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24話 ここが地獄か

 



 学生の団体が遊ぶ場所は大体限られている。

 四、五人程度なら街に出て色んなところで遊べるが、二十人以上も集まって遊べる場所なんて余りないからね。けど、実はそれに適した場所があるんだ。


 それが屋内型複合レジャー施設、ラウンド2だ。

 ボウリング、ダーツ、テニス、卓球、バトミントンといったスポーツに、カラオケやクレーンゲームにゲームセンターも備わっている。


 リーズナブルな値段で色々遊べるし、ラウンド2なら多少騒いでも周りに迷惑がかからないから――周りも学生だらけ――、学生にとっては最高の遊び場所だろう。


 という事で、体育祭の打ち上げはラウンド2ですることになったんだ。


 初めは皆でボウリングをすることになり、幹事の体育委員がくじ引きでレーンのメンバーを決める。好きなもの同士で組めばいいのにと思われるが、確かにくじ引きの方が打ち上げっぽいと言われたらそうかもしれない。


 メンバーは六人。

 男子三人と女子三人が2レーン一組という振り分けだ。僕もくじを引いて番号のレーンに向かうと、



(嘘だろ……)



 ボッチになりたくないので山田か野口と一緒が良かったんだけど、運命の悪戯かどうかは分からないけど、考える最悪のメンバーに入ってしまった。


「「「……」」」


 なんとも言えない空気が流れていた。

 そりゃこのメンツならそんな空気にもなるだろう。


 僕の班の男子は僕と、八神陽翔と、王道正隆。

 女子は蘇芳アカネ、日和小春、北条結愛だ。



(何だこの地獄は……)



 最悪のメンバーを一瞥しながら心の中でくじ引きの神を恨む。恨むぐらいは許して欲しい。僕をこの地獄に引き摺り込んだのだから。


 まずは初めに、「ラブコメの主人公」こと八神陽翔。彼は先日、幼馴染である日和小春から告白され、断っている。断った理由は蘇芳が気になっているからだ。


 次に「負けヒロイン」こと日和小春。彼女は幼馴染の八神に告白し振られたばかりだし、蘇芳に関しては恋敵となっている。


 次に「元教室の女王」こと北条結愛。彼女は蘇芳が転校してくる前まではクラスカースト一位の女王だった。


 しかし蘇芳にカースト一位の座を奪われてしまい、それを妬んで蘇芳の体操服を隠したのも彼女で、その後蘇芳に見破られて脅されたと思われる。だから彼女は明らかに蘇芳を避けていた。


 さらに北条は王道のことを好いているのだが、王道の矢印は蘇芳に向けられていて、それについても気に食わないのだろう。

 この中で一番気まずそうにしているのは彼女だ。可哀想に、つい同情してしまうよ。


 次に「陽キャイケメン」こと王道正隆。イケメン高身長で運動能力も抜群の彼は、クラスのボスと言っても過言ではない。彼が「いいよな?」と言えば誰も逆らえないし、逆らったらどうなるか分からない。


 そんな王様キングの王道は、蘇芳のことが気になっているらしい。

 どの程度本気なのかはまだ分からないが、ワンチャン付き合いたい程度かもしれない。蘇芳が気になっているということは、八神とは一応ライバル関係になる。


 次に「性悪クソ女」こと蘇芳は、北条とは体操服の因縁があり、八神と王道からは矢印を向けられ、日和にとっては元恋敵、北条にとっては現恋敵だ。


 この複雑な地獄を作り出している元凶はほぼこいつで間違いないだろう。


 最後に「ただのモブ」こと僕。

 一度恋の相談をされた日和を除けば他のメンツと余り接点はないが、蘇芳とは秘密の関係を結んでいる。


 ただでさえ借り物競争で関係を怪しまれていて、蘇芳から僕に矢印が向けられているんじゃないかと微妙な疑惑がかかっているのに、これ以上勘違いされては非常に困る。


 と、今ざっと説明したように、この六人は何かしらの因縁があり、傍から見たら何角関係だよ……と突っ込まれるような複雑な関係性なんだ。


 だから今、この場では凄く気まずい空気が流れている。北条なんか蘇芳と視線を合わせようともしない。


「どうしたんだよお前等、なんか暗くねーか? もっと盛り上がってこうぜ、なぁ結愛」


「う、うん、そうね……」


 この中では比較的気まずくない王道が口火を切る。流石は陽キャの王、彼にとっては気まずい空気なんか関係ないよね。


「んじゃ俺から行くぜ」


 と、先陣を切る王道は意気揚々とボウリングの玉を持ち、ピンに向かって綺麗なフォームで投げる。ボールはカーブを描き、パッカーンと甲高い音を響かせ全てのピンを薙ぎ倒した。


「よっしゃぁ!」


 一投目からストライクを取り、ガッツポーズをする王道。これには皆拍手をせざるを得ない。北条なんか「正隆かっこいい……」と目にハートマークを浮かべてうっとりしている。


 カーブボールの手慣れ具合を見るに、彼はボウリングを嗜んでいるようだ。


 王道はそのままこっちに戻ってくると、「いぇーい」と一人一人ハイタッチを交わす。


 流石はキング、見事なものだと関心してしまうね。一瞬で気まずい空気を吹き飛ばしてしまった。これがイケメン陽キャの戦闘力といったところか。仮に僕がストライクを取ったとしても、こうはならないだろうしね。


「ほら結愛、お前の番だぜ」


「うん」


 王道が催促すると、北条が隣のレーンに立ち、ぎこちないフォームでボールを投げる。ピンは3本しか倒れなかったが、王道が「いいじゃんいいじゃん!」と拍手で盛り上げ、俯く北条を盛り立てる。


 なんという接待力。彼ならきっと新宿ナンバー1のカリスマホステスにもなれるだろう。というか、このままだと僕が惚れてしまいそうだ。


「次は俺だな」


「ガタでもいいんだよ」


「お、おう。見とけって」


 結局北条の二投目はガタで、次は八神の番。まさか日和から声をかけられるとは思っていなかったのか、八神も驚いた様子だ。


 日和から声をかけたのは僕も少し驚いた。まだ振られて間もないが、彼女としては吹っ切れたのだろうか。それとも気まずい空気を作りたくなくて、自分から行動したのか。


 う~ん、彼女の性格からすると恐らく両方だろうね。


「げっ!」


「何やってんだよ八神~」


「ほら、言わんこっちゃない」


「あはは」


 八神はガタだった。日和はため息を吐き、王道はブーイングしている。全く興味なさそうにしている北条と同じで王道も八神と接点は特にないが、それでも場を和ませようと声をかけている。

 やばいな、王道の手元にシャンパングラスが見えてきたぞ。


「えい」


 八神は二連続ガタで、今度は日和の番。可愛らしい両手投げでボールを放ると、ボールはフラフラしながら一番ピンにあたり、なんと雪崩のようにストライクを取ってしまった。


「おお!」


「やるじゃねぇか日和!」


 これには皆も驚き、場も大いに沸いた。日和も「まぐれだよ」と謙遜しながらも嬉しそうに皆と小さなタッチを交わしている。


「「……」」


 さて、今度は僕の番なんだけど、誰からも声がかからない。


 そりゃそうだ。

 まず第一に、ここにいるメンツは全員もれなく一軍だ。その中に一人だけ地味な三軍とか場違いにも程があるってもんだよ。


 それに加え、僕は蘇芳から気に掛けられていると周りに疑惑をかけられている。恋敵とまではいかないが、八神や王道からは「気に入らない奴」と思われてもおかしくないだろう。北条は単に雑魚ぼくに興味がない。


 さて、ガタは盛り下がるだろうし北条より少ない1、2ピン倒すぐらいにしておこうか。そう思って投げようとした直前、不意に僕に声がかけられる。


「が、頑張っ――」


「ストライクが見たいわね」


「「――っ!?」」


 これまで全く自分から話をしなかった蘇芳が、初めて口を開いたことに皆が注目する。


 まぁこの辺りで何か仕掛けてくると予想していたから僕は驚かないけどね。けど僕の驚いた顔が見れなかったのが悔しいのか、蘇芳はさらに爆弾を投げてきた。


「ねぇ、皆もそう思わない?」


「そ、そうだな! やったれ佐藤!」


「頑張れよ!」


 蘇芳から促されると、これまで沈黙していた王道や八神も慌てて応援してくる。そうされると嫌なことを知っているから敢えてやっているんだ、この性悪女は。

 無視する訳にもいかないし、僕は陰キャな対応で誤魔化すことにした。


「が、頑張ります」


 そう言って、ぎこちないフォームでボールを投げる。ボールはレーンの端を転がり、1ピンだけ倒した。二投目は逆の端ピンを倒し、合計2点となる。


「難しい……」


「ドンマイドンマイ!」


「次だ次!」


 情けない僕の点数に八神と王道が励ましてくれるのが非常にありがたい。僕が席に座るのと入れ替わりに蘇芳が立ち上がる。


「頑張れ蘇芳!」


「ストライクな!」


「ふん……」


 二人は蘇芳を応援し、北条は気に入らなそうな顔を浮かべている。大方、ガタを取って恥でも掻けって思っているんだろう。


 色んな意味で皆に期待されている中、蘇芳はプロゴルファーさながらの綺麗なフォームでボールを投げ放つのだが、カコンと乾いた音と共に“右端の1ピン”だけを倒した。


「お、惜しい惜しい!」


「真ん中な、真ん中!」


「ええ、頑張るわ」


 そう言って二投目を投げるが、今度は左端のピンを倒して合計2点になる。この結果に皆が何も言えず口を閉じている中、本人は自分の席に座り優雅に足を組むと、僕に向かってこう言ってきた。



「“端だけを狙うのって、案外難しいわね”」


(こいつ……)



 僕が気を遣ってやったことを全く同じにして台無しにしたぞ。そしてその一言を言うだけで皆は僕も狙ってやったのかと疑問を抱き、僕に注目する。


 注目されて困っている僕を見て、蘇芳は満足そうに微笑んだ。


 とりあえず、なんとかして誤魔化さなくてはならない。


「えっ、蘇芳さんは狙ってやったんだ。凄いね、僕なんか狙っても真ん中に行ってくれないのに。そう思わない、王道君?」


「あ、ああ……そうだな。つ~か蘇芳、何で端なんか狙ったんだよ。ボウリングは真ん中狙って全部倒すゲームだぜ」


「ごめんなさい、勘違いしたわ。次からはちゃんと真ん中を狙うわね」


 王道に話を振ったお蔭で、おかしな空気にはならなくて済んだ。

 済んだけど、この先もこんなことやられると身が持たないよ。


 はぁ……帰りたい。



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