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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
3-3.貴様は祖国を裏切った?
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ソフィアさんの休日

書籍版『魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません』の第1巻が9月21日、レッドライジングブックス様より発売されます。イラストは八つ森佳様(Twitter:@motai__)です。よろしくお願いします!

「――っくしゅ」


 なんだかよからぬ噂をされてる気がします。アキラ様あたりでしょうか?


 朝夜ならともかく、真夏の真昼間でまさか「寒いからクシャミが出た」だなんて思う者はそう多くはないでしょう。

 実際、どちらかと言えば暑いです。


 こういう日は家でゆっくり読書や勉学に勤しむか、兵站局で仕事した方がいい。

 のですが、今日はアキラ様よりお休みをいただいていました。


 別に欲しくて休暇を取ったわけではありません。ただアキラ様から、


『ソフィアさんは上半期の有休取得ノルマ達成してませんので休んでください』


 と言われたので致し方なく……。


 自分の休みたい日に休めと言われても、どう休めばいいかわからなくなります。

 ハッキリ言ってしまえば仕事している方がまだ気楽ですし。


 第一、アキラ様の方が有給取ってないですよ?


 しかしリーデル様からは


『休めと言われたのですから休んでしまいましょうよ』


 と言われ、ユリエ様からは、


『ワーカーホリックの局長さんのことなんて放っておいてパーッと酒飲んで寝ろ!』


 などと趣味じゃないことを言われ、終いにはあまり主張しないリイナ様より、


『ユリエちゃんのは極端だけど、たまには遊んでもいいんじゃないかな……』


 と言われました。


 部下と上司に挟撃されてなお断れるかと言えば、そうでもなく……結果はご覧の通りです。

 でも『遊べ』と言われても何をしていいのやら検討も付きません。


 一人で遊ぶくらいなら本を読んでいた方がマシですし、二人以上で何かをするというのであれば、アキラ様がいた方が何かと楽しかったと思います。


 二人で休暇が取れればいいのですが、そこは業務との兼ね合いもありますし、それに今ではクレーメンス上級大尉という面倒な監査が入っていますから、余計です。


「……はぁ」


 そこまで考えて、私は顔を手で覆いました。

 理由は二つ。


 一つは、色々と理由を立てて頑として外に出ない、まるで引き篭りみたいな思考をしてしまったこと。もう一つは、その理由の行きつく先が「アキラ様」であることです。


 どこまで行っても、仕事でもそれ以外でも、私の思考の根底にはあの人がいるのでしょうか。




---




 以前、リーデル様に言われたことですが、


『ソフィアさん? あなた、私服はどういうのにしているんですの?』

『私服……ですか? どうして急に?』

『いえ。ここにいるとソフィアさんは軍服しか着てませんから、気になってて。どういう服を着ているのか、同じ女性としては興味ありますわ』

『そうですか……。でも私服はあまり持っていませんね。興味がなくて……』

『え? なら普段は何を?』

『……軍服(これ)ですが』

『……………』


 そういうわけで結局、外に出ました。

 あの後リーデル様から私怨を含めたお説教をされたのが今となってはいい思い出……でもないですね。


 まぁ、たまには年頃の女性のように、遊んでみましょう。女性が遊ぶと言えば買い物です。


 ヘル・アーチェ陛下に拾われて以来、仕事ばかりの日々でした。アキラ様の下にあってもそれは同じでした。

 だから、今回はいい機会だと思います。


「これなんていかがですか!? 最近はやりのファッションで――」

「……はぁ」


 と、思っていた時期が私にもありました。


 どうして被服屋の店員というのは、こうも馴れ馴れしく話しかけて人をイライラさせることに比類のない才能を見せるのでしょうか。


 私が嫌な顔しても、嫌な顔せずに応対を続ける店員の図太さと接客精神は感服するところもありますが非常に迷惑でもあります。ひとりでゆっくり選ばせてください。


「お客様みたいな方はやっぱりシックな服がいいと思います! 例えばこういうのとか! これ着こなすのは大変ですが、お客様にピッタリですし、殿方の目は釘づけ、同性の方には自分が上だとアピールできますよ」

「行きつくとこはそこなんですね……」


 女性同士の戦いをどうのこうのする暇なんて兵站局にあるのだろうか。そんなことより溜まっている決裁書類にサインをするのが先である気がします。


 あぁ、思い出しただけで休暇切り上げて仕事に行きたいです。兵站局の隣の部屋に住んでいるアキラ様の気持ちが少しわかりました。


 しかしアキラ様に休めと言われたのです。休みます。


 その後店員にあれやこれや、上級魔術の詠唱よりもややこしく意味不明な言葉の羅列を聞かされたあげく、私の財布から銀貨が数枚消えました。


 ……服って、高いですね。軍服などは無料で支給されますから余計高く感じます。


「それにこんな高い服を買って着たところで、アキラ様がどう思うか……」


 無駄の削減だ合理主義だと局内で叫んでいる彼にとって無駄な買い物をした私を見て笑われないかと不安です。


 やっぱり家で大人しく読書をしていた方が何かと――



「―――――!!」


 おや?

 なにか騒がしいです。

 まぁ、人口の多い魔都ですから奇人変人の類も当然跋扈しています。この程度の騒動にもならない騒動は日常茶飯事です……が、


「やめてください。迷惑です」

「そう言わないで、姉ちゃん綺麗なんだから少しは遊ばないと勿体ないぜ?」

「そうそう。俺らと〝いいこと〟しねぇか? いい夢見られるぜ?」

「結構です」


 なるほど。

 言い寄る男×2と迷惑する女性ですか。


 女性の方は黒い翼を持った鳥人族の女性。まさか――と思いましたが真昼間から堂々と魔都のど真ん中を歩いて男に言い寄られる諜報員なんていないでしょう。たぶん他人です。

 黒い翼を持つ鳥人族の女性自体は魔都に何人もいますし、魔王城にもいます。


 でも、だいぶ困った様子です。


 男の方は、顔は良いみたいですが私の趣味でもありませんし、当該女性に至っては嫌悪しているようですね。


 あんなに嫌な顔されているのになんぱ? する男性は勇気があります。


 ですがここは陛下の御膝元。

 栄えある魔族の名を穢す無礼者には退場していただきましょう。


「……やっぱり普段から軍服を着ているのは正解でしたね」


 それに私、陛下の護衛としての訓練も受けたことあるんですよ?


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