それってつまり左遷ってことでしょうか
短めですって
全くもって、戦争というのは狂気的である。
もっとも魔王軍と人類軍の戦争は、地球の戦争のような政治の最終手段じゃない。
どちらかが滅びるまで殴るのを止めないという生存競争なのだ。
だから民間人と軍人の区別はない。
人間か、魔族かという区別しかないのだから。
そうやってウダウダと考えていたら、まだ帰っていなかった陛下に声を掛けられた。
「アキラくんは、やっぱり前線向きではないな」
「……そりゃ、事務屋ですから」
「そういう意味じゃないよ。君は敵に甘いということだ」
甘い……甘いのだろうか?
民間人掃討が苦い決断ではない魔王軍の中にあっては、相対的にはそうかもしれないが。
「戦争というものは、そういうものだよアキラくん。誰だって綺麗な手ではいられない。
君だって既に、間接的に人類軍を殺している。手は汚れていないが、君の持っている書類は血のインクで書かれたものだと言っていい」
「……陛下は、大丈夫なのですか?」
「これでも君の五〇倍は長く生きているんでね。もう慣れたさ」
なるほど。悟りはもう開き切っているか。
陛下の割切りの良さはその千年の人生によるもの。たとえそれが罪なき無辜の人類であったとしても、陛下は躊躇わない。
それがこの戦争の本質だから。
「私も、慣れた方がいいですよね。この戦争に」
戦争なんだから、いつまでも綺麗事で済ませられるわけじゃない。
むしろ汚い手を使いまくるのが戦争というものだろう。
だから早くこの環境に慣れないと。
あぁ、侵攻の為に兵站の準備をしないといけない。もうすでにセリホス奪還作戦は採択されたんだから。
けど、陛下がそうさせてくれなかった。
「アキラくん。君は後方に下がりたまえ」
その言葉にドキッと来た。
軍隊において上司から「後方に行け」と言われるときは栄転か左遷かのどちらかである。
そして俺は戦果を挙げてないどころか、司令部の中で攻勢反対を叫んでいた人物だ。となると――、
「……更迭、ということですか」
いよいよそこまで俺はまずったのか。
と思ったが、そうではないようである。陛下が慌てた素振りで手を振って否定した。
「違う違う。そうじゃないよ。君を更迭しようなどとは思いもよらないことだ」
「でも、栄転ではないでしょう?」
「まぁな。ただの転属だと思ってくれ」
「しかしこの時期に急に転属と言われても……。理由をお聞きしても?」
「単純な話だ。アキラくんとオリベイラの仲が嫌悪になりすぎているからさ。
恐らくオリベイラは君と顔を合わすたびに嫌味と喧嘩を吹っ掛けるだろうし、君も今そうやっているみたいに苦虫を潰したような顔をするだろうね」
「……そんな顔してましたか」
「どうやら、兵站局は鏡の手配はしてないと見える」
当然だ。
そんな割れやすくて使い道のない物、余程じゃない限り輸送しない。揺れる荷車の中ですぐにヒビが入って使い物にならなくなるだろう。
まぁ、今の状況だと使い物になっていないのは俺の方なのだろうが。
「ついでだ。リイナくんとレオナくん、それにヤヨイくんも一緒に連れて帰りたまえ。セリホスの抵抗が予想されない以上、兵站指揮官が前線に居る必要も、彼女ら技術陣がいる必要もない。最低限の人員がいればいい」
陛下の言葉は、恐らく正しいだろう。
ここにいても何もすることはないし、することがあっても魔王城からでも出来る規模の作戦だ。
それに、邪念が結構出てくるだろうから。仕事の邪魔だ。
「……わかりました。後方に下がり、兵站を指揮します」
立ち上がって敬礼し、書類を纏める。
ここを去るとなればやることは多い。
居残りの兵站組に仕事を引き継いで、持ち帰る資料と捨てる資料を仕分けしてさっさと出払おう。
そう考えながら会議室から出る直前、陛下に呼び止められた。
呼び止められたと言うよりも、それは独り言とか単なる呟きというものに近かった。
「私は、君のそういう甘いところが嫌いじゃない。だから君には、まだ汚れて欲しくはないのかもしれないな」
「…………」
どう返事をしていいのかサッパリわからず、俺は結局聞かなかったことにしてそのまま扉を閉めた。
感想欄でも結構いただきましたがこの世界線では亡命(逃亡)はしません。
え?その世界線は知らないって?知らなくてもいいんですよ(震え声)
それはそれとして、実は第二章が既に15万字(1冊分の文字数)を超えているんですよね。意外にビビる作者です。そしてバレンタインデーまでには終わらせたかった……(まだまだ続きます)




