ひとり立ち
短めですがキリがいいので投稿することにしました。
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それと、2巻の発売が決定しました。
TOブックスより2月9日発売予定です。よろしくお願いします。
いつのことだったろうか。
自分が、直接聞いた話だっただろうか。それとも、誰かからの又聞きだっただろうか。
だいぶ前アキラ様が、こんなことを言った。
『兵站とは待つ仕事なんですよ。最善を尽くして、結果を待つだけ。まさに「人事を尽くして天命を待つ」ですね』
と。
私はその言葉を、前から理解してきたはずだ。
ペルセウス作戦の時も、震災の時も、その他の雑多な作戦の時も。何度も何度も最善を尽くして、その度に待っていた。
けれど、私は真に理解していなかったのかもしれない。
所詮は責任を取るのは全てアキラ様だと、心の中で思っていたのかもしれない。失敗しても自分のせいではないと、卑怯なことを思っていたのかもしれない。
そして今、私は彼の言葉を真に理解していると思う。
「……こんなにも、待ち遠しいと思ったことは今まであったでしょうか」
「恋の話ですか?」
「ひゃい!?」
いつの間にかリーデル様が脇に立っていました。
これが昔ミサカ様から聞いた「シノビ」という奴でしょうか。
「なにか陰鬱な顔をしていましたので、つい」
「心臓が止まるかと思いましたよ……」
「局長みたいなことを言いますね」
くすくすと笑うリーデル様。
この人と会話をする時、気を抜くとどうにもこの人のペースに巻き込まれてしまう。
「で、何が待ち遠しいんですか?」
「……これと言って、面白い話ではありませんよ?」
「良いですよ。準備が終わって、暇になったところですから」
そう言うリーデル様の背後、執務机の上にはかつてほどの書類の束はありません。ほとんどの決裁が終わって、小休止できているという状況。
そして作戦中で、結果がわかるか、何か事が大きく変化しない限り、そのままで大丈夫だという状況。
「準備が終わって……私達は前線の彼らに託した。いえ、託してしまった、というのが……」
「慣れないってこと? 今までも何度かあった気がしますが……」
「今までと決定的に違う点があるんですよ」
アキラ様がいないということ。
責任を取るのがアキラ様の役目と言ったけれど、なんだかんだ言って、今までの私はアキラ様の指示で動いていた。震災の時くらいか、私の責任でやったことと言えば。それも一瞬だったし、緊急時だったということもあって慌てる暇がなかったと思う。
けど、今回は決定的に違う。
アキラ様からの権限委任に始まり、作戦立案、そして兵站計画策定に、兵站側からの要請による作戦の変更……こんな大きなこと、今までなかった。
それを、全て私の責任で動いている。
何度も書類には目を通した。それこそ穴があくまで。
完璧だと理性で思い、そして心のどこか、感情的な何かが「まだ欠落があるんじゃないか」と答えを探し回って……結局間違いを見出せずにそのまま実行した。
「そろそろ、会敵する頃合いでしょうか」
リーデル様は私と一緒に窓の外と時計を交互に見やる。
窓の向こうに見える山を超え、さらに数十マイラ先にある海の、さらに沖合。いいところなしの魔王海軍と、人類海軍の決戦が行われているかもしれない。
……そう言えば、アキラ様は魔王海軍を信用していなかった。
海軍と言えば失敗続きで、戦力拡充の時にも一悶着あって、肝心の海戦には連敗続き。今作戦でも南海制海権の奪取に失敗して、補給計画が破綻する始末。
もしアキラ様があの会議の席上にいたら、海軍に雪辱を晴らす機会を与えただろうか? どうにも想像がつかない。
でも、陛下はあの会議で言っていた。
『これは私の考えではないから』
と。
陛下がそんなことを言う時、だいたいはアキラ様が入れ知恵している。今までもそうだった。
たぶん、これからも。
「いつも、私は助けられてばかり……ですね」
私はいつになったら、ひとりで立ち上がることができるのだろうか?




