頭文字G 3rd stage
打倒レオナが目標になった我らが兵站局であるが、そんなことを知る由もないレオナは相変わらず兵站局に遊びに来ている。
理由は勿論、民需用ゴーレムの設計改良をドヤ顔したいから。完全にレオナの趣味なのでこっちの意見を聞くという選択肢は彼女にはない。仕事の邪魔だから帰ってほしい。
「前回エフジーちゃんが負けた理由を私なりに解析したんだけどね。原因がわかったわ」
「おう。なんだ?」
「名前がダサいのよ! 『エフジー』なんて負けるわよ絶対!」
「わかったお前本当に帰れ」
こんなことを語られて俺はどうすればいい?
とは言うものの、事情を知るソフィアさんから「自分で蒔いた種なのだから自分で収穫してください」と冷たい目で見られてしまえば興奮――じゃない、従わざるを得ないというものだ。
「コホン。で、冗談はさておきなんで負けたんだ?」
「ここは初志貫徹ということで『スーパースピードラバー・マジカルレオナ号』とかはどうかしら」
「え、お前本当に名前が原因だと思ってるの?」
「一因ではあると思うわ!」
ダメだこいつ。勝てる気がしない。いや勝たなくていいんだけど、なんか違う。
こう、お互いが切磋琢磨してしのぎを削り合った先の勝負でレオナが負ければ感動するし目的も達成できるのだけれども、単純に負けられてしまったら面白くないというか、なんというか。
「アキラちゃん聞いてる?」
「全然聞いてない」
「聞いてよ! あの見た目のダサい車輪を打ち勝つ方法の話してるんだから!」
いやパンジャンドラムはダサくないから。面白いだけだから。
「あの車輪に勝つ方法。それは、単純にパワーをあげればいいのよ!」
「……あれ? 名前じゃないの?」
「名前ごときでスピードが変わるわけないでしょ目を覚まして」
「いや最初にレオナが」
「パワーは全てを解決する。パワーイズジャスティス。魔王陛下とパワー以外を信仰の対象としてはならないのよ!」
なんか怪しい宗教の勧誘が始まった。
その後もレオナは数分程「馬力」について語る。教義は唯一つ。「力が全てを解決する」である。脳筋教と命名した方がいいかもしれない。
「でも再戦場所はまたフォールネーム峠なんだろ?」
「そうよ?」
「……あの峠って、結構傾斜のある坂だよな?」
上り坂であれば、確かに馬力は正義である。
しかし下り坂であれば、重力による加速を受ける分、馬力の差は小さくなる。傾斜がきつければ尚更だ。
んでもって、レオナは下り坂でタチバナと再戦を望んでいるらしい。つまるところは、まんま峠を攻めるあのマンガと同じ状況である。
「馬力の差が小さくなっても0にはならない! 絶対的な性能差が物を言うのよ、マシンというものは!」
「そうかなぁ」
俺の感覚がおかしいのだろうか。まぁ確かにどこぞの豆腐屋レベルのドライバーがごろごろいたらそれこそ「おかしい」のだけれども。
その後、レオナの自慢トークは専門的な単語の羅列になってきたところでソフィアさんが適当に追い出して、本日の「突撃、隣の兵站局!」は終わりを告げる。次回放送日はたぶん明日だ。
「……大丈夫なんですか、これ?」
レオナを追い出した後、ソフィアさんが戻ってきて話しかけてくる。
「まぁ、大丈夫だと信じたい。よしんばレオナが勝ったとしてもヤヨイさんがいるし、それに兵站局や魔王軍の意向を無視してまで好き勝手するような真似はしないでしょう……たぶん」
「アキラ様。アキラ様が『たぶん』と言うと大抵は悪い方向に転がるのですからやめてくれませんか?」
「え、あ、はい」
確かに自分でもそんな気がする。
「まぁでも大丈夫だと思いますよ。勝てば上々、ヤヨイさんが負けたら確かに開発局の暴走が始まるかもしれませんが、魔王軍の予算を使わないのであれば実害はありません!! むしろ競争が始まっていい塩梅に兵器の性能が向上するかもしれないし?」
「それが上手く言った試しもない気が……」
なんだかソフィアさんがげんなりしてらっしゃる。おかしい。完璧な計画のはずなのに。
「行き当たりばったりな気がしますが」
「高度の柔軟性で臨機応変に対処しているんです。兵站の基本です」
再びソフィアさんの溜め息。
「……そんなに落ち込まないでください。事業黒字化の目処は立っていますから」
「黒字化?」
「えぇ。なにせ峠のバトルですからね。またとないチャンスです」
もっとも、これを最初に思いついたのは俺じゃない。
「局長ー、仕上がりましたわー」
間延びした口調でこちらにやってきたのは、兵站局の経理担当、エルフのエリさんである。彼女の腕の中には分厚い紙の束がある。
その紙の束を受け取り中身を確認。エリさんは、この手のことに関してはプロなのでほとんど完璧と言っていい。こちらからの注文と言えば、道沿いに配置される観客席の安全性の更なる確保を要求するくらいだろう。
「それと念のためです。待避所とかも作ったほうがいいですね。あと時間帯は夜は危険ですから昼にやりましょう。下手に観客を怪我させたら大事です」
「畏まりました。では観客席前のスペースは広く取って――」
「ま、待ってくださいお二人とも! 観客? 待避所? いったい何を――」
やだなぁ。聡明なソフィアさんらしからぬ疑問である。
「ソフィアさん。レオナとヤヨイさんが持てる技術力を持って対決するのは今回が初めてではないですよね?」
「え? ……あっ」
気付いたらしい。
いや、気付いてしまったらしい、が的確だろうか?
前回は、タチバナとアルストロメリアのお披露目会、もとい兵器性能比較評価試験の場である。あれは純然たる試験であり派手さはなかった。だが今回は、そのふたつの兵器がモータースポーツ用に改造されてレースをするという、ある意味観客が待ち望んでいたものである。
「賭博、しましょう! ソフィアさんはどっちが勝つと思います? ソフィアさんは豪運の持ち主なので私もそちらに賭けます」
「あ、局長。でしたら私もソフィアさんと同じのに賭けますわ!」
喜々として話す俺とエリさん。
そんな二人を見て、目頭を押さえる狼娘の姿がそこにはあった。
次回、いよいよバトル。




