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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
2-1.魔王軍は遅れてる
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憧れの人に出遭います(保護者随伴)

 押し切る形でミサカさんを説得した俺たちは早速、彼女の所属する組織を新たに魔王軍内に設置する準備をする。


 人員は、元魔都第二研究所所属のリイナさんや、渉外担当ユリエさんのコネを使って集めた。

 それを魔王軍の中の新しい開発局として財務大臣から「新型魔像の性能評価及び人類軍兵器の研究調査費用」の名目で予算をふんだくってやった。


 無論、レオナからの妨害がないようにして。


 あれよあれよと土台は整い、一ヶ月ほどで狐人族ヤヨイ・ミサカさんを主任研究技師とした新開発局が設立。


 でも名前が「新開発局」では味気ないし、既存の開発局と混同する。


「というわけで『ミサカ設計局』でいいですよね?」

「えっ……」

「「「異議なし」」」

「あの……」


 設計局幹部職員の衆議により「ミサカ設計局」が誕生した。些か赤い名前だが問題はない。


 とりあえず経営安定化のため、魔都第二研究所で開発された魔力計算機を改良させたものの生産を発注しといた。

 ちなみにこの改良型を開発したのは他でもないミサカさんです。


 そしてそれと時を同じくして、新型魔像の性能評価試験の日が来た。名前はまだない。


 以前行った性能評価試験同様に、鹵獲した人類軍兵器を相手にどこまで有効かを見て、さらに戦闘部隊の意見を取り入れつつ性能を調整する。


 現時点においては、開発局の作った魔像しかないためここでずっこけたら新型魔像はない。


「これでダメな評価だったらどうなるの?」

「既存の魔像を生産するしかねーな」


 レオナの質問には、そう答える以外ない。まさか欠陥品を生産するわけにもいかんのだから。

 だが近い将来、それは解消されるかもしれない。


「ふーん、まぁ私の魔像は大丈夫、なんだけど……」

「なんだけど?」

「その子、なに?」


 そう言ってレオナは、俺の横で相変わらず恥じらいもなく体育座りをしている幼女を指差した。

 今回は横なので俺は注意しないよ、気になるけど。


「隠し子?」

「ちげーよ」


 俺はこんな利発そうな天才幼女を生み出せる遺伝子は持ち合わせていない。


「前に言っただろう。開発局に入れようかと思った新しい技術者さ」

「あぁ、そう言えば先月あたりにあったわね」

「そうそう、それ」

「その子がどうしているわけ?」

「今は新しい設計局の主任技師官をやってもらってるよ。既に何個か新しい装備を開発してる」

「は?」


 レオナは疑問符を浮かべるが無視。いやお前がいらないって言ったんだ。文句は言わせんぞ。


 と言っても、魔力計算機なんかのちょっとした備品が主なのだが。


「……まぁいいけど。レオナよ、よろしく」

「ヤヨイ・ミサカです」


 ミサカさんはぎこちなくレオナと握手した。


「ん、よろしくねヤヨイちゃん!」

「…………よろしくおねがいします」


 ミサカさんは表情に出てないけどわかりやすく嬉しそうな顔をしていた。わからないのはレオナくらいなものだろう。


「まぁこの天才レオナちゃんにはどうせ勝てないだろうから、せいぜい私の作った魔像を見て勉強することね! 試験で用意された人類軍塹壕陣地なんてお茶の子なんちゃらよ!」


 立ち上がり、ない胸を張り、そのまま試作魔像の下へ駆け寄るレオナ。


 いつも通りウザったい奴だな。でもこんなレオナでも憧れているミサカさんは、きっとそうは思わないのだろう。


「……アキツさん」

「うん? なに?」

「…………想像と違う」


 ボソッと辛辣な事を言う幼女。

 主語はなかったが言わんとするところは明白である。


「まぁ、よかったんじゃないかな。技術力はともかく、人となりは大した奴じゃないってわかったのだから」

「……ん。よかった」


 よかった?

 はて、よかった要素はあるだろうか?


「これで気兼ねなく、こてんぱんにできる……」

「お、おう」


 意外と闘志のある子だ。


 そして次の言葉で、それは明確な事実となる。


「ねぇアキツさん。あの魔像、コンセプトはなに?」

「……あぁ、えーっと確か……」


 やばい、ミサカさん怒ってるよこれ。


 バカにされたこと、相当怒ってらっしゃる。

 しかしその怒りのパワーで以ってレオナを倒すのなら、その怒りを抑えるようり煽った方が良い。


「『あの』レオナが作った魔像のコンセプトは、防御力を重視して人類軍の強固な陣地を突破する兵器、いわば塹壕突破兵器だ。その上で戦闘部隊に対して火力支援をする魔像であるらしい。たぶんこのままだと採用されるね」


 コンセプトと言っても、今までの魔像は塹壕乃至防御陣地を突破するための兵器として開発されてきた。

 今回もその延長線にある。


 この上で、魔像が意思を持って敵味方を判別し脅威順に排除していくシステムであれば良いのだが、さすがにそこまでの意思能力は魔像にはない。


 意思によって発動する魔術でさえ、つい最近までできなかったのだから。


「問題点は、ある?」

「色々あるよ」


 魔像性能評価試験の最終評価はまだだが、いくつか不安なところがある。


 まず第一に「既存の魔像と構造が似通っているから兵站上の有利となる」ということを売りにしている試作魔像だが、そもそも既存の魔像自体が手のかかる代物なのである。


 確かに整備性も改善されてるし生産性も良い。

 でも元が手のかかる魔像なのだから、それを改善と見るべきかははっきり言ってわからない。


 第二に、火力の向上にはつながっていないということ。


 試作段階では火力は据え置きだが、量産化に当たっては却って火力が下がるという懸念がある。

 それは魔像に魔術を使わせるだけの魔力リソースがギリギリなのだ。


 試験場はかなり環境の良い戦場だが、実際の戦場の環境ではそうはならない。

 なまじスペックが高いだけに、戦場と言う負荷の高い環境にあの魔像がスペック通りの性能を出せるのか……。


 スペックは高いけどスペック通りの性能が出ることの方が珍しい、なんてどこぞの英国戦艦みたいなことは御免こうむる。


「他にも色々あるけど、大きなのはこのふたつかな。必要であれば、後日最終評価の紙を設計局に送っておくけど」

「お願い」


 ミサカさんは頷いたが、彼女の目は俺を見ていなかった。


 その目は彼女の抱える本の上に置かれた紙に集中している。

 質の良いとは言えない紙であるが、そこに描かれているものは、明らかに兵器の設計図だった。


 魔像性能評価試験で魔像の弱点を見極めつつ、すぐにそれを克服する兵器をその場で設計するなんて、普通じゃない。


「その兵器、いつできる?」

「一週間あれば一個はできる。二週間あれば、数を揃えられる」

「じゃあ二週間後、その兵器の性能評価試験をして、あのレオナの魔像の性能と比較したいんだけど、どうかな?」


 恐らくコンセプトは同じ「塹壕突破兵器」となる。

 しかし同じ兵器を二種類用意するなんて、兵站上の負荷を考えると容認できない。


 だったらやることはひとつだ。


「……大丈夫。再来週までに、用意すればいい?」


 静かに、抑揚なく答える幼女の目には確かに闘志の炎があった。


「あぁ。必要な物があれば、兵站局が用意するよ」

「…………ありがと」



 あぁ、再来週が楽しみだな。


 なんてたって、魔王軍初の「競作(トライアル)」が行われるのだから。


大変だジャン・ルイ。ストックがないんだ

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