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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
3-3.貴様は祖国を裏切った?
152/216

廃材利用

短め

 気になることがある。


 そう思ってジンが本国に問い合わせ、返答が来たころには全てが終わっていた。


『政治的な理由って奴だよ』


 暗号化されたモールス電文でフレンドリーに、あるいは規定を無視した返電。


 ジンの上司であり、ジンが所属する情報機関の一局長が直々に発する電文である。

 内容はとても粗雑で、政治的に混乱する本国の有り様を表していた。


『ラジオ聞いてればわかるだろうけど、こっちは地方選挙どころか国政選挙でも与党「統一党」の負けが決まってね。最大野党「革新党」に政権交代するのも時間の問題さ』

「それとこれがどう関係あるんだ?」


 ジンの疑問は短点と長点に変換され電波の海に乗り、遥か遠くの本国へと到達する。

 その時間はほんの一瞬で、返答もまた一瞬且つ明瞭。


『簡単な事さ。「革新党」はリベラルでね。軍需企業と国教会が票田の保守の皆々様と違って、厭戦気分が蔓延してる市民が票田なんだ』

「……それで?」

『予算が組み直しになる。教育された諜報員を使って大規模なスパイ網を作るという作戦に予算がつかなくなる可能性が高いんだ』

「なるほど読めてきたぞ。予算がどうしても欲しいから、取り敢えず急場をしのぐために実績を欲して、あんな教育できてない小娘を俺の下に送りつけてきやがったな。殺されかけたぞ」


 ジンは溜め息を吐く。


 寝起きのコレットに拳銃を向けられたあの夜のことだ。そのコレットの拳銃は今も自分が持っているが、あのときは流石に死を感じた。


 どういう教育をさせたらああいうことになるのか、興味があるものだ。


 そんな、今となっては思い出に馳せていたジンだが、上司からの返答はやや意外なものだった。


『少し違うな』

「違う?」

『あぁ。予算が欲しいと思ってるのは、保守派のお歴々と言っただろう?』


 ……あぁ、なんだ。そういうことか。

 ジンはこの期に及んで自分の上司が情報機関で働いていることを思い出した。


「革新党に投票しやがったのか」

『そういうことだ。奴らに投票したのは人生で初めての事だから新鮮だったよ』


 なるほど。こいつは予算獲得の為に成功してほしかったんじゃない。


 保守の奴らが無謀なことに金を使い込んでると革新党の連中に説明するために、わざと任務を失敗させようと企んだのだ。


 となると方法は単純。

 ポンコツのスパイを送り込んで失敗させる。その結果ジンが死のうが、こいつにとっては問題ない。向こうにとっては廃材利用の一環だろう。


 むしろジンが死んだ方が回収方法を考えなくていい分、上司にとっては都合がいいのだから。


 まったく呆れる手腕だと、ジンは溜め息を吐いた。


「何やってるのかはわかるが、あえて言おう。なにやってんだ。どういうつもりなんだ全く」

『それも簡単な話さ。何年もそっちにいるお前は国際感覚が鈍ってるだろう。だから一から説明してやるが、俺たちにとっての最大の敵は既に魔王ではないのさ』

「敵ィ? なんだそりゃ」


 人類にとっての敵、それが魔王であることなど千年前からの常識だ。

 今更どうして、敵を変える必要があるのだろう。


 そもそも思想・宗教・言語その他、何もかも違う人類がこうして手を取り合っているのは、魔王と言う強大な敵があってこそなのに。なぜ今更?


 いや、むしろ人類統一の為には強大な敵が必要だから、魔王を生かすということだろうか。


 となると案外上司は平和主義者ということになるが、ジンはすぐにそれを否定した。

 もし上司が本当に平和主義者なら、今頃自分は菜食主義者になれていただろうと、彼は考えた。


 実際、上司の返答は平和主義者のものではなかった。


『愛すべき熊共に不穏な動きがあるんでね。君にはアキツ・アキラ暗殺任務の失敗の責任を取って本国に帰投、然るべき後に、その不穏な動きを探ってほしいんだ』


 どちらかといえば、上司は資本主義者だったのだ。


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