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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
2-2.えっちなのはいけないと思います
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公認娼館「ミルヒェ」の日常?

 兵站の仕事とは、軍隊のお世話である。


 そして魔王軍の構成員はほぼ全員魔族や亜人という生命体であり、故に兵士たちの三大欲求を満たさなければならない。


 三大欲求。

 即ち「食欲」「睡眠欲」「性欲」は、ゾンビとかじゃない限り必要なものだ。


 食欲。


 食糧がなければ戦死する前に餓死だ。

 魔族も地球人類と同じように一日三回食事する。つまり一万人の兵士がいれば一日あたり三万食分の食糧を調達して、彼らのいる場所に輸送しなければならない。



 睡眠欲。


 七二時間働けますか?

 答えは無理。ちゃんと寝ましょう。


 そのために兵站局は兵士が休める兵舎などの施設を建設する。

 布団や枕、シーツ、せめて寝袋と天幕を用意して寝床を確保するのである。


 そして最後に性欲。


 皆さんお待ちかねかな?


 軍隊と性欲、というのは非常に厄介な問題である。

 厄介と言っても、他の欲求と比べて調達方法が特殊だとかそう言うのではない。


 食欲の問題と同様、解決法は(言い方悪いけど)「略奪」「お金で現地調達」「兵站部隊が事前に準備」となる。


 ……勿論、本人の意思によらない、文明人らしくない蛮族的な「略奪」なんてしようものなら即決の軍法会議で苦しみに悶えながら死んでしまえ、となる。


 事実魔王軍はそのような行為を厳しく禁じている。


 だけど兵士だって男だ。

 処理をしなければ、犯罪上等でそういうことをする奴らが出てくる。そうでなくとも隊内でなんやかんやをしようとする奴が出てくる。


 たとえ相手が男でもね!

 ほら、鳥籠にオスの鳥だけ入れるとオス同士で交尾するらしいじゃないか。鳥飼ったことないから真実は知らんけど。


 ホモは否定しないが、軍隊内でやると大問題である。特に軍隊特有の「上下関係」がそのような結果を生み出すこともある。


 となると、二つ目の方法として「お金で現地調達」が選ばれる。こちらも簡単なのだが、これもやっぱり問題がある。


 それは何かと言うと、現地で好き勝手に調達されると「性病」という厄介過ぎる問題に直面するからである。


 梅毒、エイズ、淋病、クラジミア、カンジダなど。

 詳しくない俺でもこれだけ思いつく。性病あるいは性感染症というのは日本でも大きな問題になっていた。


 そして性病は、ものによっては最悪死に至る病気だ。


 だからそういう事態を最小限に抑えるためにちゃんと管理しなければならない。


 だから第三の方法「兵站部隊が事前に準備」となるわけである。


「そう言うわけで、この店の衛生状態が基準値を守っているかの検査に来ました」

「うんうん、ありがとう。ご苦労様。お茶入れましょうか?」


 そしてその具体的な例が、ここ「ミルヒェ」のような軍公認娼館、というわけ。


「あぁ、いや、大丈夫ですよ。すぐに終わらせますので」


 精神衛生上、あまり長居したくない空間である。

 既に戦時医療局長たるガブリエルさんが色々見て回っているようだが、俺はそれに同行していない。


 色々事情があって。


 店の中をざっと見ても、いるのは淫魔・淫魔・淫魔である。男性向けなので当然、全員が女性の淫魔、要はサキュバスである。


 彼女たちは男を誘惑してナニをするのが仕事、と言うだけあって、揃いも揃って露出度の高く魅力的な服を身に纏いムンムンとフェロモンを放出している。


「ふーん?」


 そしてリイナさんのお姉さん、ミイナさんは座りながら、これでもかというくらいあからさまに足を組んだり組み替えたりして来る。

 当然、露わになる太腿に悲しい男の性は反応してしまうわけでして。


「もしかしてお兄さん、童貞かしら? どう? 今なら安くするわよ?」


 早く帰りたい。


 普通に誘ってくるミイナさんは、リイナさんとは真逆の性格だ。

 リイナさんがそんなことするのは見たことないし。あと、なんで童貞だとバレたの。


「職務中ですので、遠慮します」

「あら残念。リイナに相応しいか色々見てあげようかと思ったのに」

「リイナさんともそう言うんじゃないから安心してください」

「え、そうなの? リイナが男と一緒にいるの初めて見たのに」


 俺もあんまり見たことない。

 魔王軍内で働いている関係上、リイナさんが男相手に仕事する機会は多いはずなのだが、彼女が積極的に男と関わることはないのだ。


 淫魔なのにね。


「まぁいいわ。アキラさん……だっけ? アキラさんが早く帰りたそうにしてるから、ちゃっちゃと終わらせちゃいましょうか」

「助かります。……でもその前に良いですか」

「なぁに?」

「リイナさん、どうしたんですか?」


 彼女の妹、リイナさんはこの場にはいない。

 入店直後にミイナさんの部下に連行されて何処かへと消えて行った。


「大丈夫よ。別に取って食おうなんて思ってないから安心して。むしろリイナが取って食うから」

「意味がわからないです」

「まぁ、ちょっと待ってね。そろそろだと思うわ」


 とミイナさんが言った瞬間、リイナさんが連行された部屋の扉が開いた。

 中から現れたのはミイナさんの部下の一人だ。


「ミイナ、妹さんの準備万端よ!」

「でかしたわティリア! よかった、用意しておいて!」


 何を?

 てかリイナさんが来るかわからないのに用意があったの? なにそれ怖い。兵站局に来る?


「ほらリイナちゃん、恥ずかしがらずに、ほら!」


 部下の一人がそう言ってリイナさんを部屋から出そうとするも、腕から先は見えない。

 どうやら全力でリイナさんが拒否しているようである。


 しかし垣間見える腕だけで、もうおかしいことがわかった。


「でででも、こんなんじゃ局長様の前には――」

「いいからいいから! 可愛い服着てるんだから男に見せなきゃ勿体ないわよ!」


 その瞬間、部下によって思い切り引っ張られたリイナさんの姿が露わになった。


 白と黒が織り成す、フリフリでゴスロリなロングスカートのメイド服を着ていた。


「あぅあぅあぅ、そ、そんなに見ないでください……」

「え、あぁ、その、すみません」


 とは言っても、見てしまう。

 服には詳しくないが、凄いリイナさんにマッチしているのだ。


 ハッキリ言えば可愛い。「お人形さんのようだ」という表現は、まさに今この状況の為にあるのだろう。


 その考えはどうやら俺だけではないようで、


「キャ――――! リイナかわいい! かわいい撫でたい愛でたい! やっぱりリイナは世界一よね! ねぇ、やっぱりうちで働きましょうよ! リイナならすぐ一番になれるから!」

「無理ですぅ――――!!」


 ミイナさんがリイナさんを思い切り抱き締めて撫でる愛でるわちゃわちゃすると好き放題。

 どう見ても姉妹の健全なスキンシップ――、


「あぁ、かわいいリイナ。くんくん、スーハースーハー」

「なに嗅いでるんですかお姉様! き、局長様が見て、きゃっ」

「もう我慢できない! ティリア! 一部屋確保しといて! ちょっと用事できたわ!」

「畏まりました! あ、なんなら私も混ぜてください!」

「ダメ!」


 ではないですね。ナニをしようと言うのかね。


 このままではリイナさんが大変なことになる。貞操的な意味で。


「あのー、二人とも。お楽しみのところ悪いんですが、こちらのことをお忘れなく」

「あ、いけない。忘れてた」

「でしょうね」

「なんならアキラさんも混ざる?」

「仕事しましょう?」


 公認娼館「ミルヒェ」は、やはり魔王軍の認可を受けていることもあって自由だった。


 ま、まぁ職場の雰囲気が緩いのはいいことだよ。たぶん。


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