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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
3-3.貴様は祖国を裏切った?
145/216

あなたの上司を殺しに来ました

 失敗した。

 自分が女であることがこんなにも恨めしかったことはない。


 魔都で情報収集とマンドラゴラの串揚げを食べてこの世の幸せを感じていたところに、自分がモテ男だと勘違いしている野獣の群れに襲撃されるのは不愉快です。


 この程度の男、拳銃を使わずとも鎧袖一触。

 けど、魔都のど真ん中でそれをすると注目を浴びてしまうのはまずい。


 どうやってスマートに切り抜けるか、あるいは人目のない所に誘導して射殺するかを考えていた時、


「――何をしているんですか?」


 人類が崇拝する「神」とやらの存在を初めて実感した。


 軍服を着た、狼人族の女性。普通ならそれだけで不埒な輩にとっては十分な破壊力。

 でもバカには「女」という事実だけが強調されるらしい。


「あぁ? んだてめぇ、犬っころは邪魔すんじゃねーよ」

「……ほほう」


 あぁ、どうやら悪手のようだ。

 この時に男たちの命運は尽きた。そのまま命数も尽きて欲しい。


 一分も経たないうちに、無能は姿を消しました。

 足を消し飛ばさなかっただけでも、狼人族女性の温情によるものだ。


 一仕事を終えた、と言いたいような彼女は、振り返って私を見た。


 しまった。

 彼女に面倒事を押し付けてる間にここを立ち去ればよかった。スパイである私が制服着た軍人と会うなんて、こちらも悪手に他ならない。


 ……いや、逆に好機なのか?

 確かにリスクではあるがリターンもある。例の暗殺命令の為に彼女を利用することは出来まいか?


 それにもし本当に面倒になったら殺してしまえばいいし。


「大丈夫ですか?」

「え、えぇ。ありがとうございます。あ、あの、何かお礼を――」


 そうと決まれば、後はジンに貰った金で彼女を餌付けしなければ。

 お礼なりなんなりして、あることないこと他愛もない会話をして、彼女との「友好」を深めればいい。


 礼なんていらないと言い張る彼女に私は「どうしても」とか「魔都に友達がいなくて不安だった」とか、田舎から来た小娘のような演技をして(実際そうなのだけど)、彼女に言い寄った。


「……まぁ、今日は休日ですし。お言葉に甘えます」


 休日にも拘わらず制服を着ているなんて相当なバカか狂人だろうか。

 まぁ、こちらとしては都合がよかった。


「あぁ。申し遅れました。私ソフィア・ヴォルフと言います。見ての通り、軍人です」

「軍人ですか、だからお強いんですね!」

「い、いえ。それほどでもありません。それに私は兵站局――後方業務担当ですから」


 ……うん? 今こいつ、なんて言った?


「兵站局? って、もしかしてあの人間の?」

「えぇ。よく御存知ですね……って、有名ですよね。魔王軍唯一の人間ですから」


 ……ふふっ。

 これはいい。神というのはやはり存在するのだ。


 魔族は魔王なんかじゃなく神を信仰していればもう少し長生きできただろうに。


「それで、その、よければあなたの名前も教えてくれますか?」

「はい! 私はコ――」


 コレット・アイスバーグ。そう口にしかけたところで、やめた。


 私はスパイなのだ。ホイホイ本名を口にしてどうする。

 ここは魔都。田舎町の痴呆老婆を相手にするならともかく、ターゲットの関係者相手に本名はまずい。


「……どうしました?」

「い、いえ、ちょっと喉詰まらせちゃって……」 


 私はそう言い繕って、必死に偽名を考えます。

 こういうことなら、ジンに考えさせておけばよかったのにと今更ながらに後悔する。


「私、コルネリア・コーレインって言います。あの、よろしくお願いしますね」

「はい。仲良くしましょう」


 えぇ、本当に。仲良くしてくれると嬉しい。


 ついでにあなたの上司を射殺するために、協力してほしいわ?


ソフィアさん、スパイのコレットちゃんと仲良くなる。


---


9月21日発売の魔王軍の幹部(ryの書籍第1巻についての詳細を割烹に書きました。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/531083/blogkey/1800195/


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