寝室で美女×2と内緒話
ベッドに腰掛ける陛下、そしてソフィアさん。
自分の部屋に美女×2がいて、片方は顔を赤くしているシチュエーションに憧れない男は2割くらいしかいないだろう。
「あ、アキラ様? は、は、は、はじめては優しく――」
「ソフィアさん状況わかってますよね?」
「わかりゃにゃいとでも言いだいんでしゅか!?」
わかってる人はそういう反応しません。
「うむ。少しからかい過ぎたか?」
「責任取ってくださいよ陛下」
「いやぁ、責任取るのは男の仕事――」
「陛下、話戻しましょう?」
本当に何の為に来たのかわからなくなるから。
「そうだな。遊んでいる暇はないしな。一応機密に関わることだ。遮音障壁は張っておく。ついでにソフィアくんに現実を教えてやろう」
「なんてことを」
陛下は軽く腕を振るうと、部屋全体の雰囲気が変わる。魔力だなんだを感じ取れないごく普通の日本人である俺でもわかる。これが遮音障壁か。
「これでばっちりだ。あとはここで何しようが、向こうにはばれない」
「ありがとうございます。んで……ソフィアさん? 戻ってきましたか?」
「……一応」
表情を確認する。
うん、大丈夫だな。ちょっと不機嫌なだけで。
「さて、どこから話をしたものか。ミサカ設計局が携わっている飛竜の性能向上計画に関することでもあるのだが、君達はあの作戦書はちゃんと読み込んだか?」
陛下の問いに、同時に頷く俺とソフィアさん。
魔王軍攻勢作戦「常闇の宴」作戦において重要な部分のひとつが、制空戦に勝利し航空優勢を確保、そして飛竜から魔王軍精鋭部隊を降下させる事である。
要は空挺作戦を行おうとしているのだ。
この空挺作戦において必要なのが、飛竜。そして降下した後の空挺部隊の戦力。
現代地球でも頭を悩ましていた、空挺部隊が重火器を持てない問題は魔王軍においても重大懸念だった。地球ではそれを携行対戦車兵器、空挺戦車、無反動砲が車体を貫通している空挺バイクなどを開発した。
そして魔王軍においては――、
「我々はその際、魔像を降下させることを念頭に置いているのだ」
魔像しかない。
携行兵器はなく、攻撃魔法も個人差があり、バイクもない。どこぞの帝国軍のように特攻、というのも人員を無駄に消耗させるだけ。
だから魔像を空挺部隊で、となるのだが、ここで問題となるのはやはり重さだ。
「飛竜に重量のある魔像を載せることなど不可能。だから収納魔法や転移魔法を使って……と思ったのだが」
「収納魔法は、研究の成果が出ていません。兵站局としてはもう少し続けたいですが……予算が」
「だろうな」
俺の言葉に陛下は嘆息する。
反応を見れば、転移魔法もダメみたいだ。
「転移魔法は……どういう欠点があるのですか? さっき私を殺したくないとか言ってましたが、術師に影響があるのです?」
「まぁ、あると言えばある。転移魔法というのは最高位魔術のひとつで、これを完璧な形で行える者は恐らく私一人だけだ」
さすが世のWEB小説に登場する最強魔法、この世界でも難易度が高いらしい。
「さっき陛下がアキラ様の背後にいきなり現れた所を見ると、陛下が行えば問題ないのですね。しかも相当正確な位置に転移することが可能と思います。陛下が転移魔法で降下地点に魔像を送りこめばいいのでは?」
と、現実に戻ってきたソフィアさんが冷静に分析。
だが、まぁそうは問屋が卸さないだろう。
「ベタな設定では……距離が限定されている、一度行った場所しか行けない、とかですかね?」
「設定というのがなんのことかわからないが、アキラくん、正解だ。有効距離はおよそ1マイラ(約1600メートル)で、一度訪れた場所にしか無理。私ですらこれなのだ。私より魔力のない奴が使えばどうなるかと言えば……」
「悲惨なことになるでしょうねぇ」
「実際なったぞ」
「……まさか試したんですか?」
「あぁ。エルフなんかの魔力の高い死刑囚が10人くらいいてな。そのうち4人はアキラくんのせいで収監された奴らだが」
怖い事を言わないでください。
「あぁ、恐れることはない。奴らは全員死んだよ。安心したまえ」
「……祟られそうな気がしますが」
「その時は私が助けてやろう。怨霊なんぞ見たことはないが、魔王に勝てる怨霊なんていないだろう」
ここまで頼もしい言葉が果たして日本の霊媒師さんや除霊師さんとかに言えるだろうか。
「でだ。話を戻すと、その魔力の高い奴らに転移魔法を教えた。実験台としてな。満足いく結果が出たら死刑を撤回して生かしてやる、と言ってな」
「実験体として?」
「勿論。勿体ないからな」
まるで魔王みたいなことを言いやがる。
紛うことなく魔王なんですけどね、この方は。
「それで陛下、結果はどうなったのですか? 全員死んだということは、やっぱり?」
「あぁ。随分惜しいところまで言った奴がいるが……内訳はこうだ。まず半数の5人は発動すらできず、刑場に直行した」
「うわぁ」
「後の5人のうち3人は完全に失敗。存在ごとこの世から消えた。ある意味『転移』したというわけだな」
ハッハッハ、と高笑いする陛下。ドン引きする我ら。おい、笑えよと言わんばかりにこちらを見る陛下の笑顔が怖い。そんな目で見られても苦笑いしかできません。
「そ、それで、残りの2人は?」
「聞きたいかね?」
「や、やっぱり聞きたくないです」
「転移魔法が発動したのはいいのだが転移先で身体の構築に失敗したのか、1インケ(3センチ)以上の大きさを保てずにバラバラになった。完全な形を残していたのは眼球だけだな」
「聞きたくないって言ったのに!!」
ミンチよりひでえことになったのか。なお、発動した2人が最も高い魔力を持つ奴で、ついでに2人とも俺のせいで収監されたことのある人物だそう。
……この世界に除霊用の御札ってあるかしら。
ソフィアさんは実験体の最期の姿を想像したのか、顔を青くして俺の腕にしがみ付いていた。こういう状況でなければ嬉しいシチュエーション。
「そういうわけだ。収納魔法の研究はカネを消しただけで、転移魔法は術師を消すだけの魔法ということになった」
「……まだ実験を続ける気は?」
「さすがにないな。アキラくんに教わったハンバーグが2日程見たくなくなった」
「でしょうね……」
「ま、今朝食べられたからもう大丈夫だが」
朝ご飯ハンバーグって強いですね。胃とか。
「そういうことだから、君に教えるついでに驚かせようかと思ってな」
「心臓が飛び出すかと思いました」
「私も優秀だと思っていた部下がポロっと機密を漏らそうとする現場に居合わせてしまって頭を抱えたぞ」
「お互い様というわけですか」
「そういうことだな」
HAHAHAHAHA。
「なにを呑気に笑ってるんですか……。陛下、それはつまり、何も進んでいないという事ですね」
「いや、有用な情報も手に入ったよ。さっきの実験体、10人中8人は小石程度の無機物なら転移できたからね」
「むしろそれすら失敗させた2人っていったい……」
「さあな。その無能者は今頃怨霊になってアキラくんを祟る準備をしているだろうから、真実はどうなのかはわからん」
うわぁ、4人がどういう末路を辿ったか知っちゃったぞー?
暫く夜は一人でトイレに行けないかもしれない。
「そんなところだな。報告は以上、何か質問はあるかい?」
「……何かあるかもしれませんが、今は思いつきませんね。ソフィアさんは?」
「私もです。情報の整理や発案などをこの場でポンと出せるほど、我々は優秀ではないみたいですし、それに、少し気分が……」
「…………今日のランチは野菜のものにしましょうか」
「野菜は少し苦手ですが……はい、そうですね。今ちょっと肉は無理です」
狼は肉食獣なのにね、なんでだろうね。
話が終わり、陛下が遮音障壁を解除する。
それと同時に、扉の向こうからは兵站局員の喧騒が聞こえてきた。
『――クソッ! 全然聞こえねぇぞ!』
『たぶん陛下が遮音障壁を使ったんだ! 畜生、局長だけでよろしくやりやがって!』
『あんなパッとしない顔の癖に美女2人を囲うだなんて! せめて声くらい聞かせやがれ! 遮音は局長の声だけでいいからよ!』
『あぁ、あの愛しの天使様、もといソフィアさんを穢すなんて……許せません! しかも陛下まで……! こうなったら、武力行使に出ても正当防衛ですよ!』
『よく言ったアルパ・ワカイヤ! それでこそ男だ!』
『おい、誰か縄持ってないか!? 上の階から縄を使って下りれば、窓から中の様子を覗きこめるかもしれない!!』
『『『天才か!?』』』
『おい縄ってどこにあるんだ!? どこの倉庫に行けばある!? 兵站局にはなんでもあるからどっかにあるだろ! なんでもあるなら盗み見用の道具とかもあるんじゃ……』
『開発局のレオナさんに今から要請すればギリギリ間に合うかもしれません!』
『クソッ! 5万ヘルもする魔石の現物がここにあって1000ヘル程度の縄が見つからないなんて、商品に偏りがあるぞ!』
『兵站局はなんでもあるんじゃなかったのか!』
…………。
「陛下、新しい実験体って入用ですか? 兵站局はなんでもありますよ」
「落ち着け」
銀●英●伝●の新アニメ、あるキャラがイケメン過ぎる以外は面白くて好きです。




