占領政策
「せんりょーせいさくぅー!」
「…………はい?」
「乗ってください」
「何に?」
ということで、生存……じゃなくて、占領政策のお時間です。
占領政策とは、アメリカが南部諸州で失敗してゲリラを作ったり、アメリカがベトナムで失敗してゲリラを作ったり、アメリカがアフガニスタンで失敗してゲリラを作ったり、アメリカがイラクで失敗してゲリラを作ったりする一連の流れのことである。
……地球、大丈夫だろうか。第三次世界大戦とか起きてないかな。
もう戻れなさそうな祖国に思いを馳せながら占領政策について考える。
祖国と言えば、日本も第二次世界大戦後にアメリカの占領統治を受けた。そして何かの奇蹟が起きて国民がゲリラ化して紛争が起きたりはしなかった(多少はあったかもしれないが)。
一歩間違えれば地獄の黙示録、誤ることなく行けば所得倍増計画である。
「そういうわけで、前途多難ですが、占領統治をしっかりやっていきましょう」
兵站局の会議で、開幕劈頭そう音頭を取る。
この会議は、まだ「常闇の宴作戦」から数日後のこと。
戦後処理、特に戦線の再整理と新規補給・連絡線も整備に関する議題が主だったが、それは一段落ついている。
まだまだ混乱が消えたわけではなく予断は許さない状況だけれども、息をつく暇くらいはできた。ので、こうして兵站局の幹部・準幹部メンバーを集めて占領政策に関する会議を開く余裕が出来た。
ちなみに今回の作戦において獲得した地域を一括して「東部州」と呼ぶことになった。いや別に旧来の地名があったのだが、占領地全体を差す地名がなかったし「占領地」じゃ味気ないということで魔王陛下が命名した。
東部州も結構味気ないと思うけども……。それに東部と言いつつエリア的には大陸中部だ。
「けどよ局長さん、占領政策なんて面倒なことしないで全員ぶっ殺せばよくね?」
「なんてことを言うんだユリエさん」
「そ、そうだよユリエちゃん。それはちょっと過激すぎるよぉ……」
うんうん、やっぱりみんなそう思うよね。リイナさんの言う通りそれは過激――
「せめて追放くらいにした方が……」
「リイナさんも大概だった」
「ふぇ?」
なんてこった。小悪魔と思わせておいて本当の悪魔だったとは。ふんわりクズとかいう新ジャンル、嫌いじゃあないぜ!
いやでもまぁ、虐殺から追放になっただけマシか。どっちも失敗国家のお家芸ではあるが。
「コホン。局長、リイナや……まぁちょっと過激な意見とは思いますがユリエの意見もわからなくはないですわ。作戦が終了直後にも陛下が『占領地における人間への虐殺・暴行・略奪、その他暴力的行為の禁止』を通達されましたし……」
「ていうかその通達出したの、局長さんの助言じゃないか?」
はいそうです。私が言いました。
占領政策に関しては事前に人間の言葉を研究し会話集を某コレットさんに作らせたりしたからみんな納得したのかと思ったが、ここまで不思議に思われるのは想定外である。
それも仕方ないのか。この戦争は元々。種の生存をかけたものだし。もしかしたらある程度の暴政を敷いて魔王の権威と威光を見せつけるためと思われたのかもしれない。
「やっぱり同じ人間だから?」
「同情とか共感とかがあるのかしら」
と、皆が口々に言う。
なるほど、そう思われているのか。
「……まぁ確かに、私が同じ人間に対して全く同情や共感を感じないと言ったら嘘になります。ですが今後も魔王軍が進撃し、占領地を広げたとき、同じようなことをやっていては困るかもしれないということです」
これは人類軍への心理的な予防線を張るのが目的。
魔王や魔族が人類に恐れられているのは彼らにとっては誇りなのかもしれないが、それだと永遠に戦争は終わらないと考える。
けど人類と魔族が対等であることを見せれば、友好的とは言えないまでも対等の国家として関係が築けるのではないだろうか。
「野蛮な地に住む文明の思想を受け付けない野蛮な魔族という印象が人間たちのなかにはある。それを払拭するのが占領政策の目的なのです!」
「よくわかんねぇ……」
「それにあわよくば人間たちと仲良くなれば東部州における生産力は向上し、また人間たちの技術を吸い取れるかもしれませんよ!」
「……局長、もしかしてそっちが本音ですの?」
うるせえ、どっちも本音じゃい。
「まぁ、そういう事らしいので……皆さん、アキラ様のやろうとしていることにご協力願えますか?」
「『そういう事らしい』って……ソフィアさんは事前に知らされていたんですか?」
「えぇ、まあ」
ちらりとソフィアさんがこっちを見て、ちょっと気まずそうにした後目を逸らす。
「……ふーん」
「ユリエ様? なんですかその目線」
「べっつにー?」
何でもないわけないだろというユリエさんの目、なぜかふんわり笑顔のリイナさんに、瞳を濁らせ徐々に表情筋が死に絶えていくエリさん。
なんだこれ。
……まぁいいか。ソフィアさんかわいいから。
俺はわざと咳を2度3度ついて、話を戻す。
「そういうことなので、まずは皆さんにその物騒な思考を捨てさせます。占領地に住む人間たちを人道的に……」
「ジンドー的って……?」
ええい、そこから説明しなきゃいけないのか。
本当に野蛮人かよお前らぁ!
「ユリエ様、要は『隣人と思え』ですよ。友人と思えなんて無理難題は言いませんので、まぁ、せいぜい嫌いな隣人くらいには思っていてください。ユ……エリ様やリイナ様とかの性格からして、嫌いだからというだけで殴ったり殺したりはしないと想像できませんか?」
「なぁ、なんで今オレの名前を言いかけてやめたんだ?」
「…………」
「目を逸らすなぁ!!」
うん、いや、気持ちはわかるけどソフィアさんそれは失礼だよ……。
ユリエさんは嫌いというだけで殺したりはしなくても殴ったりしそうだなんて、思って良いけど言っちゃダメだよ。
「まぁなんだかんだと言いつつも対処法は簡単です。占領地においては普段通りに業務を行い、且つ住民への犯罪行為は控える。……とは言えゲリラが潜伏している可能性もあるので油断はしない」
「…………むずくね?」
そうだよ? 難しいよ?
そのうち無限パルチザン祭とか開催されるんじゃないかと思うと今から嫌気がさしてくる。
「占領地での警備、警邏などの警察活動は憲兵隊が行います。当該地はまだ前線付近だったということもあり住民は少ないですが、既に大規模な植民がはじまって万や千の単位で人が住んでいる地域もあります」
いつぞやの震災の時に知り合った議員さんも言っていたことである。
前線近くにダイヤモンド鉱山があり、それ目当てにやってきた人間たちが植民してきたのである。ダイヤモンド鉱山じゃなくても、鉄、銅、ボーキサイト、ゴム、石油などの戦略資源や、金、銀などの貴金属鉱山もあるかもしれない。
その辺に関しては既に調査を始めている。まずはそういう鉱業や、農業を中心に内政を考えないといけない。
「些か兵站局の仕事とも思えませんが……」
と、エリさん。彼女の言うことはごもっとも。どちらかと言えば内政に携わる者の仕事だろう。
「けど、占領地ですからね。ゲリラ活動があるかもしれませんし、魔王軍も大量に駐屯している。捕虜も大量にいる。なにかと軍が関わっている地域ですから、兵站局が管理するのが得策なんですよ」
とはいえ、素人であることは確かなので内政のプロを魔王陛下に頼んで招聘することにはなると思う。素人考えの政治や経済は破滅を呼び込むだけだ。どこぞの失敗国家みたいに。
「仕事がまた増えるのには変わりないんですよね……」
ソフィアさんのジト目が痛い。
「……内政部から何人か異動させるよう人事に要請を出していますから、その、じきに来ますよ」
「だと良いんですけど」
「き、きっと来ますって!」
なんだかんだ、兵站局も人が増えてきたじゃないか! だからちょっとは信用してくれないだろうか。それに、兵站局の負担が極力減る努力は既にしている。
「内政部からの応援が来た段階で、占領地での統治を担当する新しい部局――仮名ですが『東部州魔王軍政府』――が設立予定です。命令系統や組織図なんかはまだ未完成ですが、もし設立が決定した時には兵站局から何名か出向してもらいます。またその際、兵站局の業務が滞らないように、今ソフィアさんと計画を立てているところです」
「そうですか……でも出向になったら……うぅ、嫌な響き……」
エリさんがお腹を押さえてそう言った。何があったんだろうか……。エリさんも出向予定者リストに入っているのだが、やめておいた方がいいかもしれない。
「コホン。まぁ、今の所概況はこんな感じです。これまでに何か質問のある人は? ……特にないなら、細かいことを話していきたいと思います」
そんなこんなで、会議は進む。ところどころ阿鼻叫喚があったがいつも通りなので大丈夫だろう。たぶん。
……そしてその一週間後。紆余曲折を経て、占領地の内政を指揮する「東部州諮問委員会」が魔王軍の外局として設立されたのである。
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