぎてつい変な声が出てしまった。

 僕が蘇芳にいじめられている? いったいどういう事だ?


「ほら、蘇芳さんって佐藤君によく絡んでるじゃない? それがちょっと、いじめてるようにも見えたから……」


「ああ……」


 成程、そういうことね。

 確かに、傍から見たら蘇芳が僕をいじめているようにも見えるかもしれない。


 言葉って、誰がどのように使うかで意味合いが違ったり捉え方が違ったりする。


 例えば「頑張って」を使う場面として、日和が使うのならそのままの意味で応援しているように聞こえるが、蘇芳が笑顔でと言うと煽ってるように思えない。


 そんな感じで、蘇芳にとっては全然そのつもりはないんだろうけど、蘇芳の高圧的な態度から出る言葉は僕を虐めているように見えているんだろう。


「大丈夫? 佐藤君が言えなかったら、私からそれとなく注意しておこうか?」


(優しいね)


 日和小春は優しい人間だ。

 さっきだって僕が一投目を投げる直前、蘇芳が「ストライクが見たいわね」と言ったが、実はその前に「頑張って」と日和が言ってくれたことに僕は気が付いていた。


 誰も何も言わないから、僕に気を遣って言ってくれたのだろう。優しいにもほどがある。君ならきっと、八神以外の人間と付き合っても幸せになれるだろうさ。


「ううん、大丈夫。僕なら平気だし、蘇芳さんも虐めてるつもりはないと思うよ」


「そう? 佐藤君が平気ならそれでもいいんだけど、無理してない?」


「うん、無理なんかしてないよ。気にかけてくれてありがとう」


「でも、嫌だと思ったら私に遠慮せず言ってね」


「ありがとう」


 遠慮なんかしないよ、僕から君に頼むことは一生ないからね。

 けど、少しだけ気がかりなことがある。彼女は何故、僕を助けようとしたのだろうか。


 日和の性格を考えたら誰かを助けようとすることは理解できる。だけど彼女は、自分から蘇芳に注意すると言っていた。あの蘇芳に、だ。

 日和は蘇芳に物申せるほど心は強くないと思っていたけど、どういった心境の変化なんだ?


 少し気になった僕は、尋ねてみることにした。


「でも、どうして僕のことを気にかけてくれたの?」


「気にかけるのは当たり前だよ。佐藤君には相談を聞いてもらった仲だし」


「そ、そうなんだ」


「うん。あっ、そろそろ2ゲーム目始まるよ。行こう佐藤君」


「あ、うん」


 そう言って歩き出す日和の後についていきながら、僕は頭の中で考えていた。


 相談を聞いてもらった仲……か。

 日和からしたら、佐藤太一ぼくに対してそれぐらい心を開いているということになる。


(厄介だな)


 頼みたいことは一生ないと言ったけど、あれは訂正するよ。


 日和小春。

 お願いだから、僕とはなるべく関わらないでくれないかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ