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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
3-3.貴様は祖国を裏切った?
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無茶な事をしよう

 ソフィアさんのために一肌脱ぐ。


 そうと決まれば、あとはお決まりの兵站局ネットワークの出番。

 方々に連絡を取って裏から手を回し、時には正々堂々と交渉する。


 まぁ、専門家に任せることが多い……というより、基本的に俺のやることは全部専門家任せである。


 ソフィアさんに格好よくドヤ顔で決め台詞吐いた癖にこの惨状。

 イマイチ自分が何かを成し得たと思えないが、兵站局の仕事はみんなそんなもんだ。


「あ、あの、アキラ様……」


 通信機を使って連絡をしているその最中。ソフィアさんが不安そうな顔で近づいてきた。


「あの、無理はなさらないでください。これは私の我が儘ですから……」


 ……。まぁ、無理というよりは無茶をしている自信はある。


 スパイとして捕まった者をどうやって助けるかに関してはまだ何も決まっていない。

 クレーメンスさんが俺の考えを知ったら、たぶんガチ切れして「陛下、あの人間を処刑しましょう!」とか言っちゃうんじゃないかとさえ思う。


 ソフィアさんがあぁ言ってしまう気持ちもわかる。


「嫌です。折角ソフィアさんが我が儘言ってくれたのに、それに答えないのは恋人としては失格だと思いますので」


「ちょ、アキラ様!?」


 赤面しつつ慌てるソフィアさん。かわいい。


「好きな人の為になにかしてやろうと思うのは自然なことですし。まぁ、これも私の我が儘ということなので、それに答えてくれると嬉しいんですがね」

「……あぅ。そういうのは卑怯です……」


 いやソフィアさんのその反応が一番卑怯だと思いました。




---



 

 魔王軍憲兵隊本部。


 憲兵隊から兵站局に出向し、そして人類軍のスパイとして捕らえられたコレット・アイスバーグを豚箱に送ったクレーメンスさんは、そのまま憲兵隊で仕事をしている。


 それが彼女の本来の仕事であるし捕獲した本人でもあるからそうなっている。

 おかげで憲兵隊本部に来ても追い返されずに会うことができ、かつ情報を得られる。


「コルネリア――じゃない、コレットさんについては何かわかりましたか、クレーメンスさん」

「……コレット『さん』? 裏切り者に敬称を付けるとは随分変わっていますね」

「癖みたいなもんですよ」

「そうですか。まぁ構いません。遅かれ早かれ彼女は死にますからね」


 死ぬというより、死刑になると言った方がいいのだろうか。

 と思ったら、どうやら違うらしい。


「死刑にする前に死なれてしまうかもしれません。情報もまだ何も得ていないのに」


 コレットさんは、貴重な情報源だ。


 彼女と手を組んで魔王軍内の情報を集めていたジン・スラヴァなる男は既に魔都にはいない。

 彼が潜伏していた魔都郊外にある山小屋は既に炭に変わっていたのだ。


 だからこそ憲兵隊はコレットさんに対して尋問、必要であれば拷問をするはずだった。


 しかしそれも出来ない事情があったという。


「彼女、どうやら錯乱状態にあるみたいです」

「錯乱? っていうと、おかしなことを喚き散らしたりするアレですか?」

「ソレです。精神的に尋常でない者から情報を聞き出すことなんて、不可能だというのが憲兵隊長の考えで、それをどうにかしない限り尋問も拷問もやるだけ無駄です」


 なるほど。想像以上に困った問題だ。


 精神に何らかの異常を患っている者からの情報なんて確かに信用できない。

 そして「死刑にする前に死なれてしまうかもしれない」というクレーメンスさんの不安も、そこから来ている。


「尋問中に自殺を図ったことがあるんです。手錠をし、猿轡をしていた状態にも拘わらず」

「……まさか壁に向かって突進したとかですか?」

「知っていたんですか?」


 いや、地球でそういう方法があることを知っていたから。

 異教徒に塩って言いながら数億トンのヒマラヤの土砂に没し去れた宗教団体の尋問の時に見たんだよ。


「……死んでないですよね?」

「重傷を負いましたが死にはしません。拷問をするために呼んだ医療隊がまさかこんなところで役立つとは思いませんでしたが」


 どんな拷問をしようとしていたのかについては流石に聞けなかった。


 だが憲兵隊がかなり本気でコレットさんから情報を得ようとしているのはわかった。

 魔都にやすやすと侵入され相方には逃げられ、確保に貢献したのが大嫌いな兵站局という一面もあるだろう。


「そこまではまだ、スパイとして最後の抵抗を試みるという見方も出来ますよね?」

「はい。ですがそこからが問題です。彼女、コレット・アイスバーグを牢に入れてまた次の日に尋問、と思ったところで『錯乱』したんです」

「というと?」

「牢の中で、叫びだしたんですよ。いるはずのない弟の幻影に向って怯えたり、物を投げつけたりと酷いものでした」

「……」


 コレットさんも、なかなかの苦労人ということだろうか。

 弟という単語を聞いた時は真っ先に思い出したのが、ソフィアさんの境遇だ。


 ソフィアさんの場合は妹。コレットさんは弟だ。


 そしてソフィアさんは人類軍を憎み、コレットさんは逆に魔王を恨んだ。


 となると原因は陛下にあるということだろうか? 陛下がコレットさんの弟を見捨てたとか殺したとか、そういうことなのか? そんなことをする方とは思えないが……。


「憲兵隊の中には『成果が上がらないのだからさっさと殺せ』という意見もあるのですが」

「ちょっとそれは野蛮すぎません?」

「えぇ。貴重な情報源であることは変わりありませんし、なにより『死なせてやることは殉死になって彼女の名誉を守るだけ』という意見もあるので、彼女の処遇については宙に浮いたままなんですよ。このまま生かすか、殺すかもわからない」


 なるほど。


 憲兵隊はどうやらコレットさんについて扱いに困っているらしい。となると、これはチャンスと言えるんじゃないかしら?


 だが彼女に関しては多くの者達は刑罰を望んでいるだろう。

 そのあたりも考慮にいれて、方々に手をまわしておかないとな。それに、彼女の弟に関して調べる必要もある。


「貴重な情報、ありがとうございます。また何かあったら教えてください」

「畏まりました。……でも、変なことしないでくださいね?」


 ハハハ。しないってば。


 俺の中では変な事だとは認識してないからな!


あと数話でこの章を終わらせたい



それはさておき、逆お気に入りユーザー数が1000人の大台を超えました。ありがとうございます٩( 'ω' )و

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