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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
2-3.たとえそれが誰であっても
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仁義なき戦い。妥協点もない

 皆様おはようございます。


 本日は魔王城兼魔王軍司令部内の第二作戦会議室から、異世界同時脳内中継で実況して参りたいと思います。



 ……そんな風に現実逃避したくなる俺を許してほしい。


 メモをしているふりして、メモ帳に得体のしれない落書きをするのはどこの社畜もやっていること。

 それと同じだと考えてくれ。


「だから作戦開始地点はピエルドーラ陣地でと、そう言っているだろう!?」

 もう何度目かわからない、輸送総隊司令官で優しいオーク、もとい優しかったオークことウルコ司令官の必死の言葉。


「ダメだ! 作戦実行者たる第Ⅲ方面軍司令部は協議の末にリューカ砦を攻勢発起点とすることとした。そこが最も地の利を得られるのだ」


 ウルコ司令官と反対側に座って反論するのは、魔王陸軍第Ⅲ方面軍の司令官にして純血の吸血鬼であるオリベイラさん。


 この二人が先ほどから激しい弁舌合戦を繰り広げている。


 議論が白熱しているってとてもいい事……とは限らないのです。


 人間である俺が横やりを入れるとさらに議論がこじれそうなため、発言しようにもできない。

 故にどうしようもなく不毛な議論が続いていた。


 このようなことになったのは、皆様ご存知の通り、魔王軍から提出された「小規模攻勢」についてである。


 この「小規模攻勢」の実行自体は、国力、魔王軍の実力、装備の性能や整備状況等を勘案するに「可能ではある」と判断した。


 含みを持たせた判断になったのは「兵站上の負荷が高い地点で攻勢を仕掛けようとしている」と判断したためだ。


 具体的に言うと――、


「そのリューカ砦、丘の上にあって満足に井戸が掘れないってこと知ってるよな? 水の補給はどうするんだ!?」


 である。


「今まで通り後方から運べばいいだろう?」

「リューカ砦は僻地だ! 整備された街道が二本しかなく、一本は道中山越えをしなければならない! そしてもう一方はかなり迂回しなければならないんだぞ!」


 オリベイラ司令官曰く、戦術上ではリューカ砦から攻勢を仕掛けるのが最適であるらしい。


 しかしながら、ウルコ司令官が言うように兵站上の懸念があるのだ。

 街道が整備されて補給処からも近く海軍の支援を得られやすいピエルドーラ陣地を攻勢発起点とするよう、ウルコ司令官を筆頭に兵站部門一同が提言した。


 それにリューカ砦からもピエルドーラ陣地からも、敵の同じ陣地を狙えるし。


 しかし、ピエルドーラ陣地からでは敵陣地までがリューカ砦と比較して遠く、また地の利が得にくいという戦術上の欠点がある、らしい。


 戦術とかそういうものにそこまで詳しくない俺としては、オリベイラ司令官の言葉の真偽がどうなのか判断できない。


「だが、今はちゃんとそれは出来てるじゃないか。何の問題がある?」

「あぁ、今のところは問題ないよ。今のところはな。なにせリューカ砦は偵察と行軍の中継地点に用意された砦で、駐屯する兵が平時五〇〇名しかいないことを考えれば問題はないな!」


「多少兵員が増えただけだ。問題なかろう?」

「五〇〇から二万に増やす予定で何が『問題ない』だ!?」


「それを何とかするのが貴様ら兵站の役割だろうが!」

「無能の子守りをするのが兵站の仕事ではありませんがね!」


「んだとこの豚野郎もう一度言ってみろ!」

「あぁもう一度言ってやるよ、耳も退化したクソコウモリ!」


 この雰囲気、久しぶりだな。前回に引き続き全く嬉しくないが。


 これどうやったら決着つくんだろうか。


「ウルコさん、熱くなり過ぎですよ」


 とりあえず怒髪衝天のウルコ司令官をなだめる。

 さすがオーク、怒った顔はまさに泣く子も気絶するほどの尋常じゃない怖さ。俺も危うく気絶するところだった。


「しかし! あそこまで侮辱されては……!」

「いちいち相手にしてたらいつまで経っても進みませんから、抑えましょう」

「ぐぬぬ……」


 感情論ばかり先行して実の無い話、というか喧嘩をしては攻勢どころの話ではない。

 戦闘部隊と兵站部隊というのは、こういうときいがみ合う仲であるが、本来は仲良く行きたいのだ。


 だってそうしないと仕事が溜まるんだもの。


 そういうわけで、人間である俺も多少は発言しなければならない。


 これも残業を減らすための仕事だ。残業を減らすための会議を夜の九時から始めることよりはまだマシ。


「コホン。とりあえず、双方の要点を纏めまして――」

食糧(にんげん)が喋るな、座っていろ」

「んだとゴルァ! 表出やがれ!」

「アキラ殿、落ち着きたまえ!」


 おおっと。つい俺としたことが。

 表に出たところで非力な人間が魔族亜人に勝てる訳がないだろうに。


 もうちょっと合理的に、感情的にならずに。コーヒーを飲んで落ち着――。


「ふん。貴様らが黙っていれば、我々は今頃勝ち鬨を上げて敵を蹂躙していたと言うのに。兵站局とやらが意味の分からないルールを付け足したばかりに、今じゃ補給もままならぬ。

 まったく食糧が食糧を統括するとは世も末だよ」


 ここでカップを割らなかったのは俺が非力な人間だからだ。オークだったら確実に握り潰していたところだ。


 怒るな怒るな、それこそ相手の思う壺。

 ここで、


「蹂躙されてたのお前らの方だろ! いい加減にしろ!」


 と怒ってしまうと、奴に話にならないと陛下に上申されてしまうかもしれない。そうするとこちらの地位や発言力が弱まるかもしれない……そんな魂胆もあるのだろう。


 だから理性的に、KOOLになれ。


 ……ふぅ。コーヒーが旨くて笑みが零れる。


「チッ」


 そしたら対面から舌打ちが聞こえた。

 俺が挑発に乗らなかったことに対するものだろうか。事実上の相手の降伏。勝ったな。


「……失礼、では改めて要点を纏めます」




---




「で、どうでしたか?」


 兵站局に戻ってきたとき、真っ先に聞いてきたのは意外にもエリさんだった。

 こういうのはソフィアさんと相場が決まっていたから、ちょっと意外である。


「会議は平行線。攻勢に出ると言うこと自体は異論がなかったので、作戦計画書を二つ用意して魔王陛下の裁可を戴くことになりました」

「作戦計画書……局長、作れるんですの?」

「たぶん無理」


 作ったことないよそんなの。

 現代日本で敵軍に対する攻勢計画を立てられるのって、それこそ自衛隊幹部かガチガチのミリオタくらいじゃないか?


 残念ながら俺はそこまで行かない、ライトなオタなんで。


「……どうするおつもりで?」

「輸送総隊ウルコ司令官や戦時医療局長のガブリエルさんと協同で二つの『補給計画書』を立てます。一つは戦闘部隊が提案したリューカ案、一つは私たちが提案したピエルドーラ案です」

「えーっと、それってもしかして……」

「もしかしなくても、戦闘部隊は計画書を一つ作るだけで済むのに我らが兵站局は二つ作って涙目になるんです。ついでに戦闘部隊は既に計画書を策定済みです」


 というか作成したからこそヘル・アーチェ陛下に作戦案を上奏できたのだが。


「…………」

「それともエリさん、作戦計画書作れます?」

「無理です」

「じゃあ仕事しましょうか」

「……はい」


 そう言うわけで、兵站局は二つの補給計画書を作成する作業に入った。


 勿論、兵站局が作戦実行時に楽できるようにリューカ案はこれでもか、というくらい兵站上の不利要素を盛り込む。


 やれ道中の天候が崩れやすいだの、道幅が狭いだの、急峻な地点があるだの、井戸がないだの、現地生産力が乏しいだの、娯楽施設がないだの。


 様々な不利要素をリューカ案で提言して、これを読む陛下に「なんだ、リューカ案は全然ダメじゃないか!」という印象を与えるのである

 卑怯だ、と思われるかもしれないが、どうせ戦闘部隊も似たようなことをやってるだろうから大丈夫、セーフ。それにどれも事実だ。


「ところでエリさん」

「なんでしょう?」

「……ソフィアさんはどこに?」


 作業を始めるにあたってソフィアさんの淹れた美味しいコーヒーが飲みたいのだが、肝心のソフィアさんの姿が見えなかったのである。


 休みでもないのに彼女がいないのは珍しい。


 ていうかここ数日、彼女とあまり喋ってない気がする。事務的な会話はしたが、それだけだ。


 おかげで日々の生活に抑揚がない。


「気になります?」

「非常に気になります……けど、ソフィアさんの個人的な理由であるなら、言わなくていいです」


 俺がそう言うと、エリさんは口元を抑えて意味深に笑う。

 どういう意味の笑いなのかは見当がつかない。エリさんは謎多き女でありそれがまた魅力的でもある。


「ふふっ。じゃあ教えられませんね。すごく個人的な事情ですから」

「ソフィアさんも『個人的な事情』を理由にするんですねぇ」


 彼女がそういう理由で休んだことは記憶にない。

 風邪を引いたとか、有給ノルマを消化していなかったとか、やむを得ない事情で休んだことは多々あったが。


「休み、と言うわけじゃないですから、すぐに戻ってくると思いますよ?」

「いいですよ。なんなら休日扱いにしても問題ありません。ソフィアさんがいなければ補給計画書が作れない、って言う程私は仕事遅くないので」


 エリさんとかリイナさんとかユリエさんとかもいるしね。


「畏まりました。じゃ、とりあえずお飲み物用意しますね。『ソフィアさんが淹れた時程美味しくないコーヒー』と、『紅茶には自信がある私が淹れたミルクティー』、どちらがよろしいですか?」


 エリさんが必死に話すその内容、目と所作は、明らかに後者を選んでほしいのだということはよくわかった。

 しかもミルクの時に身体の一部を強調するのはあざとい。


「コーヒー派なのでコーヒーでお願いします」


 ので、丁重にお断りした。


 俺の決断に、エリさんはしょんぼりとした小声で「わかりました……」と言ってコーヒーを淹れてくれた。そこまで落ち込むか……。今度は紅茶にしてあげよう。ストレートで。




 ちなみに、エリさんの淹れたコーヒーは本当に美味しくなかった。

 やっぱりソフィアさんが最高か。


唐突に『異世界で事務双 ~紙とインクが魔王軍を救う!~』にタイトル変更したくなったんですけど、どう思います?(露骨な感想稼ぎ)


感想400件超えありがとうございます。感想返信が遅い上に適当さ溢れることになってますが許してくださいなんでも浦風。

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