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新年だよ! それがどうした!

時間軸は1章と2章の間です。

適当に書いたので細かいこと気にしないでね☆彡

 Happy New Year、諸君。

 新年を迎えたくらいで何がHappyなのかわからないが、挨拶のようなものだと思えばいいのではないだろうか。


 しかし大多数の人間にとってはHappyなのだろう。

 子供はお年玉貰えるし、業種によっては年末年始は貴重な休日だ。


 それは軍隊という機構であってもそう。


 新年を祝う風習は魔王軍にもある。たとえ寿命が長くて生きているうちに数百回経験するHappy New Yearだろうと、めでたいものはめでたいのである。


 新年のために料理が出る。酒も用意される。

 無論軍隊だから警戒はするけど、人類軍も新年を祝っているのか12月末から1月初旬は例年平和な物になるらしい。


 うん、いいね。平和。いいことだよ。

 理由は何であれ、兵達がゆっくり休めることはいいことだよ。


「仕事を増やすだけの定期イベント滅びろ」

「無駄口叩いてないで仕事してください、アキラ様」


 新年を支える兵站局の苦労を無視すれば、本当にいいことである。




「魔石とか魔像とかそういうのはいい、とにかく新年用物資の輸送が最優先です。この際『人類軍の攻勢は考えない』事にしましょう!」

「そうは言ってもよ局長さん、さすがにこの量無理があるぜ!」

「無理でもやるんです!」


 魔王陛下救出作戦「ペルセウス作戦」が終了してまだ1ヶ月しか経っていない。


 陛下の救出という目的は達成したが、魔王軍は大損害を被っている。その損害を補填すべく魔像や魔石、人員の輸送と新拠点の整備という仕事が兵站局の事務的負担を増やしていた。


 そんなところに、新年である。

 陛下はもう退院し体調は万全である、と言ってもつい数日前まで病床に伏していたのは間違いない。


 そんな中「不謹慎」の「不」の字もなく新年を祝える魔王軍兵士の精神の図太さは最早尊敬に値する。


「局長様、新年用の羊肉の在庫がもう魔都の倉庫にはありません。そ、それと羊人族用の食糧が輸送途中に横転して輸送が滞ってるらしいです!」


 そして計画通りにいかないのも定期イベントの恐ろしい所である。いつもと違うから、いつもと違うことが起きる。兵站局が組織として成立して初の新年だから余計に予定が狂う。


 リイナさんの報告は、まさにそれだ


「それはもう買うしかないでしょう。魔都の市場で買えますかね?」

「む、難しいと思います。新年で民需も高まっていますから……」

「そっか……」


 いつもなら「あぁ、そうか、じゃあ違うのを運ぼう」で済む話である。羊がダメなら鶏、鶏がダメなら牛、という感じだ。肉なら何でもいい。


 しかし魔王軍に属する魔族・亜人らはそれぞれ独特の風習を持っている。


 エルフは普段肉を取らないが、新年などの祝い事の時だけ肉を食う習慣がある。

 ドワーフは逆に普段肉をたくさん食べるが、新年は健康を気にして禁酒と禁肉を実行する。


 他にも羊肉を食べる種族や、魚を食べる種族、浴びるほど酒を飲む種族、一部の狐人族は日本の御節料理のようにたくさんのおかずを詰めた料理を提供するなど、その祝い方は様々。


 だから、あらゆる食物や奢侈品は年末年始になると需要が急激に伸びて市価が跳ね上がる。


「エリさん、新年用物資の購入に使える予算はどれくらいですか?」

「あまり多くないわね」


 エリさんは計算機片手に溜め息をつく。

 溜め息をつくたびに幸せが逃げるらしいが、そんなこと言っている暇があるなら金をくれと言われるのが関の山。


「臨時戦費や予備予算に手を突っ込んでも足りませんか?」

「いえ、足りないわけじゃないのよ。ただ『高くつく』じゃない? それに新年が過ぎてもやることはあるのだし。だから、できれば公定価格で買ってくださいな」

「わかりました。というわけでユリエさん、仕事です」

「またかよ!」

「交渉があなたの仕事でしょう?」


 勿論、ユリエさん以外にも渉外担当はいる。が、実績と実力的にはユリエさんを指名するのが望ましい。


「別にいいじゃんかよ、新年くらいさー」

「俺もそう思わなくもないんですけどね……」


 まったく、1月1日とか日付が変わっただけじゃないか。

 なにをそんなに必死になって上司や会ったこともないような人間に「社会常識がそうなってるから」という理由だけで年賀状を書かなければならんのだ。


「でも、こんなことで躓いていたら『兵站局は新年の準備もできない無能』と言われるのがオチですよ。だから頑張って何とかしてください」

「でも、この時期買うとなると高いぜ?」

「公定価格まで値切るのがユリエさんの仕事です。とりあえず羊だけでもお願いします」

「無茶言うなよ……」


 いや、そう言いつつユリエさんはなんだかんだで値切ってくるからね。新年は彼女に休暇を与えよう。


「さて、あとは魚ですね。リイナさん、種類って何でもいいんですか?」

「え、えーっと……特に指定はないです。ただ安物だとクレームになるかも……」


 ふむ。じゃあイワシはダメだな。日本じゃ高くなってたけど、この世界じゃまだまだ安い魚だ。個人的にはマグロも良いな、と思ったが冷蔵冷凍技術が未発達なこの世界では輸送に手間取るだけだ。


 リイナさんによると、輸送中の魚は「漬物」だったらしい。

 ……ニシンのトマト煮漬けの缶詰じゃないよね? 大丈夫だよね?


 まぁ大丈夫じゃないにしても運ばれなかったから大丈夫である。


「ど、どうしましょうか……。魔都から新しく物資を送りましょうか?」


 うーん。

 それも手だが、少し手間だな。唯でさえ人手が足りないのに、それ以上のことはやりたくない。この事故の為に数少ない輸送用魔像が割かれるのも嫌だ。


 第一、今魔都から送り出すと新年にギリギリ間に合うか間に合わないかくらいにつくことになるのだ。


「とりあえず、配送先はどこです?」

「ちょっと待ってください……っと、ガルゴート砦の第44羊人族連隊です」

「ガルゴート砦? どっかで聞いたな……」


 うーん、どこで聞いたんだっけな。最近いろんな仕事があってどうにも思い出せないのだが……。

 そんな時、ソフィアさんが俺の代わりに思い出してくれた。


「あぁ、もしかして、海軍の方から要請があったアレではありませんか?」

「……うん?」

「ほら、新型艦の……」

「あぁ!」


 思い出した。

 数日前、人類軍相手に制海権をいいように取られて海人族のゲリラ戦に頼るしかない無能海軍様が作った沿岸哨戒型魔力航行実験艦「ミハエル」の航行試験があるという通達があったな!


 兵站局にも試験航行に使う物資や魔石の要請が来てたのだ。

 そして試験の最終目的地が、確かガルゴート砦のはず。


「ソフィアさん。『ミハエル』の試験日程は?」

「明日からですね」

「よし。ならギリギリ間に合う。『ミハエル』には漁船になってもらおう」


 実験艦「ミハエル」の出発地は当然海軍基地である。そして海軍基地にも軍需物資の倉庫はあるだろう。そこに魚がなくても、付近には漁港があるはずだ。


 そこで魚を買い付けて、「ミハエル」でガルゴード砦まで運ぶ。試験航行が上手くいけば12月30日には砦に魚が届くはずだ。

 元々「ミハエル」は試験航海と共に砦へ物資を運ぶ予定だったらしいし、積み荷を少し変更すればいいだけのことだ。


 海軍の支援を要請する!


「しかしアキラ様、この船は実験艦です。予定通り行くでしょうか? もしいかなかったら……」

「もしいかなかったら、予定通りに航行できなかった『海軍』の責任ですよね?」

「……まぁ、そうですね」

「なら問題なし! リイナさん、ソフィアさん、早速手配してください」


 よし、リイナさんが持ってきた問題はこれで解決、と。

 あとは何事もなく普通に仕事をしていれば何も起きないんだ。頑張れ俺、負けるな俺。年末年始に忙しくなるのは地球でもそうだったじゃないか。


 ……地球にはいないトラブルメーカーの存在を無視すれば、大丈夫だった。


「アキラちゃ―――ん! ごめんね! 試験中の魔道具が暴走して納屋に入ってた開発局の備品が壊れちゃったわ! ちょっと新しく備品入れてくれないかしら!」

「唯でさえ忙しい時に何してくれてんの!?」

「いいじゃないの! どうせ古い備品だったんだから新調するチャンスだと思って!」

「わざとやったのか!?」


 12月末、開発局の実験道具と兵站局のドアが壊れた。南無。

 新調? あぁ、うん、いつかするよ。


「あ、そうだ。ソフィアちゃん、例の件大丈夫?」

「大丈夫です、カルツェット様」

「ん? 何の話です?」


 なにやら二人が仲良く喋っているが、レオナとソフィアさんがそんなことするのか? おかしくね? 何かよからぬことが起きるのではないかと勘繰ったが、


「内緒です」

「内緒よ!」


 と、ほぼ同時にそう答えられてしまった。




 そして迎える大晦日。色々な問題がありつつも、無事新年を迎えられそうだ。

 兵站局も新年の祝う準備をするべきかな?


「アキラ様、ガルゴード砦に行くはずの物資の件なんですが」

「物資の遅れは海軍に言え、と羊人族連隊の人には言っておいてください」

「いえ、そうではなく。実験艦がガルゴード砦で爆沈したようで……」

「……」

「……」


 訂正、新年を祝うのはやめよう。

 こうして兵站局は、ガルゴード砦事件の処理だけで大晦日が終わった。なんということをしてくれたのでしょうか海軍の無能野郎どもは。




 俺はソフィアさんと砦で起きた事件の後処理をしていた。このままでは兵站局執務室で年を越しそうだ。

 これほど感慨深くない年越しは初めてだ。俺らしいと言えば俺らしいが。


 俺ら以外は全員帰宅。新年くらいいいだろう。当直は俺一人で十分だ。


「あぁもう、これじゃ帰れませんね。年明けちゃいますよ」

「……あ、本当ですね。じゃあ仕事を切り上げましょう、アキラ様」

「そうですね。もう帰っていいですよ。新年はゆっくりしてください」


 あとのことは俺に任せて、と言おうとしたが、その前にソフィアさんが俺の言葉を遮った。


「何を言っているんですか? みんな待ってますよ?」

「……はい?」




 魔王城を出て、魔都の夜を歩く。

 既に時間は0時を回り、年明けしている。


「こんなことになるのであれば、事前に知らせるべきでしたね。私は反対したんですが」


 隣を歩くソフィアさんは、吐く息を白くしながらそう呟いていた。鼻の先がちょっと赤い。


「……何の話ですか?」

「此方の話ですよ」


 そう言って、彼女はこちらに振り向いて笑みを浮かべた。


「アキラ様、今年は――いえ、去年はお世話になりました。あなたのおかげで、私は救われました」

「……急にどうしたんですか」

「言いたかっただけです。感謝しているので」


 本当に他意はない、そんな笑顔だ。


「なら俺も言いますよ。私もソフィアさんに助けられました。ありがとうございます」

「ふふっ、どういたしまして」


 そう言った後、ソフィアさんは歩を止めた。

 そして彼女は「ここが目的地だ」とポーズして、そこに入れと促す。そこはなんも変哲もない、ただの家のように見える。


「こちらです。きっと、みんな待ってます」

「……はい?」

「いいから開けてください」

「はぁ」


 言われるがままに、とりあえずドアを開けた。

 なんも変哲もない家にいったい何があるのかと不安を覚えながら開け――、


「ア――――キ―――ラちゅわ――――――ん!」


 一瞬の判断で閉めた。

 派手な音がドアの裏で聞こえる。


「家間違えました、ソフィアさん」

「いえ、大丈夫ですあってます。間違ってるのはあの人だけです」

「なら納得ですね」


 もう一度あけると、目に映ったのは涙目のレオナが女の子座りしていた光景である。


「酷いよ! 折角私が温かく出迎えようとしたのに!」


 ぷんすか! という効果音がよく似合う態度でそう怒るレオナだった。

 その背後から、見覚えのある面子が数人やってきた。


「だからやめた方がいいってオレは言ったんだ。局長さんドン引きじゃねーか」

「そうよ。それに局長は私と大人の時間を楽しむためにここに来たんですから」

「え、えりさん! 新年からそういうのはだだだだ、ダメですよ!」

「え? 私は別に大人同士お酒を飲みましょう、って思っただけよ?」

「ふぇ!?」

「エリー、リイナあんまりいじめんなよー」


 ユリエさん、エリさん、リイナさん、そしてその背後には兵站局のメンバーがいた。

 何の変哲もないと思っていた家の中は、周到に偽装された宴会会場だったようだ。


「あのー、ソフィアさん。混乱しててちょっと状況がわからないんですが」

「ここまで来てわからないんですか?」


 お恥ずかしながら、混乱の極みにある俺にはちょっと難しい質問なのだ。まぁ普通に考えれば新年会か何かだろうけれど――


「これは当然、――忘年会ですよ」


 ……はい?





「というわけでみんな! 局長さんが遅れたせいで、局 長 さ ん の せ い で 、年が明けたけど今から忘年会を開始するぜ! 酒は持ったか!」

「「「いえーい!」」」

「アキラちゃんのせいで2時間もお酒の前でスタンバイさせられてたのよ! 浴びるほど飲むわよみんな! 今日は私の奢りだから! 店も貸切よ!」

「「「おおおおおお!」」」


 テンションの高い勢の双璧を成すユリエさんとレオナの司会によって、その宴会が始まった。


「よし行くぜ! 乾杯プロージット!」

「「「「「乾杯プロージット!」」」」」


 そして俺はついに状況とテンションが呑み込めないまま、酒を呷ることになったのである。


「って、局長さん! 今なんでグラスを床に叩きつけたんですか!?」

「え? 乾杯プロージットって言ったら普通グラスを床に叩きつけるでしょう?」

「聞いたことない風習ね……」


 乾杯に始まり、死ぬほど苦労してかき集めた物資と同じものを使った料理が並べられる光景を見ると、仕事思い出す。

 あぁ、あの件どうしようと考えてしまう。


 でもみんなは、そんなこと気にせず豪快に貪り食う。他人の金だから遠慮がない。


 俺はそんな兵站局の皆を眺めながら、ソフィアさんと並んで端っこで酒をちびちびと飲んでいる。


「アキラ様」

「なんですか、ソフィアさん」


 酒に強いはずのソフィアさんが、顔を赤くしながら言った。


「……今年も、よろしくお願いします」

「えぇ、こちらこそ」


 俺も、顔を赤くしているのだろうか。




 たまには、こういう忘年会も悪くない。







---




 翌日。


「あ、頭が……」

「うぅ……」

「昨日、私何してましたっけ……?」


 兵站局メンバーは一部を除き、玉砕した。


「アキラ様、使えない人たちは放っておいて、仕事をしましょうか」

「はい、そうしましょう」


 やっぱり、新年は滅びるべきである。


あけおめ

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