人類軍の兵站事情 3
彼は帝国の兵站士官から受け取った伝票を見て、自分の目を疑っていた。
「……高くないですか?」
「50ミリよりマシだ」
帝国製45ミリ対魔像砲を極めて合法的に入手したルッツら管理中隊一同。しかし、1門当たりの価格は都市同盟製37ミリ砲より高く、50ミリ砲よりはマシ程度であった。
50ミリ砲と比較して性能が決していいとは言えない帝国製45ミリ砲である。非正規ルートの価格だからこその値段であることはSFも承知しているが、しかし言わなければならない。
「これなら手間とか色々含めて50ミリの方が良かったんじゃ?」
「そうだな。配備されるのが最短でも半年後ってことに目を瞑れば50ミリの方がいいだろう」
「……」
ルッツの言葉に、今日何度目かの溜め息を吐くSFである。
調達数は第45軍団隷下の各対魔像中隊向けで、予備を含めて80門。それに弾薬や各種整備部品、工具などをセットで帝国から非正規且つ合法的且つ継続的手に入れようとすると、値段が跳ね上がる。
「とまれ、50ミリ配備までの繋ぎだと思えばいい」
「……いつになるんでしたっけ?」
「最短で半年後」
「最長は?」
「俺らが死ぬ方が早い」
「…………」
そう言われ、SFは言われた通りの書類仕事をこなすしかなかった。管理中隊本部に戻れば待っているのは全然足りない休暇と大量の書類。難攻不落と呼ばれる魔王軍のリーゼロッテ大要塞よりも攻略困難に見えるソレを前にして、SFは真剣に「書類と辞表、どちらから先に書こう」と悩んだ。
しかし書類1枚目を見た途端に、彼は辞表のことなどを忘れてしまう程に衝撃を受け、再びルッツに相談せざるを得なかった。
「……隊長。これ、なんです?」
「ん? 言い訳」
「『言い訳』? これが?」
そう言ってSFが隊長に見せた書類は、今回の帝国製45ミリ対魔像砲の配備に関する本国向けの書類である。
対魔像砲1門どころかライフルの弾1発に至るまで、全ての装備は官給品であり、国民の税金である。それを事細かに管理するのが彼ら兵站管理中隊の仕事。
装備を受け取ったらそれを本国に報告しなければならない。そうしなければ必要な資金やバックアップを受けられない可能性もあるし、銀蠅などの犯罪を見逃す可能性もある。
が、今回は少々事情が異なる。
帝国製45ミリ対魔像砲を受け取ったはずなのに、書類に書かれている文言はこうだ。
『MG-33 12.7ミリ機関銃弾10万5000発 発注要請書』
「……なんです、これ?」
「言い訳」
それ以外の何がある、とでも言いたげな目を向けるルッツ。
そしてそんな顔をされても困ると返すのがSF。
「あのなSF。よく考えろ。俺らはヤバいルートから武器を得た」
「ヤバいっていう自覚あったんですね」
「しかし物品のアレやコレだ。金はかかる」
SFの言葉は無視である。
「だが非正規ルート。予算がつくわけない。だが金ってのは壺から湧き出すもんじゃない。だから金策をせんとならんわけだな」
「……え、まさか」
「言ったろ、『言い訳』だって」
つまるところ、機関銃弾10万発強は架空の発注である。いや、実際はいくらかは本当なのだろう。
第4517管理中隊が管理している、そして発注している装備弾薬の種類は多い。それらは同じく兵站をつかさどる経理部隊が、本国の軍事予算や諸々の雑収入から予算を与えるのである。
そこに不正がないよう監視する経理中隊。
だが今回、ルッツらはその目を掻い潜って予算を調達しなけらばならない。なぜなら、正規のルートではない上に国家間の問題に発展する事情があるから。
そこで彼らは、数多くの装備弾薬の発注を水増しして経理部隊から多くの予算を手に入れ、帳簿上存在しない予算で帝国製45ミリ砲を調達しようと考えたのである。
当然ながら、とてつもなく犯罪である。
「国民の税金をなんだと……」
「安心しろ。俺も払ってる上に給料天引きで戦時国債買ってる」
給与天引きで国債を買わせることも犯罪であるため、多少の恨みというものがあるのだ。
「それに俺の懐に入れるって話じゃない。50ミリ砲の配備がこんなチンタラしたもんじゃなかったら、こんな犯罪まがいのことしなかったんだぞ」
「『まがい』ってか完全に犯罪ですが……」
「綺麗事で戦争が出来るか! いいからさっさと処理しろ!」
こうして、当該部隊に帝国製45ミリ対魔像砲の配備がされた。
書類上は、重機関銃15挺、軽機関銃8挺、士官向け短機関銃10挺、一般兵向け小銃250挺、旧式の37ミリ対魔像砲10門及びそれら銃砲の弾薬、整備部品、工具、食糧3日分、生活用品、従軍記者向けカメラフィルムである。
「ほらほら、働けお前ら。45ミリ砲弾――もとい、トイレットペーパーを前線に運ぶんだよ!」
「はいはい……明日、前線行きの鉄道って何時でしたっけ?」
「10時半と19時だな」
「じゃあ10時半に間に合うように――」
装備の調達を終えれば、あとはいつもの、日常的な作業の繰り返し。ただ運ぶものが45ミリ対魔像砲徹甲弾っぽいトイレットペーパーと45ミリ対魔像砲榴弾っぽいトイレットペーパーってだけである。
「……何もないところから対魔像砲が出現するの、魔王もビックリな魔法だよな……はぁ」
そしてSFは、SF小説よりも奇怪な現象を前に溜め息を吐いたのである。
「おいそこ! 溜め息ついてる暇があったら仕事しろ! ――ってまた電話か。もしもし? あぁ、お前か――――はぁ!? 『やっぱりいらない』だと!? どういうことだ、こっちはもうブツを用意して――」
そしてまた、いらぬ仕事が増えたことを直感する部下たちであった。
オチなんてないよ(
次回予告
「バカな、オーバースピードだ! 岩の壁に突っ込むぞ!?」「――曲がる! 曲がって頂戴! 私のハチロクゴーレムちゃん!!」「ふざけんな! お前、いったいどこを走ってやがる!?」




