俺だってできない
これまでのあらすじ。
人類軍占領地域を無事見事に解放することに成功した俺たち魔王軍は、現地統治機構構築の為に、そして兵站局の権限拡大の為に日々邁進していたところである。
「おー、すごーい。これだけ離れててもここまでの精度で飛ばせるんだねー」
しかしながら占領統治は前途多難。今まで奪われる側だった魔王軍が、奪う側になったことでそのノウハウ不足が露呈する。
それ故に、現地にコレット・アイスバーグさんやガブリエルさんなどを派遣して、情報収集を頼んだ。そして俺ら兵站局はその情報を基に支援やら統治機構の完成を目指している。
「人類軍から押収した資料によれば、これは対空射撃演習用の遠隔操縦対空目標らしいですね。試験用に何機かを現地に配備していたところを我々が運よく鹵獲することに成功しました」
「目立った傷もないし、うちの技術で応用できれば魔像ちゃんの信頼性向上にもつながるかもねー」
……はずなんだが、なんかラジコン大会が開かれている。
ここはいつだったか作った、魔都近くにある兵站基地。
そこには数多くの軍需物資の他、前線から送られてくる廃棄品、さらには鹵獲した人類軍兵器やら装備やらが集まる。
その鹵獲兵器に目を付けたMADのレオナに「見学許可ちょうだい!!」と言われては「許可は出すが保護者随伴な」と返すしかないのは至極当然の話である。
こいつ自由にしたら基地が吹っ飛ぶ。
てなわけで、俺とソフィアさんが保護者としてこの基地に来ている。まぁ兵站基地での仕事のついでみたいなもんだ。
子供を持つならレオナみたいな子じゃなくてヤヨイさんみたいな子がいいけど。
今レオナが使っているのは……まぁさっきの会話から予想は出来るだろうが、遠隔操縦のラジコンである。
無人、小型であり、UAVみたいなのとは少し違う。
「これに爆発性の魔石を積み込んで敵に突入させれば、いい感じの誘導飛行兵器になるんじゃないかしら……」
「それって空飛ぶタチバナみたいな感じになるんですか?」
空飛ぶパンジャンドラムってなんか嫌だな……。
「レオナが『見学許可』とか言い出した時は不安しかなかったが、こうしてみると連れてきて正解だったみたいだな」
「ふっふーん。モチのロンである! 学者としてはこういうインスパイアが大事なのである!」
ふんす、とない胸を張って偉そうにするレオナ。ブレることを知らない女である。
けど操縦桿から手を離さないでほしい。ラジコンの飛行ルートがブレてるから。
「まぁ。人類軍もたぶん似たようなこと考えてるだろう。人類軍の持つ、これより大きな飛行機に大量の炸薬をのせて突入させる……ていう」
つまりJ・F・ケネディ大統領のお兄さんの死因だな。
これを有人にしたら、某国の「BAKA」になっちまうわけだが……。
「あり得そうね……。つまりこれは、どちらが先に開発できるかという競争ということ……!」
「兵器の開発競争は異世界行ってもあるんだなぁ……」
そんなこんな言いつつ、レオナは操縦に飽きたのか、別の鹵獲品に興味を持ったのか、操縦桿をソフィアさんに押し付ける。
「え、あ、ちょっ――」
有無を言わさず放り出したレオナは、そのまま鹵獲兵器の山を漁り出す。本当にどこまで自由な女だ。まるで猫みたいだ。猫だけど。
「あ、アキラ様! これってどうやって動かすんです!?」
「たぶんだけど……そのレバーを下に倒せば上昇しますよ」
「下なのに上に行くんですか!? ややこしすぎますよ!?」
あぁ、フライトシム初心者みたいなことを言うソフィアさん可愛いなぁ。混乱するのはよくわかるけど、そういうときはスティックに小さいので良いから飛行機の玩具を貼り付けると理由がわかるよ。
「え、その――こうかな? あれ、倒し過ぎて――」
レオナが華麗に飛ばしていた飛行機は、ソフィアさんに操縦が交替した瞬間よたよたと飛ぶ飛行機に変わった。パイロットの質でここまで飛び方が変わるのか……。
「……こんなに操縦が大変だと、兵器の誘導システムとするのは難しいんじゃないでしょうか……」
なんとか機体を安定させることに成功したソフィアさんはそう言った。
「まぁ、そこは慣れといいますか、練習次第ではあると思いますよ。現にレオナは普通に操縦できてますから」
「……あの方が規格外なんです」
それは激しく同意する。
「しかしこれが実用化され、配備されれば間違いなく戦争は変わりますよ」
多くの砲弾を使う戦争から、ミサイルに代表される誘導システムによる精密攻撃の戦争。まさに大転換点である。しばらく先の話だろうが、戦争は変わるんだ……。
「……アキラ様が来てから、戦争は変わっていますけどね」
ソフィアさんがよたよたと飛ぶラジコンを眺めながらそんなことを呟く。
確かに。思えば、俺が来たばかりの頃は「第一次世界大戦軍 VS 中世ファンタジー軍」という、戦争というよりは一方的な虐殺と言った趣の戦いだった。
これが人類軍と魔王軍の対等の戦いとなっていることは偏に俺の――、
「アキラ様? 如何なさいました?」
「……いや、俺の実績を誇示してやろうかと思ったんだけど8割方レオナのおかげじゃないかなって思って」
「別にいいじゃないですか。兵站とは裏方だと、そう言っていたのはアキラ様ですよ?」
「……それもそうですね」
うんうん。こうやって縁の下の力持ちとして仕事を続けていくことこそ兵站局の本望である。
「…………それはそれとして、アキラ様」
ソフィアさんの、先程までの良い笑顔が引き攣った笑顔に変わっている。なんだろう。俺また何かやっちゃっただろうか。
「どうしました?」
「あの、これどうしたらいいでしょうか?」
これ、というのは間違いなく操縦桿である。あれ、さっきはちゃんと綺麗に機体を安定させてたよね?
が、ソフィアさんの視線の先にあるのは……機首を上げた状態で落ち始めているラジコンである。
「どうしてこうなったんですか!?」
「わ、わかりません! ちゃんとレバーを下げているのに……!」
「あぁ、それが原因ですね! 失速してるんですよ、下げちゃだめです!!」
「え、失速!? なんですかそれは!?」
そうだよね、飛行機知らないんだから失速のことも知らないよね!
「えーっと、確か失速回避にはまずスロットルを――」
「代わってください!」
「なんですって?」
「代わって!」
混乱の極みに陥ったソフィアさんは、ついに俺に操縦桿を押し付けた。こんな絶望的なタイミングで。
「そ、そんな。俺だってできない!!」
「アキラ様にも無理なら誰がやっても無理ですよ!」
そんなことをしているうちに高度はみるみるうちに下がっていく。もう地面との距離はない。
GPWSがあれば今頃警報が鳴り響いていたころだろう。でもあれって「Pull Up」って言うから余計事態を悪化させそうだが、そんなことよりも――、
「どうなるんだ――――!?」
ふらふらと、俺たち目掛けて落ちていく。
こんなの嘘でしょ。何故なんですか……!
「はいはい、アイハブコントロール、っと」
脇から操縦桿を奪われたと思ったら、機体は急激に安定性を取り戻し、地面すれすれで上昇していった。
……いつの間にか、隣にはレオナがいた。
「まったくもう、アキラちゃんってば意外にポンコツなのにいつも偉そうな態度してるんだから。そんな態度で、よく兵站局長がつとまるよねー」
よそ見運転しながらアクロバット飛行をするレオナ。
色々と怖い思いをして俺の腕にしがみつくソフィアさんと、呆気に取られる俺。
「……やはりこの誘導システムは魔王軍には早いと思います」
ワイトもそう思います。
5か月ぶりの投稿になってしまったことを許してほしい。
別作を読んでくれている人には既に言い訳しましたが、新作に集中してたらこうなってしまいました。本当に申し訳ない。
以下、その原因となった小説の露骨な宣伝です
『大馬鹿野郎どもの狂想曲 ― 負け犬貴族敗北者に原作者が転生した場合 ―』
https://book1.adouzi.eu.org/n2940fp/




