詳しく聞きましょう
Q.どうしてこんなに更新が遅れた?
A.おのれスパイウェア
というわけで久方ぶりの更新です。ソフィアさん可愛いって言って(
今回の視察の意義は二つある。
一、銀蠅多発地域の視察。
二、クレーメンスさんの研修。
ついでにデートもできればいいなとか思ってない。断じて思ってない。よしんば出来たとしてもソフィアさん自身がそれを許さないのではないか。
まぁもしかしたら可能性はあるんじゃないかと軽く期待はするのだから、クレーメンスさん対策として、ワカイヤくんに二度目の実地研修をさせることになった。
「僕が来たからには強盗集団なんて全員とっちめてやりますよ! ソフィアさん、クレーメンスさん、ついでに局長、見ててくださいね!」
まぁ、ついて早々後悔しているのだが。
真面目に仕事に取り込み壮大にずっこけることに定評のあった(今はマシになっている)意識高い系局員ワカイヤくんは、今日も今日とて空回りの天才を如何なく発揮している。
「だからよした方がいいと……」
「言わないでください。三人で、よりはマシじゃないですか」
「……それもそうですけど」
ソフィアさんは話がはやくて助かる。
「まずはここを管轄している軍の中から治安維持に詳しい人達を選抜して、僕が指揮を執って敵のアジトを一掃します! さすれば強盗集団なんて一瞬で壊滅ですよ!」
こいつは話が遅い。
「いえワカイヤさん、それするのであれば地元の地理に詳しい住民たちの中から選抜、自警団乃至民兵組織を結成し、憲兵と共に掃討任務に参加させればいい」
クレーメンスさんも乗らないで。しかもちょっと適確な指示なのが余計に腹立たしい。
「私もそれを考えてました!」
「そうですか。なら、局長殿に提案しては?」
「わかりました! では早速計画書を――」
「そこの二人待ちなさい」
知らぬところでとんとん拍子に話が進んでいる。もしかして本当にこのコンビは相性がいいのだろうか。
「なんでしょうか局長殿、名案だと思いますが」
「そうですよすっとこどっこい! じゃなかった、アキラサマ局長!」
「確かに名案だとは思いますが、それはあくまでも憲兵隊の仕事でしょう。私たちの仕事は犯罪予防と抑止にありますから。あとワカイヤくん、帰ったら首筋に気を付けた方がいいよ」
人間、堪忍袋の緒の強度には限界がある。
「しかし局長殿、犯罪予防も大事ですがここは思い切った外科的な治療が必要と存じます。ここは憲兵と協力して犯罪者集団を一網打尽にすることに全力を挙げるべきでは」
「餅は餅屋、犯罪捜査は専門家たる憲兵に任せますよ。私たちがそんなことをしても、足引っ張るだけでしょう」
推理漫画じゃあるまいし、じっちゃんの名に賭けた身体は子供の怪しい葉っぱキメてるベルギー人名探偵、もといただの一般人には出る幕はない。
ただ憲兵隊が余りにも情けない結果を出した時は、俺たちの出番かもしれない。
それに犯罪予防・抑止の一環として自警団を組織するって意味では、クレーメンスさんの案を一蹴するのは勿体ないか。
「それでアキラ様。如何なさいますか? 四人で町村を回るのは些か効率が悪いと思うのですが」
色々と話していたところで、ソフィアさん若干口を尖らせながらそんなことを言った。
その言葉の裏には「この鬱陶しい二人から離れたい」という感情が漏れ出ている。そんなにあからさまだと元憲兵のクレーメンスさんにもばれそうだが、彼女の方は気にしていない様子。
しかしここまで来てなんだが、どうやってクレーメンスさんにワカイヤくんを押し付けるか考えてなかったな。
クレーメンスさんの本来の役割は俺の監視なわけだし、そう簡単に離れるとは……。
って、さっきの話は使えるか?
「ではこうしましょう。私とソフィアさん、そしてクレーメンスさんとワカイヤくんで分かれて行動し、先程の対策案が効果的かどうかを調べましょうか」
「……アキツ局長殿、私の任務は監視ですが」
「私は視察に来ただけで権力行使をしに来たわけではありませんよ。それに最終的にどうするかはそちらの意見も聞かないといけません。もし私の暴走を止めたいのなら、ここで分かれて立派な対策案を仕上げればいいと思いますよ?」
我ながら適当な事を言っているな、と思う。
俺の作った対策案はもう既に始まっているし、あとはエリアごとに微調整していくだけなのだ。そこにクレーメンス案が素晴らしいものであれば、それも合わせて採用するだけのこと。
ただそれを知らないクレーメンスさんは、しばらく悩んだあと「わかりました。それで大丈夫です」と答えてくれた。
計画通り。
「行きましょう、ワカイヤさん。まずは第二地区からです」
「わかりました! アキラサマ局長をアッと言わせてやりますよクレーメンスさん!」
はいはい、頑張ってねー。
毒同士、本当に相性がいいのかもしれない。
混ぜるな危険である可能性もあるけれど、今の所順調に回っているように見える。
ま、あっちはあっちで任せよう。
「じゃあソフィアさん、こちらも仕事をするとしましょうか」
「はい。それでは郊外の輸送隊基地からですね」
そう言ってから、ソフィアさんはさりげなくこちらの手を握ってきた。うん、かわいい。
やっぱりソフィアさん連れてきて正解だったと思う。
このまま仕事を放りだしてどっかに遊びに行きたい衝動に駆られるが、それをしても嫌われるだけなので真面目に仕事をすることにしよう。
郊外の輸送隊基地は若干遠いので乗合馬車か何かがあればいいのだが、割と辺鄙な場所にあるのでそれは望むべくもなし。
まぁ手を繋いで街を歩くのも良い。
なんて思ったのも束の間、というのがある。
どうやらこの世界の神様とやらは、幸せというものに嫉妬しやすい性質らしい。
「……お? おい、そこの人間!」
「はい?」
急に後ろから呼ばれ、振り返るとそこには犬人族の老爺がいた。
人間換算にすると六〇から七〇と言ったところで、ちょっと厳しそうな頑固な爺さん、という感じの人だ。
そんな奴に呼び止められたというのは、ちょっと嫌な予感しかしない。
「もしかしてお前……『アキツ・アキラ』か?」
「えぇ、そうですが?」
始めてきた、こんな辺鄙な町でも俺の名前が知れ渡っているのか。
まぁ魔王軍唯一の人間だしあちこち足を運んでいるから仕方ないか。
「そうかそうか、いやいつもと違う臭いだから気付かなかったわ! いつものあの臭い煙草は吸うのやめたのか? あ、そうだ。婆さんは今町会の集まりに行ってるから暫くは会えないぞ」
「……はい?」
あの、初対面ですよね?
私ここに来たのは初めてだし、煙草吸わないし。それに婆さんってどこの誰だよ。
「……アキラ様、お知り合いですか?」
ソフィアさんは手を繋いだまま、俺にやや小声で聞いてくる。
この距離だとたぶん相手にも聞こえているだろう。その証拠に、俺が答える前に目の前の爺さんが先に答えたのだ。
「いや、面と向かって会うのは初めてだから確かにわからねぇかもな。俺は雑貨屋『パプリカ』の店主、婆さんの連れさ。にしても随分印象と違うなぁ……」
「は、はぁ……」
やばい、サッパリわからない。パプリカってなによ。野菜?
これ以上話してもたぶん不毛な会話にしかならないだろう。気にせず
「コホン。失礼ですが、ちょっと今忙しいので……。ソフィアさん、行きましょうか」
「え、あ、はい」
やや困惑と混乱を残しつつも、この場を去ろうとする。
俺らには仕事とデートがあるのだから邪魔しないでほしいという意思表示だが、どこの世界でも老人というのは大抵空気が読めない。
「ソフィア……? あれ? コレットちゃんはどうしたんだい?」
老爺がそう言った瞬間、ソフィアさんの足が止まり、繋いだ手の握力が一段階上がった。
「……申し訳ありませんが、詳しく聞かせてくれますか?」
それは誰に言った言葉だろうか。
目線は老爺に向けられているが言葉はこちらに突き刺さっている。いやソフィアさん、コレットなんて人私は知らな――、
「んぁ? いやな、婆さんが『アキツさんの恋人のコレットちゃんって人は綺麗だった。仲睦まじくて羨ましい』みたいなこと言っててな……てっきりあんたのことかと……」
痛い。待って、手が痛い。骨が折れそう。
「…………あ、すまんな嬢ちゃん、今のなし。聞かなかったことにしてくれ」
俺の手がミシミシ言っていることに気付いた耳だけは敏感な老爺は慌ててそう言うが、時既に手遅れである。
「……まぁ、その、なんだ。若いっていいな! 二股も程々にな! じゃ、俺は商工会の集まりがあるからこれにて失礼」
「え、や、ちょっと待ってください爆弾投げ込むだけ投げて逃げるんですか!?」
あんた結局誰! あとコレットって誰! そしてこの状況なんとかして!
ふと隣を見れば、そこにはうつろな目をしているソフィアさんの姿があった。
「いや違うんですソフィアさん、私は知りませんよコレットなんて人。初めて聞きました」
「…………」
へんじがない、おれをただのしかばねにするつもりだ。
数秒後、壊れかけのブリキの玩具のようにギギギと首を動かしたソフィアさんは、怖いくらいにニッコリと微笑んで、
「アキラ様、仕事が終わったらゆっっっっっくりと、お話をしましょうか」
と言った。
当然、目は笑っていないし、握力は凄まじいくらいに上がっていた。
そんでもって俺と言えば、これほど怒っているソフィアさんというのは、それはそれで魅力的なのではないだろうかと現実逃避をしていた。
話せばわかる。と、信じたい。俺は牧師並に清廉潔白な身分だ。
なんと魔王軍幹部のファンアートを戴きました٩( 'ω' )و
活動報告に掲載しましたので、よければ見てください。レオナかわいい魔像カッコイイ!
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/531083/blogkey/1778187/




