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兵站局員にとっての喜び

TRPGしてたら更新遅れました。新章です

 兵站に携わる者にとって最も喜びを感じることはなんだろうか。


 答えは簡単。戦争をしないことである。

 戦争をしなければ、仕事は増えないし基本的なルーチンの繰り返しだ。ついでに新年祝いや魔王陛下誕生記念日とかもなくなれば世界は平和なのにと思う。


 ……まぁ、こんな答えはあんまりなので2番目に喜びを感じることを記す。


 とはいえ、こちらも答えは簡単だ。


「フハハハハハハハハハッ! 見ろアキラ! 愉快、痛快、豪快! 人族がまるでゴミのようじゃないか!」

「……まぁ、ノーコメントで」

「おっと。同じ人族である君に言うのはナンセンスだったな。ま、今更ではあるが」


 そっちじゃない。なんで元ネタ知らないのに大佐みたいな台詞が自然に言えるんだろうかと思ってつい突っ込みそうになっただけである。


 強固に構築された魔王軍の前線司令部。陛下が発動している防護魔法壁の中で、陛下は戦争を指揮している。その傍らで、俺は兵站指揮。と言っても、ここまで来てしまえば部下に丸投げでも構わないってほどに上手く行っている。

 俺が馬車馬の如くこき使われるのは全てが始まる前と全てが終わる時だ。


「アキラ様。リイナ様より連絡が入って、第Ⅳ軍への補給任務終了したとのことです」

「ありがとうございます。順調そうですね」


 前線司令部へと足を運ぶ士官の中で、美人な女性であるソフィアさんが司令部に来るだけで場の空気が変わることがわかる。一番変わっているのは自分だろうけれど。


「……順調、というわけでもありません。リカルア補給廠の備蓄が予定より早く払底してしまいそうなのです」

「うーん、そうですね……。ヴァスタール基地から……と行きたいところですがウィリスの方がいいかな。そちらか物資を回してください。それと魔都の倉庫も備蓄確認を。この調子だと、そっちも心配です」

「畏まりました。各補給廠、基地の物資量の定期報告は徹底させます」

「頼みますね」


 その他、あれやこれやと簡単に指示する。ソフィアさんも優秀な士官だ。一を知れば十とまでは行かないが、七くらいまでは理解してくれるし、柔軟性もある。

 臨機応変こそ兵站局のモットーだしね。


「ふっ。どうやら、兵站の心配はなさそうだな」

「無論です。我ら兵站局、陛下のご期待を裏切ることはございません」


 何度か裏切りそうになったことはあるけれど、この日の為に準備してきたのは間違いない。完璧とはいかないまでも、それに近いことまではできた……と思う。


 あとは戦闘部隊の戦果によって、俺の仕事の成果が決まるわけだ。


「頼もしい限りだ。最初はどうなることやらと思ったが、キミをこの世界に呼んで正解だと思ってる」

「ハハハ。私は別に来たくはなかったんですけどね」

「そういえばそうだったな。迷惑かな? 何なら、送り返してあげようか?」


 陛下の、冗談なのか本気なのかわからない提案に、俺は即座に答えた。


「遠慮しておきます。元の世界での仕事より、こっちのほうがやりがいもあるし……兵站局のひとたちを置いて行くのは嫌ですから」


 偽らざる本音である。ぶっちゃけ、地球のことなんぞどうでもいい。今どうなっているか知らないが、地球よ、俺がいなくても頑張ってほしい。あぁ、でも見逃したアニメの最終話とかが気になることはある……。陛下、アニメスタッフをこっちに呼び出さねぇかな。


「私もアキラ様を送り返されては仕事に支障が出るので困ります」


 と、ソフィアさんは無表情でこう答えた。割と酷い……。


「なるほど? しかしソフィアくん、その言葉選びは間違っているぞ?」

「は? いえ、間違った記憶は……」

「いやいや。間違っている。そこは『愛するアキラ様がいなければ寂しくて泣いてしまう』くらいは言った方がいいぞ」

「はい!? へ、陛下は何を――」

「でも実際そうだろう、アキラ?」

「はい」


 さすが陛下は、こちらの心を読むことが得意のようで。

 ソフィアさんが涙目になりながら「行かないで」と言われたらどんな男でも悶絶する。悶絶しない奴は男じゃない。


「アキラ様もなに即答してるんですか!」

「でも事実ですし……」

「ま、こういう妙なところで可愛げのないところもソフィアくんの魅力だがね」

「……あぅ」


 そう、兵站に携わる者として最も喜びを感じることはソフィアさんの可愛さを堪能する事である。そして押し出されて2番目に喜びを感じることは戦争を起こさないことである。


 ……で、俺は結局何を言おうとしていたんだ。ここにきて急にソフィアさんが1位に躍り出てきたから何を言おうとしたか忘れて――と、そうだそうだ。


 3番目の話だった。2番目の話だった気がするけど不思議な力で3番目になった。


「陛下! 先陣のレボリュツィア師団が人類軍の前線を完全に突破! 現在、同部隊が追撃戦を、後続部隊が残存部隊の包囲殲滅戦を行っております!」

「大変結構! レボリュツィア師団は可能な限り前進し人類軍部隊を覆滅せよ。――アキラ!」

「はい」

「今のうちにレボリュツィア師団への補給と補充の手筈を整えてくれ。予想では、カタルオキアの丘あたりで進軍が停止するはずだ」

「了解です。輸送総隊のウルコ司令官に伝えます」

「――やはり、キミを呼んで正解だったよ」



 兵站に携わる者にとって3番目に嬉しい事。

 それは、自らの仕事によって成果が上がる時。特に、兵站の力で味方が多大な戦果を挙げる時だ。


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