表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
3-3.貴様は祖国を裏切った?
139/216

アンテナショップ

 ソフィアさんが可愛いということを再認識できたことはいい。


 問題は、偽アキラである。犬人族の老婆曰く、その偽アキラとかいう人間はあの店の常連だったことで、そして最近魔都へ向かったことである。


 常連と言うことはこの町の近辺に住んでいたということ。

 そして町に住んでいたのに何か用事があって魔都へ行ったというのは容易に想像ができる。


「というわけで、至急町及び近辺を調べ彼らの拠点を探し出す必要があると存じます」


 ――って、元憲兵のクレーメンスさんが言っていた。


「私もクレーメンス様に同意します。人間が新たに召喚されたなどという話は聞きませんし、我らがヘル・アーチェ陛下以外に人間を召喚できる者などいません。とすれば、十中八九その偽アキラ様は人類軍の工作員かと思われます」

「でも人類軍も大胆っすよねー。魔王陛下の土地をズカズカと堂々と入り込んでるなんて」

「……身内の恥を晒すようですが、それだけ防諜を怠っていたと言うことです」


 そしてソフィアさんとクレーメンスさんの話し合いにより、その偽アキラの存在を憲兵隊に通報し、かつ近くにあるはずの拠点を憲兵隊と共に見つけ出すことになった。


 当然、銀蠅問題に関する視察なんてやってられない。


 いや対策案は出ているし、実行もされている。憲兵隊の防諜能力に疑いがあるというのなら、クレーメンスさんの「自警団を組織する」という提案も呑んだ方がいいかもしれない。


 あぁ、仕事が増えた。


 仕事は増えるのに人は増えない。給料も増えず、休暇に至ってはなぜか減る。



 世知辛い世の中である。




 そして二日後。


 憲兵隊の捜索により、案外あっさりと偽アキラの拠点、もとい元拠点は発見された。

 あっさり発見される位置にあるのにばれなかったなんて、本当にどうなってんの憲兵隊。


 もっとも「まさか人間のスパイがいるなんて」と思っているのはお互い様か。


 俺とソフィアさん、クレーメンスさん、そしてワカイヤくんは憲兵隊の捜査にお邪魔して共に小屋の中に入ってみた。

 すんなり入れたのはクレーメンス元憲兵のおかげ。


 俺の監視とかなんとか言ってるのに、やけに協力的である。不思議に思って聞いてみると、


「敵軍の諜報員の存在に気付けず兵站局なんかに先に察知されるなんて屈辱の極み……この汚名は必ず(そそ)いで見せます……!」


 ということらしい。


 まぁ、銀蠅問題も憲兵と兵站局の連携が要だし、いい機会かもしれないということで。


 偽アキラの元拠点は興味深いもので一杯だった。


 ラジオ、無線機、発電機、大量の資料や書物があったであろう本棚、そして腐りかけの食物に二人分の食器などなど。さらには、


「これは鳥人族用の衣服ですね。どうやらあの老婆の言う通り、コレットとかいう裏切り者がスパイ活動をしていることは間違いありません」


 なんて物まである。

 可愛いカラスの女の子と二人きりでこの山小屋に住んでいたという偽アキラ、羨ましいぞ!


「……アキラ様?」

「ふむ。どうやら拠点は完全に放棄されているようです。無線機に関しては送・受信機は共に完全に破壊されていますし、本棚がスッカラカンであることを見るとこちらも処分済みと考えていいですね。代わりの品はどうやって調達するんでしょうか」


 ソフィアさんに心を読まれかけているので必死に話題を逸らす。


 まったくもって、どうしてこんなに機械があるんだろうか。空輸するしかないだろうが、ここは前線からそれなりに遠く離れているはずだ。


 つまり、前線から長躯してここまで飛来してくる航空機があるということだ。

 たぶん、偽アキラも空挺降下してここへやってきたのだろう。


 とすると偽アキラは特殊訓練を受けているツワモノ。本物のアキラよりはさぞ頼もしいことだろう。ついでに可愛い女の子と一つ屋根の下で一緒に――


「アキラ様? 話題を変えたのに行きつく先が同じでは意味がありませんよ?」

「……肝に銘じておきます」


 さすが俺のソフィアさんは優秀である。人の心を読めるのだからスパイの才能は偽アキラ以上なのではないだろうか。


「コホン。しかしアキラ様、送信機なる物はよくわかりませんが、受信機に関しては心配ないのではありませんか?」

「ん? なんでですか?」

「ほら、確か乱数放送とかいうものが……」

「あぁ。ラジオがあればいいのか。あれがあればラジオ電波は拾える……いや、簡単な送受信機であれば鞄サイズに収められるか……」


 某空から降ってきた女の子を追いかけ最終的に情けない悲鳴を上げながら失明する情報部の大佐がそれを持っていたはずだ。たぶん似たような物を、偽アキラも持っているのだろう。


 だがここの拠点にあったものはかなり本格的な無線機だったことも確かだ。


 発電機に、出力の高そうな送信機。

 遠くの無線も拾えるような大きなアンテナが屋外にあり、それはどこぞのランドの携帯電話アンテナのように木に擬装されていおり一見しただけじゃ気付かないようになっている。


 どう考えても簡単に捨てていい代物ではない。

 ところどころ破壊されているが、これだけでも価値は十分にある。


 そう言えばヤヨイさんが電波に興味持っていたな。

 輸送隊に頼んでこれを分解して運んでみようか。分解が難しいなら、無理言って親衛隊のダウニッシュさんあたりに収納魔法を使ってもらってもいい。


 今から人類と同じだけの科学力を得るなんてことは出来ないだろうけど、だからと言って研究をしないわけにはいかないしね。


 そこら辺は憲兵隊と情報局次第でもあるけど……。


「とまれ、これ以上いても無意味。アキツ局長殿、そろそろ戻った方がいいのでは?」

「クレーメンスさんの言う通り、戻りましょう。町に、ではなく、魔都に」


 事態が事態だ。


 魔都に賊が入ったとあれば、陛下の安眠が妨げられるというもの。


 兵站局の本来の仕事ではないが、本物のアキラとして偽アキラに跳梁跋扈されても困るのだ。主にソフィアさんからの疑いの目を晴らすために!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ