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レオナ「だからその略称やめて!?」

ちょいと短いかも

「おー……」

「モックアップで知っていたとはいえ……」

「こんな大きいのは初めてですぅ……」


 俺、輸送総隊ウルコ司令、そしてリイナさんは同時に感嘆の声を上げた。最後のリイナさんの台詞が妙にオトナな感じがしたのは種族のせいだろうか。


 魔都の輸送隊基地にいる俺たちの前にそびえるのは大型輸送用魔像の試作1号機。兵站局の悲願であり、開発局が本気を出した結果である。

 百足式の多脚式魔像は小型魔導機関を積んだ牽引八脚魔像+荷台となる四脚魔像で構成されている。四脚魔像は複数繋ぎ合わせることができるため柔軟な運用が可能。


 まさに理想の兵站兵器であるこいつの名前は……名前は……。


「なんだっけ名前。アイツの考える名前はセンスがないから覚えてらんねぇんだよな」

「え、えっと、資料によると『ぐれーととらんすぽーとまじかるれおな』ですね」


 リイナさんの言葉はカタコト棒読みでなに言ってるかわからなかったが、長すぎるので仕方ない。確かグマレとか言ってた気がする。


「まぁ、例によって花の名前とか植物の名前を付けるんだろう?」


 と、ウルコ司令。

 まさしくその通り。制式採用前なのでまだ考えてないけれど。


「今回はこの……えーっと、グマレを使った試験運用を開始します。作戦までの時間がないので実地試験と輸送作戦は同時並行で行うことになりました」

「あ、あの、局長様。それだとなんらかの機械的不具合があったら……?」

「そうなる可能性大なので、通常の輸送隊の運用員に加えて(数少ない)開発局の技師が同乗します。また修理困難になるような事態が起きても大丈夫なように、重要度の低い物資を運ぶことになりました」

「なるほど」


 とはいえコイツひとつで運べる輸送量は旧来の輸送用魔像の十数倍から数十倍である。今回は量も少なくしているけれど、もしこれが大量投入された暁には人類軍など……ふっふっふ。


「局長様……顔が怖いです……」

「おおっと。……コホン。ともあれ、今回の輸送試験は重要なもの。各部署、各人員は手順を再確認してください」

「了解」「了解ですっ」

「にしても、まだ細かい作戦は決まってないのだろう? 見切り発車で兵站計画を立ててもいいのか?」

「既に複数の案が提出されていますが、そのいずれもが採用されても使われるだろう物資かつその中で重要度の低い物資を中心に運んでいます。また今回は情報漏洩や人類軍の攻撃による破壊を防ぐために最前線までは運びません」

「ま、その方がいいか……数少ない巨大魔像だ。ここで壊されるわけには……」

「えぇ。そういうことです。では、積み込みを始めましょう」

「あぁ」


 こうしてウルコ司令や俺、リイナさんの指示・監督の下、ゴブリンやオークたちによる荷物の搬入作業が行われる。


 この巨大輸送用魔像「グマレ(仮称)」は、その巨大さ故にバランスが結構大事になってくる。つまり前後もしくは左右に重量バランスに偏りがあった場合、輸送効率が落ちたり、最悪の場合、機械の破損や転倒が起きる。

 また途中経由地で下ろす荷物もあるため、その荷物が取りやすいように位置を調整したりする必要もある。


 そのため、どこに何をどれだけ搬入するのか、という計画を立てて、それに従いミスがないようにゴブリンたちを動かさなければならない。


「14564番と19201番の積載場所は1L、1Rですね。それらは一号台車に入れて……そうそう。あぁ、その45680番は載せません。それは次のコンボイ用で――」

「き、局長様! 55211番と14421番の荷物が見当たらないとゴブリンたちが騒いでます!」

「えぇ!? 全部置いておいたはずですよ!」

「で、でも実際ないんですぅ!」


 と、このように初めてのことなのでトラブル続出である。

 まだまだ輸送隊のゴブリンやオークたちの練度は低く、このようなことがあるのが実情。


「とりあえずそれはどこに配置ですか?」

「3Lと5Rです」

「ふむ……5Rはまだいいとして3Lは構造上、後から積み込みってのは難しそうですから……ウルコ司令!」

「どうした、トラブルか?」

「えぇ。3Lと5Rに積み込む荷が行方不明です。待っていても仕方ないので、3Lだけでも入れ替えましょう」

「そうだな。2Rの98611番を4Rに移動させて、4Rの70013番を3Lに入れるとしよう。で、55211番と14421番が見つかったら4Rと5Rを一度に入れるとしようか」


 ウルコ司令は荷物の重量・高さ・重要度・荷下ろし場所、そしてなによりバランスを考慮して位置を変更する。一瞬のことだから簡単そうに見えるだろうが、そんなにパパッとできることじゃない。

 暗算能力が高すぎる。


「よし。二班と三班は積み込み作業を続行。一班は迷子の荷物を探すんだ」

「あ、あの……司令さん……」

「ん? どうした御嬢さん?」

「迷子の荷物がもう見つかったそうです。物陰に隠れて見つからなかったと……」

「…………」


 まぁ、一瞬で無駄な仕事になったわけだが。


 他にも問題がないか、見て回る。

 ゴブリンやオークたちの人員配置は適当かどうか。手持無沙汰な奴がいないか、逆に多忙過ぎる奴はないかを重点的に見る。

 暇してる奴が多いと士気にも関わるしなにより人件費の無駄だ。そこらへんにうろついていたら危ないし、違う仕事を見つけてもらわなければならない。


 また今回はあくまでも輸送試験である。通常のコンボイもあるので、そっちの方も怠れない。


「ダルサ基地方面へのコンボイは今、どうなってます? 出発予定時刻まであと45分ですが」

「芳しくないな。このままのペースだとその倍の時間はかかる」

「……こちらで暇している奴が何人かいますし、人員かき集めて応援を出しましょうか」


 これが終わったら、どうにも見直し作業が多そうだ。特に人員配置と行動計画表の再策定は急務だな。


「あ、あの、局長様。この魔像が量産された暁には、こんな忙しさが毎日待ってるんでしょうか……?」

「…………」

「あのー……」


 攻勢作戦前でどこも人員は足りないけれど、どこからか湧いてこないかな……。魔族なんだからゾンビが湧き出して軽作業を手伝わせる程度のことはできない……できないだろうなぁ……。

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