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未来に羽ばたけないミサカ設計局の新兵器

 人生、何があるかわからない。だからこそ面白いのだと、みんなは言う。

 確かに地球でTRPGをやっていたとき、三回連続1ゾロファンブルしたときはファッキンと叫びながら楽しくプレイしていた。


 しかしそれにも限度がある。特に仕事柄、「何があるかわからない」では面白くないのだ。

 面白くないというより、困る。


 ……さて、話は変わるが、今自分はヤヨイさんのいるミサカ設計局にいる。


 ミサカ・ヤヨイという天才ロリは、魔王軍においてレオナ・カルツェットと肩を並べるほどの技術力を持つ女性であり、そしてレオナ・カルツェットと肩を並べるほどの珍兵器メーカーである。


 いや、いきなりパンジャンドラムを作る狐ロリというのはいささかマニアックすぎるので。


 そんな彼女に依頼した内容――正確に言えば、魔王軍飛竜隊が依頼した内容――は、飛竜を強化するための装備、あるいは魔法の開発である。


 飛竜、あるいはワイバーンと呼ばれる生物は、魔王軍における唯一の航空戦力である。

 しかし魔王軍と相対する人類軍は、航空技術を日々磨いている。ちょっと前まで剣闘士(グラディエーター)メカジキ(ソードフィッシュ)のような複葉機と言ったものを飛ばしていたのに、最近はどうも全金属製単葉機も繰り出しているらしい。

 しかも飛竜を上回る速度で飛び回る彼らの航空機は、旋回能力に優れる代わりに魔族が風防もなく生身で騎乗する飛竜に対して一撃離脱戦法を駆使して優位に立っている。


 このままではどこぞの太平洋戦線よろしく、世界最高峰の格闘戦能力を持った戦闘機が猫に追い回される羽目になる。


 そういうわけで、それを解決するための方策を、魔王軍はミサカ設計局に依頼し……、


「従来の飛竜じゃ人類のこーくーきに追いつけない。だからこっちもおなじのつくる」

「えぇ……」


 ヤヨイさんは見事に予想の斜め上、あるいは枠外を行ったのである。


「……ヤヨイさん。一応理由を聞いても?」

「さっき言ったよ?」


 なにか問題でもあるの? という目をしながら首を傾げるヤヨイさん。かわいい。全てを許せる。


「コホン」

「……ソフィアさんが納得できる説明ってできます?」


 隣に立つ狼が怖い。

 狼というのは一度臭いを覚えると地の果てまで獲物を追いかけるのである。少なくともソフィアさんはその気がある。

 ヤヨイさんはジッとソフィアさんを見つめる。双方見つめ合ってハッケヨイ。女人禁制のルールは魔族や亜人と言った者たちにはない習慣である。強さこそが正義。


「……まず人類軍の技術開発ペースははやいの。わたしもスケッチとか墜落したこーくーきを持ってきて研究してるけど、どうしてこれが飛ぶのか理解するのがやっと」


 航空力学という点で、魔王軍は後れを取っている。

 というより、魔法に関する技術以外は全て人類に劣っているのであるが、その中でも最新鋭の科学技術である航空力学は魔王軍にとってさっぱりだろう。


 その中でヤヨイさんは、エンジンから得る「推力」と翼から得る「揚力」によって航空機が飛ぶことを理解した(たまに俺が「確かこうだったはず」という中途半端な知識を教えたりしたが)。


 だから航空機の真似事のような、それこそ今目の前にある時代錯誤も甚だしいミサカ設計局製造の航空機モドキが作れるわけだが……。


「技術もなくノウハウもなく理論も中途半端となりますと、性能が少しばかし不安です。真似事でここまで作れる技術力は大したものですが……これを人類軍相手にぶつけて勝てるのですか?」

「ま、まだ研究途中だもん!」

「それだと困るんですよ。私たちが必要としているのは『技術教科書』ではなく『人類軍に勝てる空戦力』なのです」


 まぁ、ソフィアさんがだいたい説明したとおりである。


 確かにヤヨイさんが言うこともわかる。

 生身の飛竜ではいずれ限界がある。機械力というのが近代戦を生き残る秘訣である。


 しかしだからと言って、人類軍と同じような機械を作って人類軍と同じだけの性能を持つ機械が出来るまで待っていたら、戦争が終わってしまう。勿論、魔王軍の敗北で。


「で、でも1ヶ月あれば……!」

「うーん、これはいつぞやにレオナにも言ったことあるんですけど……ヤヨイさんに言ったことあったっけな? よしんば奇跡的に比較的短期間に『量産可能で』『攻勢時期に間に合う』『人類軍の航空機に匹敵する兵器』が開発できたとして、果たしてそれが活躍するのでしょうか?」


 というのは、兵站的な側面から見たものである。


 旅客機製造メーカーであるボーイング社の製品において、同じく旅客機製造メーカーであるエアバス社が操縦桿を片手で操作できるサイドスティックに変えたのに、ボーイングは一貫して両手で操作する操舵輪を採用している理由と同じだ。


 つまりサイドスティックはサイドスティックなりの利点はあるが、長年両手で操縦することになれたパイロットにとっては、訓練時間を短縮するメリットのある操舵輪の方が全体的な効率が向上するという点である。


 こう言った細かい仕様の違いは軍隊においてもままある話で、それは魔王軍にとっても同じ。


「今まで慣れ親しんできた飛竜を投げ捨てて、新しい兵器を導入することは慣熟訓練の時間のことを考えると、少し非現実的ですよ。魔像とは違い広域に展開するから術師が操ったりするわけでもなく、戦闘機動のことを考えると全自動は弱い」

「……むー」


 ヤヨイさんがむくれてしまったが、ダメなものはダメだから仕方ない。だから泣かないでほしい。幼女を泣かせてしまったらロリコンの神様に末代まで呪われてしまう。


「……まぁ、ここまで言ってはなんですが、これはちょっとミサカ設計局向きの案件じゃないことは確かですね」


 一応、ヤヨイさんのフォローはしておこうと思う。


「そうですね。完全な航空兵器となるとミサカ設計局ではなく技術力やノウハウのある魔王軍開発局の……カルツェット様向きの仕事でしょう」

「でもまぁ、あっちはあっちでこちらから大型案件を持ってってしまったんで……」


 などとソフィアさんと会話していたら、


「いいもん……どうせ勝てないのわかってるもん……」


 ヤヨイさんが本気で泣きそうになったので、それを宥めるのにしばらく時間がかかってしまった。設計局にいるミサカ親衛隊の皆様に殺されなかったのは奇跡としか言いようがない。


 ともあれ、開発局の方はともかくとしてこっちは課題ができてしまったか。そうは言っても技術的なことは専門外だし、どうにかならんもんかねぇ……。



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