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会議は叫ぶ、されど進まず

 今日も今日とて兵站業務。

 物理的に血沸き肉躍る最前線とは縁遠い兵站局ですが、攻勢作戦開始前にて魔王軍総司令部のとある会議室は既に大波乱でございま、


「お前ら五月蠅い! 話がまとまっていないのなら会議を開くなァ!」


 した。終わり、閉廷!

 というわけにはいかないので、軽く粗筋。


 大規模攻勢作戦「常闇の宴」作戦の骨子は陛下の手によって作られたことは周知の通り。そこに中級指揮官や参謀らの意見を取り入れて肉付けされる作業をやってきた。

 それに合わせてこちらも兵站計画を立てる訳だから真剣に参加していたのだが、一部の連中……というか、だいたいの連中にとってはそうではない模様。


 連敗続きで辛酸舐め腐っていた魔王軍戦闘部隊にとっては待ちに待った汚名返上・名誉挽回のチャンスであり、なおかつ陛下へのアピールタイムでもあった。

 そして「魔王陛下が概案を作ってくれた=責任は俺らにはない!」と解した一部指揮官……というかだいたいの指揮官が「我こそが先鋒に」「我こそを中核部隊に」という進言という名の功績争いを修飾語たっぷりに行った結果、作戦会議ではなくなった。


 ……ので、我らがヘル・アーチェ魔法陛下が魔王らしさを部下に発揮したというのが冒頭のアレである。


 蜘蛛の子散らして解散となった会議室に残ったのは、ヘル・アーチェ陛下と俺、そして俺を迎えにやってきたユリエさんくらいである。


「おいおいおい、なんだいなんだい。陛下も局長さんも疲れ切った顔してよ。なんかあったのか?」

「なんかがあった……というより、なんもなかったですかね」

「なんもないのに疲れるって意味が――――わからなくもねぇな」


 ユリエさんもだいぶ兵站局に馴染んできたな。洗礼というか洗脳かもしれないけれど。


「どうせ、いつもの縄張り争いだろ?」

「御名答。ユリエさんには有給休暇を申請する権利を上げましょう」

「んなもん最初から持ってるし明々後日に取るよ」

「そうでした」


 どうにも自分から有休を申請するということをしない自分にとって、ユリエさんのような生活は羨ましい……というのはさておいて。


「果たして一体どうしたものでしょうかねぇ……このままじゃ攻勢開始時期に間に合いませんよ」

「そんなの、陛下が決めちまえばいいんじゃねぇの?」


 なに言ってんだ、簡単だろ。とでも言いたげなユリエさん。

 だけれどもそこには弊害もある。俺と陛下の個人的な仲の良さである。


「……俺が陛下をたぶらかして国政を動かしているという噂があるんですよ」

「ほぼ事実だろ」

「事実じゃないですー。私は提案してるだけですー」

「まぁ『たぶらかされている』訳ではないが、私とアキラの仲の良さからそう勘繰ってしまうものも多いのは事実だ。そしてその仲の良さを、そこの男が利用して提案だの上申だのをよくしてくるもんでな」

「やっぱ局長さん、陛下を――」

「してませんよ?」

「しても構わんぞ? 私のベッドはいつでも広い」


 しないって。したら殺されるよ。ソフィアさんとかに。あとなんだかんだ言って陛下からも殺されそうだよ。あの人ソフィアさんのこと大好きだから。


「ハッハッハ」


 俺の心を読んで高笑いするのはさぞ楽しいことでしょうね!


「まぁ、冗談はさておき『組織』というのはいつだって合理性だけで動くわけじゃないんだよユリエくん。時にはこういう、それこそ冗談のような関係性で見なければならないんだ」


 どこの世界も信用商売さ、と陛下は続ける。

 力で以って反対意見を粉砕するのが魔王らしくていいと思うけれど、やはり組織や国家というのはそう単純なものでもないらしい。

 下っ端組織の長としては陛下の手腕というのは見習いたい。


「だからこうして無駄に悩んでるってことか?」

「そういうわけですよ」


 まぁ、本当に切羽詰まったら陛下の強権が発動するのだろうが。


「ところでアキラ。設計局や開発局に頼んでおいた例の新兵器の開発状況はどうなのだ? どんな作戦になるにせよ、アレらが作戦の重大局面に使用することは明らかだろう?」

「あぁ、はい」


 例の新兵器というのは勿論、大規模輸送用魔像と新型の対航空兵器の開発である。


「それに関しては書面でも報告した通り、開発局の方に関しては既に試作1号機がロールアウト。現在各種試験中です。設計局の方は些か遅れが出ています……」


 なにせ最初から迷走していたから、その分遅れている。この分だと攻勢作戦に間に合わない可能性も出てくる。


「航空優勢の確保はこれからの戦争に重要なものだと、私は私自身の身の危険でもって証明した。なんとか開発が完了してくれないと」

「ヤヨイさんには催促しておきます。また毒ガスで重症を負った陛下を見て泣きじゃくるソフィアさんの顔は見たくありませんので」

「同感だ。あの子は笑っていた方が可愛いからな」

「同感です」


 まぁ、笑わずに冷たい目を送ってきてくれるのもそれはそれでアリだけども。


「局長さんが何考えてるかわかるぜ」

「何もいかがわしい事考えてないですよ?」


 いよいよもって読心術を使いこなす奴らが多くなってきた。こちらの方の対策も考えなければならないだろう。人類軍をさっさとふっ飛ばして、レオナに依頼しなくては……。

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