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レオナ技師がやってはいけないことリスト

 攻勢予定日が近づくにつれて、作戦会議の数が多くなっていくのは仕方ない。

 個人的には実入りの少ない会議より事務処理をしたいのだが、実戦部隊の連中にしてみれば「こういう作戦なんだけど君達兵站局は本当に万全な体制を保証してくれるんだろうね!?」ということが気になる模様。


 で、毎回「善処します」と返す私。それでいいのかと言われることもあるが、完璧なんて言葉は兵站世界にはない。あるとしたら「どこで●ドア」を発明した後である。たぶんあぁいう物質移転装置が開発されたとしても兵站に悩まされることになるのだろう。


 ……でも欲しい、あの未来道具。レオナの作る意味不明な魔像なんかよりあっちの方がいいに決まっている。


「そんなおとぎ話に出てくる架空の物品を語るよりも、収納魔術について語る方がいくらかマシでしょうに」

「それはそうなんですけど、兵站局としてはその話をせざるを得ないんですよソフィアさん」

「はぁ……」


 実のない会議からの帰り道、廊下でそんなくだらない話をする。


 作戦会議には基本的には私が出席するわけだが、助手となる相方はその日によって違う。

 いつもはだいたいソフィアさんなのだが、会議の日程によっては彼女が前線視察に言っていたり休暇を取っていたりするので、そういう時はエリさんだったりユリエさんだったりリイナさんだったりする。


 エリさんだったら会議終了後も仕事の話をする。間時間も真面目に働く姿は彼女らしいと言えばそうだ。

 ユリエさんだったらだいたい仕事の愚痴かくだらないことを話す。仲の良い同僚と言う感じ。

 リイナさんの場合はあまり話しかけてこない。こちらから何か話題を提供する必要がある。


 ソフィアさんの場合、上の三人を混ぜたような感じになる。いつもはエリさんと同じ反応だけれど、何も言わない時もあれば、ソフィアさんの方からジョークを言う日もある。


「そんなくだらない冗談は仕事を終えてからにしてほしいものです」


 まぁ、だいたいはこんな感じだけれども。


「仕事はいつ終わりますかねぇ……」

「戦争が終われば、まぁ終わるんじゃないですか?」

「それもう終わらないんじゃ……」


 伊達に1000年も戦ってないよこの世界。

 そんなこと言っているうちに、兵站局執務室前に到着。扉を開ければ待っているのは仕事熱心な部下とそうでない部下と、仕事されるのを待っている大量の書類である。

 開けるのはいつも躊躇するのだが、ソフィアさんはそんなこと気にしない。


「まぁ、そんな未来な話は目の前の作戦が終わった後にゆっくりと話し合うとして――」


 とソフィアさんが対レオナ・カルツェット用魔術防護金属製ドアノブに触れた瞬間に、ピタリと止まった。

 彼女がこんな反応をするときは、だいたいヤツが中にいる時だ。


『だから――が――――で、それに――が必要なんだけど――――』


 扉の向こうから聞こえるのは聞き覚えのある声。できればあまりこの部屋で聞きたくない声。


 珍しく扉を開けるのに躊躇しているソフィアさんに代わって、俺が開けると……、


「だからそのことに関しましては私たちの一存では……局長の許可がないと」

「よし、じゃあアキラちゃんをさっさと呼んで! 会議がなんだ、大して何もしないくせに!」

「そりゃカルツェットさんからすればそう……、あ、局長……」

「アキラちゃん! いいところに来た!」


 ま、コイツだよな。

 レオナ・カルツェット、魔王軍最大のトラブルメーカーだ。


「アキラちゃん聞いてよ! まったくもうここにいる人って頭でっかちばっかりなんだから! ……でもアキラちゃんもそうか。ソフィアちゃんも……」

「つまみ出すぞ」

「ごめんごめん冗談だから首根っこ掴まないで」

「ったく……で、何の用だ?」


 俺が聞くと、レオナはふふんとない胸を張る。


「よくぞ聞いてくれた! そう、アレは私が朝に飲むコーヒーを準備していた時のこと……」

「簡潔に」

「人類軍をぶっ飛ばす!」

「簡潔過ぎだバカ」

「わかんないわかんない! アキラちゃんの言ってること全然わかんないよ! 簡潔ってなに!?」

「わかりやすく」


 なんなんだその中二病を理解できない女の子みたいなキャラは。お前自体がその存在に近い癖に何を言っているんだ。


「マジカルスぺシャルレオナちゃん質号ってあるじゃない?」


 なんか知らないうちに7体も作られてたのかアレ。ちょっと予算超過してない? 大丈夫? 監査部買収とかしてないよね?


「で、そのマスレがなに?」

「マスレじゃなくて……まぁアキラちゃんの略称がダサいのはいつものこととしてそんなことよりマジカルスペシャルレオナちゃんの話! あれを戦略の基幹に据えるのよ!」

「……はぁ」


 まぁ超強力な兵器を戦略の中心にするのは間違いない。

 核兵器とか、原潜とか、空母とか、昔の戦艦とか、それあたりだろうか。


「で?」

「それで、そうなることを前提にマジカルスペシャルレオナちゃん捌号の開発許可が欲しい!」

「……具体的な計画書はあるの?」


 まずはそこからだ。具体的な計画がなければうんともすんとも言えない。まぁたぶん却下するけど。


「アキラ様は即行で拒否すると思ったのですが……意外と話を聞いてくれるなんて優しいですね」


 と、ソフィアさんから棘のあるお言葉。まぁ気持ちは即断したいが立場上それではマズイので。


「で、レオナ。具体的な計画書は?」

「ない! でも作りたいから予算頂戴!!」

「「「…………」」」


 え、コイツ今まで俺たちがさんざんやってきた様式を全部無視してきた……? ここまで来て?


「ふふふ、私の大胆な戦略に驚きを隠せないのはわかるけれどここからが本番なのよ。捌号に搭載される兵器は広範囲に攻撃を――」

「待て待て続けるな続けるな」


 こちらが黙っていると、何を勘違いしたのか喋りまくる。もう予算が獲得できたかのような口ぶりで。


「なぁレオナ。大事なことを言うが聞いてくれ」

「ふにゅ?」

「……レオナ、俺たちが黙っていたらそれは大抵『なに言ってんだお前』という意味であって『どうぞ続けてください』という意味じゃないんだ」

「………………えぇ!?」


 お前はどこの財団職員だ。


「なんでそういうの早く言わないの!」

「言わなくてもわかりそうなもんだが……」

「でもいい案でしょ?」

「……計画書がない案は案ではない」


 確かに、ここ最近どうやって人類軍の分厚い正面戦線を突破するかに議論が尽くされているのは確かである。だが技術者からの突飛な技術によってできた兵器を使ってみようなんて、ガイエスブルクで見飽きた戦法だ。

 そしてそれはだいたい負ける法則がある。ハードウェアに頼って勝てた試しはないんだよ戦争なんてものは! って、魔術(ペテン)師なら言うでしょう。


 ……まぁ、この作戦で戦争なんて終わるわけないんだけれども。


「だいたい、こういうのは兵站局の領分じゃないぞ? 戦略の決定は陛下とか参謀の仕事であって俺たちは補佐役さ。予算が欲しいならそっちから――」


 と言ったところで、ヤバいと気づく。さっき言った例も確か「元帥閣下」に提言をしていたような……。いやいや、あっちはフィクションだ。それに今回は時間的余裕もないわけで如何に陛下がカッコいい兵器が大好きなちょろい人だと言っても――、


「詳しく話を聞こうか、アキラ?」

「ひぃ!? い、何時の間にそこおられたんですか陛下!」

「今だが? やはり転移魔術は程々に扱いやすいな。アキラのうっかり思考も読めてなおヨシだ」


 ………………。


「で、誰がチョロいって?」

「許してくださいなんでもしますから……」

「ん? 何でもすると? そうか、なんでもしてくれるのか!」


 ヤバい人にヤバい言質を取られたがそれ以外になんの選択肢があろうか……。


「何、ソフィアくんがいるのに取って食ったりはせんよ」

「不安です……」

「まぁ落ち着け。で、レオナくん?」

「はい、陛下! 聞いていたのなら話は早いですが最初から説明いたしますか!?」

「いや、君の心が全てを言っていたからその必要はない。……そうだ、丁度いい。アキラと共に私の執務室に来るがいい。良いチョコが手に入ったことだしな」

「はい!」「はい……」


 レオナは元気に、俺は不元気に返事をする。もういっそ殺して。


「殺したりはしないさ。ソフィアくんが泣くところなど私の本意じゃないのでね」


 そういうヘル・アーチェ陛下の顔はとても清々しく、一方ソフィアさんは「なに言ってるんだろうこの人たち……」という顔をしていた。ソフィアさんは綺麗なままでいて欲しい。




レオナはねこです。よろしくおねがいします。

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