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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
6.せんりょーせいさくぅー!
213/216

烏、東へ

 さて、諮問委員会の発足がほぼ内定となったので、兵站局から人員を何人か供出しなければならない。


 それは第一に占領政策という今まで経験したことのない作業で、いかに兵站局本部でフィードバックできる情報を集めるかという点にある、第二に兵站局の権限強化の為である。


 ぶっちゃけ、第二の方が重要。

 如何せん「生存戦争」であるこの人魔戦争、人類は根こそぎ絶滅だと考える連中が多い。兵站局の中でも、全体の7割程度がその考えだ。

 ……もし戦争終わったら「ご苦労だった、君はもう必要ない」と言われて陛下に殺されるんじゃないか、と不安になる。


 まぁ、将来のことはさておき。


 占領地の生産力維持のためにはどうしても人口が必要で、そして占領地に入植を勧める程、魔族の人口は多くないと来れば、やはり占領地の住民を使うしかない。

 生産力のない無限の荒野なんて持ってても仕方ないし、あるものは活用しないと。虐殺なんてやってられるか!


 と言う経緯は理解できるだろうと思う。

 問題は人選である。


 誰を送るか、誰をトップとして委員会に派遣するか。それが問題だ。

 下っ端のお手伝いというか事務員は既に選定済み。どれもそこそこ優秀で、事務を滞らせることはないと思う。

 重要なのはその上。


 兵站局の幹部レベルで……となると選択肢はそう多くない。

 つまるところ、俺、ソフィアさん、ユリエさん、エリさん、リイナさんの5人。


 しかし俺とソフィアさんは魔都で全体を取り仕切るのが役目だ。

 たまに前線や支部へ視察に行ったとしても、長居することはあまりない。それこそ大規模な作戦があって兵站を大規模に取り仕切る必要性があるのでなければ。


 今回の諮問委員会は恒常的に設置される見込み。「局」になったり「省」になったりはあるかもしれないが、基本的にはずっとこのまま。


 だから、俺とソフィアさんは行けない。どちらか片方というのも考えたけど、離れ離れになるのは嫌だという超個人的な理由で却下した。


 となると、ユリエさん、エリさん、リイナさんの3人から……となるのだが、彼女らも今や兵站局を支える重要な柱となってしまっている。

 その後任が決まっているのならまだしも、どうもこういうレベルの幹部候補を見出すのが難しく、あぁもしかしてこれはヘル・アーチェ陛下の人選の素晴らしさに感動すべきなのかと考える次第である。


 というわけなので、準幹部職員からの選定となる。

 仕事が出来て、俺かソフィアさんへの連絡を厭うことなく、また人類に対してある程度の知見を有している準幹部職員……いるのか、そんなやつ。この際、兵站局じゃなくて仲良くしている輸送総隊や戦時医療局からも……とか考えたが彼らと折衝するのも手間だ。

 行け、と言ったら「はい、わかりました」とすんなり行ってくれる、あるいは行かざるを得ないような立場にいる優秀な奴なんて早々いるわけ――、


「ねぇ、ソフィアはいる?」

「……コレット様! 珍しいですね、うちに来るなんて」

「まぁ、そうね。ソフィアがいなければ来ようとも思わないわ」


 …………。


「……なに、そこの人間。じろじろこっち眺めて気持ち悪――」

「いた」

「……はい?」

「コレットさん、所属はどこですか?」

「魔王軍だけど? まぁ、それ以上は特にないわね。無期限奉仕活動中で事実上役無しの雑用係って感じ……え、ソフィア、こいつ何の話してるの?」

「えーっと……アキラ様? もしかして、委員会の仕事任せるとか言いません?」

「任せると言いましょう」

「…………」


 うん、良いところにいたよ。良い人材が。


「コレットさんは曲がりなりにも魔王軍の下で雑用係をしたおかげで事務にも結構慣れてきましたよね」

「や、それはあんたが勝手に仕事――」

「それに役無しというのは色々困るでしょうから人事にかけあって正式に兵站局の下に置くこともできます」

「あんた私の話聞く気ある!?」


 ない。


「それにある意味人類のことをよく知っている人でもある。まぁ、恨み辛みも腐るほどあるでしょうが、それは他の人員も似たようなものですし――」

「何が似たようなものだ殺されたいのか」

「コレット様、言葉遣いが怖いです」

「……ソフィアはこれでいいの?」


 コレットさんに問われ、ソフィアさんは天を仰いで考え込んだ。

 そんな姿を見たコレットさんは、


「な、なぁ、あんた一応私の自称親友名乗ってるのよね? 私が僻地に飛ばされることで悩まないの?」

「アキラ様、これは良い案だと思います」

「そ、ソフィアにまで裏切られた……」


 コレットさんがだいぶショックを受けた様子。その証拠に、烏のような黒い翼がシュンとなるどころかボロボロと羽が落ちていっている。西洋絵画にありそうだな、こういうの。

 こいつ、ソフィアさんにだいぶあたりが強い癖にこういう時ショックを受けるって、もしかして相当なツンデレなのでは?


「『自称』親友って言わなきゃ擁護しようかなとは思ったんですけど……」


 なんだ、コレットさんの自業自得か。ツンデレが理解されずにカップル不成立の流れ、現実でもあるのかぁ。小説だけの話かと思ったよ。


「コレット様を委員会に参加させることはいいと思います。人類に対する知見、事務処理能力を考えれば候補となるのは理解できます。しかしアキラ様、コレット様自体は幹部の経験がありません。いきなりトップに据える、というのはやり過ぎかと……」

「あぁ、それもそうか……」

「それにコレット様が以前何をしたかを知っている人物が、占領地にいないとも限りません。トップとなると顔が結構バレますし、ここはやはり……」

「そうですね。委員会へ派遣するトップはやはり幹部か準幹部から選ぶしかありませんか」

「はい。で、その点に関して実は戦時医療局より提案がありまして」


 そういって、ソフィアさんが差し出してきたのは一枚の紙。


 差出人は戦時医療局のリドワン・ガブリエル。


 内容を超意訳・要約するとこんな感じ。


『東部諸州諮問委員会に自分が参加して占領地の公衆衛生を改善したい。長期にわたって向こうにいるかもしれないから留守番よろしく』


 …………。


「まぁ、あの人らしいと言えば『らしい』のか……」

「元々はお医者様ですからね」


 そういや、戦時医療局設立挨拶の時も、市井の医療・衛生問題にも取り組みたいとか言ってたっけ。それを実践すべき時が来たと言うことなのだろう。

 天使族の名に恥じぬ天使ぶりである。どこぞの烏は見習ってほしい。


「わかりました。私の権限だけではどうこうするのは早いですが、『OK』と伝えてください。ついでに『留守番は任されてやるから、子守を任せる』とお願いしておいてくれますか?」

「畏まりました。そのように」


 そう言ってソフィアさんは早速書類作成に移る。

 俺も魔王陛下や人事に、今回のことを通達して根回しをしておかないといけない。


 そして俺とソフィアさんが揃って事務仕事に戻ったあたりで、


「あれ、もしかして私が行くこと既に決定済み?」


 と、やや顔を引き攣らせていった。


 その通りでございます(exactly)

というわけで今回のメインキャラはコレット・アイスバーグになります。

元人類軍のスパイなのに人類の統治を手伝えと言われたコレットの運命は如何に。

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