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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
3-3.貴様は祖国を裏切った?
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浮気?

 その後は何もなく、輸送隊基地についてからアレやコレやらの確認と視察をソフィアさんと共に行った。

 のだが……、


「――で、この件についてはどう思います?」

「…………さぁ」

「……怒ってます?」

「怒ってません」


 ムスッと口を尖らせるソフィアさん。


 先ほどのアレがあってから、ソフィアさんが冷たい。

 まるで出会ったばかりの頃の彼女である。懐かしいなぁ、と感慨に耽ることはない。


 無論、手を繋いで仲良く、なんてこともない。儚い夢だったようだ。


「……この基地の規模は小さくて人員も少なめ。拠点や中継基地としての機能はほぼなし。元々は人馬族たちの休憩所を大きくしたもので、魔像の輸送が開始されてからは不要となったようですから……廃止、というのを考えたんですけど」

「いいと思います」


 書類に目を通してもこちらに目を向けないソフィアさん。

 態度は悪いってもんじゃないがだからと言って手抜き仕事をする彼女でもないので、たぶん正しいだろう。


 ……でも、これがずっと続くと問題である。

 早いところ誤解を解かなければならない。


 とするとやはり、先程の老爺のところへ行って事実確認を求めるしかない。確か、老爺は初対面だが老婆は一度会っているとか言っていたし。


 あとはソフィアさんをこれ以上怒らせないよう自然な形で「パプリカ」とかいう店に行けばいい。

 とりあえず美辞麗句並べてソフィアさんを誘――


「アキラ様」

「へっ、は、はい? なんです?」


 仕事に目処がついたと思った途端、ソフィアさんが急に呼んだ。そして久しぶりに目を合わせてくれた。


「少し寄りたいところがあるのですが、よろしいですか?」


 …………。


「刑場ですか?」

「違います」


 よかった。殺されるのかと。


 ソフィアさんって浮気に厳しい(優しい人なんているかはさておき)と思うから、目玉抉り出されて殺されるくらいのことは覚悟していただけに、刑場じゃなくてよかった。


「私を何だと思っているんですか……」


 む、久しぶりに心を読まれた。


「それで、どこへ行くんですか?」

「決まってます。先ほどの老爺の所にですよ。確か『パプリカ』でしたよね」

「……はい?」

「なんですかその反応は。それとも本気で浮気でもしていたんですか」

「してません」


 ただソフィアさんの方から切り出してくれたのが意外と言うかなんというか。

 おかげで言い訳を考える必要がなくなった。


「……少々、気になることがあるので」


 そう言ったソフィアさんの顔は、どうも浮気云々を気にしているようには見えなかった。




---




 小さな町故に「パプリカ」という名の雑貨店はすぐに見つかった。


 家の前に露店のような形で天幕を張り商品を並べる形式の店であり、そこには生活必需品から職人が作ったらしい指輪までありとあらゆる商品がある。


 そしてその店を切り盛りしているのが、目の前に立つ犬人族の老婆。


「おや? あんたも人間かい?」


 んでもって目があった瞬間、そのことを言ったのだからもうビンゴである。


「こりゃ驚いたわ。人間ってのは増えたんだねぇ……」

「いえ、私は……」

「よう、さっきの! 来てくれたんか!」


 自己紹介しようとしたところで、聞き覚えのある声。

 振り返ればそこにいたのは、俺に浮気の嫌疑をなすりつけた老爺である。


「あら、あなたの知り合い?」

「何言ってんだ婆さん。アキラさんだよ。いつも来てくれる……」

「は? なに言ってんのよ。アキラさんはこんなヘナヘナした顔してないわよ? ねぇ?」


 ねぇ、じゃないよ。本人目の前にしてヘナヘナとか言うなよ。


「残念ながら、私が本物のアキツ・アキラですよ」


 言って、懐から魔王軍で使われている身分証を提示する。

 人間であることから常日頃持ち歩いているのだが、こんな使い方をするとは思わなかった。


「えっ? えっ? あれ?」


 身分証を何度も何度も見直す老婆は混乱し、自分がボケたのではないのかと心配している様子である。そして何事かを呟いた後、


「じゃ、じゃあコレットちゃんは?」

「残念ながら、知りませんよそんな人は」

「えー……」


 その後、老婆は頭を抱えて座り込んでしまった。

 そんな老婆に、ソフィアさんが話しかける。


「お婆さん、少しよろしいですか?」

「え、えぇ。ちょっと混乱しているけれど……」

「早めに終わらせます。その、アキツ・アキラを名乗る人間は、どのような方でした?」

「え? うーん、無精髭を生やした私好みのダンディなオジサマだったわねぇ」

「婆さん?」


 今度は老爺が慌てる番だった。うん、面白そうな展開になりそうだけど今はやめようか。


「それで、コレットというのはどういう方でしたか?」

「若くて、かわいい子だったわね。身長はあなたくらいで、黒い羽のついた子だったわ」


 こめかみを指で抑えながら老婆は必死に思い出している。


「羽の生えた……ハーピー族ですか? それとも天子族? 鳥族?」

「私の鼻によると鳥族ね。たぶん、カラスの子よ」


 老婆はドヤ顔で鼻を指差し、老爺もそれに続いて「直接嗅いだことはねえが俺もそうだと思う」と答えた。


 可愛いカラスっ子か……ふむ。


「コホン」

「……どうぞソフィアさん続けてください」

「言われずとも。では最後に、その二人はどこにいるかわかります?」

「さぁねぇ……。住んでいる場所はわからない。あ、でも」

「でも?」

「魔都に行く、なんてことは言ってたわ」

「…………わかりました。ありがとうございます」

「いえいえ。また何かあったら、来て頂戴」

「えぇ」


 ある程度の質疑を終えると、俺とソフィアさんは店から離れた。

 老婆と老爺は「人間は二人いるんだ」と言う風にしか思わなかったらしいが、こちらはそうは思わない。


 偽アキラくんは魔都に行った、ということだ。それにカラスのコレットちゃんとやらを連れて。


「クレーメンス様と合流する必要がありますね」

「そうですね。残念ながら」


 何はともあれ、俺の無実が証明されたわけだ。想定外の土産付きで。


「にしても、ソフィアさんの方からこの店に行こうと言うなんて思いもしなかったですよ。あのまま浮気者だと罵られるのかと」


 なにせ、手の骨が折れそうになるくらいに握りしめられたほどである。

 仕事が終わった途端、事実確認として二人一緒に店に行くとは思わなかった。


「……それは……その…………大した事情は……」


 ソフィアさんは明確に答えず、頬を赤らめながら口元を手で抑えてごにょごにょと何事かを呟いていた。

 詳しく聞こうと顔を近づけたら、彼女は諦めたかのように自白した。


「一瞬でもアキラ様を信じてあげられなかった自分に腹が立ってしまって…………」


 …………かわいい。抱き締めてあげたい。


「ひゃっ。あ、アキラ様!?」


 というか反射的に抱き締めてしまった。


「ソフィアさん、私はソフィアさんだけが好きなので安心しで下さい」

「ふぇっ!? あ、あの、あのあのあの」


 彼女は耳まで真っ赤にした。

 かわいい。

 こんなかわいい狼っ子を恋人に持って浮気しようなんて気を起こす奴がいるとは思えない。


 たとえ街中でみんなが見ている中だとしても、今は言わなければならない。

 ちょっと恥ずかしいだけだ。


「わ、私も……アキラ様のことが……その、好きですけど……でも、こんな街中で急に言われましても、えと、私困り……あ、でも困らない? あれ?」

「あぁ、すみません。私自身も恥ずかしくなってきて……」


 さすがに住民のひそひそ声が耳障りになってきたところなので、あとは人目のないところで、ということで。


 一方、ソフィアさんと言えばクレーメンスさんたちと合流するまで、顔を真っ赤にしつつも表情を取り繕うと必死に真顔のままでいようとしていた様子。


 それでも、口の端が上がっていたことに彼女は気付いていただろうか。







「なんかあの二人、あそこで何かやってるんですけど!? ちょっとクレーメンスさん、僕暴漢のフリしてアキラサマ局長のこと殴ってきていいですかね!?」

「元憲兵の私にそのようなことを言うなんてワカイヤさんは勇者ですね。上官反逆罪は最悪死刑ですよ。気持ちはわかりますがやめましょう。それにまだ仕事があります」

「仕事とか言っている場合ですか! これは大天使ソフィアさんの危機ですよ!? 僕が護らないと――」

「何を言っているのかわかりません。どう見ても局長と秘書のいい雰囲気、邪魔してはいけません」

「元憲兵ならあの腹立たしい行為を何とかしてくださいよ!」

「いえ、別に軍内恋愛は規則違反ではありませんから」

「またそれですか!?」



アキラくんの暗殺成功しねぇかなぁ(血の涙)

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