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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
2-2.えっちなのはいけないと思います
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八点の理由はわかりません

「いらっしゃ――あっ、確かアキラさんでしたよね? 今回はお仕事? それともお客様?」

「久しぶりです、ティリアさん。今回も仕事です。ミイナさんはいますか?」


 公認娼館「ミルヒェ」へ二度目の訪問。


 今回は衛生検査ではなく、試作の野外洗濯装置の様子を見に、である。

 大した用事ではないので、リイナさんもガブリエルさんもいない。当然、ヤヨイさんも連れてきていない。


 技術関係の仕事だからいた方が良いのだろうけど、日本には青少年保護条例とか児童福祉法とか児童ポルノ法とか色々ありましてね。


 だから今日は洗濯装置の改善点だけを聞きに来た。それだけだ。


「うーんちょっと待ってね。今ミイナさんは『接客中』だから」

「あぁ、そうですか」


 娼館で「接客中」とは、つまりはそういうことである。

 終わるまで時間かかるだろうけど、できれば挨拶はしたい。


「どうする? 待つ? そ・れ・と・も、お客さんとして私と遊ぶ?」

「いえ、仕事中なんでやめておきます。大した用事じゃないので」


 だからその二つの丘を押し付けるのはやめたまえ。


 ティリアさんを適当にあしらいつつ洗濯装置の問題点を聴取。


「大型過ぎて扱いにくい」

「操作方法がわかりにくい」

「音が五月蠅すぎる」


 など、改善できそうな点をリストアップ。

「洗濯装置に興味を持ったどっかの研究所が私と装置を持って帰ろうとして困ったわ」という情報を適当に「アーソウナンデスカー大変デスネー」と反応してあげる。なんて優しいんだ俺は。


「アキラさんって本当に頑固だよね」

「みなさんが緩すぎるんですよ」

「そこまで興味を持ってくれないと『ミルヒェ』ナンバー2の女としては自信なくし、アキラさんが男かどうかも不安になるわね。……男よね?」

「地球の生物学的には一応男ですが」


 まぁたぶんこの世界でも男の定義を満たしていると思うよ?

 みんなから男として認識されてるのだから。


 あとティリアさんナンバー2なんですね。わかる気がするけど。

 ナンバー1も誰かわかるけど。


「まぁ娼婦に欲情しない人って結構多いから珍しくもないけど、アキラさんの場合はリイナちゃんとか同僚相手でもそんな調子なんでしょう?」

「誰から聞いたんですかそれ」

「兵站局員だっていうお客さんから」


 よし、誰が言ったか見つけ出して火あぶりにしてやろう。

 全くもう、今更だが魔王軍の機密保持能力を疑うよ。ハニトラなんかに簡単に引っ掛かりやがって。


「私も局長さんから色々聞きたいなぁ……ダメかしら?」

「ダメです」

「本当に? 私、あなたに興味あるのだけど」

「そそそっそそんなこといいい言っても俺は動揺しませんかららららね!」

「あ、わかりやすく動揺しちゃってかわいいわね!」


 そらこんな美人に色々と押し付けられて押し倒されそうになったら誰でも動揺しますがな。

 それに興味あるって「人間の味」のことでしょう!?


「でもここまでしてもダメなんだ。さすが店長の誘いを断った男……」

「……それってミイナさんに拒否されたのに自分の誘いには乗ったことでちょっと優越感に浸ろうとしたと言うことですか?」

「ヤダナー、私ソンナコト全然考エテナカッタワー」

「ワー、ワカリヤスク動揺シテテカワイイナー」


 なんだこれ。俺何しにここに来たんだっけ?


「もう、なんで誘いに乗ってくれないかなー。そんなに私、女として魅力ないかしら」

「いや、素晴らしく魅力的だとは思いますけどね」

「誘いに乗らなかった時点で信用できないなー」


 そんなこと言われても仕事中ですので。


「娼館で人気の子と個人的に仲良くて、しかも生娘の妹さんと同じ職場で、しかもしかもその職場には美人がいっぱい! それだけ恵まれた環境に居ながら恋愛もしないなんて異常よ?」

「ティリアさん、一万ヘル渡すのでその情報流した奴の情報くれませんか」

「さすがにお客さんの情報は渡せないなー」


 畜生ッ!

 魔王軍より一介の娼婦の方が機密情報保持能力が高いなんてなんの冗談だ!


「そんなことより、アキラさんはそういうのに興味ないの?」

「なんでそれティリアさんに言わなくちゃいけないんですか」

「だって『私の誘いに乗ってくれない男がいるなんて……』って店長が尋常じゃないくらい本気で落ち込んでたんだもの。ついでに私もへこみそう」

「それは申し訳ないですけども」

「だから私たちの心を慰めてくれるなにか理由があれば無理矢理納得できるから!」

「あ、はい」


 理由、理由ね。


 日本人は基本奥手である、という説明をすれば納得してもらえるだろうか。


 華奢で奥手で女々しくて同性相手でも裸の付き合いを恥ずかしがる日本人男性は世界のゲイにモテるというのはよく聞く話である。

 料理なんかもできればそれはもう百点満点らしい。


「で、どうでしょう?」

「それはニホンジンの特徴であってアキラさんの事情じゃないからなー」

「そう言われてもなー。特に深い理由があるわけじゃないです」

「じゃあ誘いに乗りなさいよ!」


 キレられた。


「……娼婦の誘いに乗ったと知られたらソフィアさん……というか、みんなにどういう反応されるかわかりませんから」


 特にソフィアさんに知られたらそれこそ「養豚場の豚を見る目」をしそうである。

 いやそれはそれでそそるものがあるが仕事にも支障を来すから。


「いっそ全員と関係持っちゃえば?」

「そんなクズ野郎死ねって自分で思います」

「純情ねぇ……」


 いやいや、純情とかそれ以前にラノベ主人公のようにヒロイン全員幸せに、みたいなこと出来ませんて。

 そこまで器用じゃないから。


 それに「あなたと一緒にいるだけで幸せなの!」みたいなヒロインは世の中にはいない。

 いたとしたらほぼ確実に「あなたと一緒にいるだけで(お金がもらえるから)幸せなの!」という意味である。世の中はそんなもんだ。


 相手を幸せにできる自信がない以上、ホイホイ恋愛なんてできませんな。


「うわ、きも……」


 ティリアさんがちょっと距離を取ってそう言った。


「え、そこは『素敵!』って感激するとこじゃ」

「それはない」

「えー……」


 正直にこっぱずかしいこと話したのに本気で蔑まされるような目をされた。

 でも嫌いじゃない。


「ま、八点の理由はなんとなくわかったわね」

「えっ? 八点?」

「うん。八点。店長から言われたでしょ?」


 八点八点……あぁ、とそこで思い出した。


 確かに、前回去り際にそんなことを言われた気がする。男としての評価を散々マイナスされたあげくに加点されて五八点になったうちの八点だ。


「あれの意味わかったんですか」

「まぁ、私も女だし?」

「……じゃあ、ちょっと教えてくれたら嬉しいんですが」


 次回会うまでに答えを出しておく、みたいなことは言ったのだ。

 で、考える暇なかったので全然答えがわからない。


 ので、聞こうとしたのが。


「あー、それはやっぱりアキラさんが気付いた方が良いかもね」

「ダメですか」

「うん。それに『自分で気づいたら』一〇点追加でしょ?」


 ティリアさんは、なぜかそれを強調した。そこまで言わなくても不正はしないから安心してほしい。


 そこまで話した時、店の中の時計が三回鳴った。もうこんな時間か。そしてミイナさんの接客長いよ。ちょっと挨拶くらいはしようかと思ったけど、諦めた方が良さそうだ。 


「じゃあ、これにて失礼します。ミイナさんによろしく」

「うん、じゃあね。宿題は早めに片付けてね」

「はいはい」



あれ、リイナさんメイン話と言いつつリイナさんの出番がそんなにないぞ?

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