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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
3-2.艦(フネ)ができるまで
123/216

魔王「やり過ぎ」

 兵站局の書類で第五〇一号艦を「旧支配者級一番艦ハイドラ」と書いていたら、いつの間にか艦級の正式名称が「旧支配者級」に決定された話する?


 いや、別にそんなたいそうな話じゃないけれども。


 なんてことはない。

 「ハイドラ級」と名付けられるはずだった艦級に、兵站局の書類で俺が勝手に名付けた「旧支配者級」と書いてしまったのが事の始まりだ。


 俺が勝手に書類に記載したことによって、兵站局員全員がそれを正式名称だと勘違いし、元海軍工廠事務員だった兎人族の新人を経由して海軍にもその名前が流れ、そして海軍工廠の方でも兵站局が勝手につけた名前を正式名称だと思い込み……、海軍の責任者が気付いた頃には時既に手遅れ。


「いつから兵站局は海軍の決定に口出しするようになったんだ!」


 と、海軍側の責任者が猛り狂って兵站局に乗り込んできたのが竣工式一〇日前のことだった。


 そのあらましは陛下の耳にも届き、そして今俺は魔王陛下の執務室にいる。


「まぁ、君の働きぶりや成果については私はよく知っているがね。流石にそれを続けていたら長生きできないよ」


 という言葉からお説教が始まったわけである。


「ですけどね陛下、あれはどちらかと言えば事故で――」

「旧支配者級に関してはそうだろう。だが、それ以外のことはどうかな?」

「……それ以外?」

「自覚ないのか?」


 自覚?

 はてな?


「よしわかった。いい機会だ。君に教えてあげよう」

「な、なにがです?」


 本能が告げている。それが碌でもないことであることを。でも聞きたくないなんて正直に言えるはずが――、


「君に関する陸海軍各部署から上がっている苦情の一覧だ」

「聞きたくないです」


 予想外に酷い内容で困惑している。え、なに。そんなに嫌われてるの? 人間だから?


「それもあるが、それを除外しても十数件は溜まっているな」

「……ちなみに、除外しなかった場合は?」

「十倍量が増える」


 嫌われすぎじゃないか俺!?


 兵站局が独立した組織で兵站を統括する立場だからという理由はあるものの、陛下に直接苦情が来るというのは正直言えば尋常ならざることである。


「嫌われる自覚がないか。まぁ確かに兵站局内部からの告発は一件しかないから仕方ないと言えば仕方ないが……」

「陛下、それ誰ですか」

「内部告白発者の官姓名を教える程私はバカじゃないよ」


 ですよね。


 しかし苦情内容が「兵站の失敗」であれば甘んじて受け入れるしかない。

 確かにそれは兵站局のミスなのだから。それ以外は話半分でいいだろう。


「まず一件目。『へなへな・なよなよしてて軍人らしくない。もう少し筋肉を付けるべき』」

「余計なお世話ですよ!」


 いきなり理不尽だなおい!


 俺の抗議に対して陛下は笑いながら「あぁ、すまんすまん。冗談だよ」と言って資料をもう一ページめくって流した。


 本当に冗談なのかどうか怪しい所ではある。


「では改めて、真面目な苦情一件目は海軍からだ。曰く『本来であれば兵站局は部外者であるにもかかわらず、物資輸送の権限と陛下の権威を殊更に振りかざして我々を脅迫し、意見を通そうする越権行動が目につく』というものだ。何か申し開きは?」

「…………陛下の権威を振りかざした覚えはありません」

「越権行為については?」

「そう批難されても致し方ないという事案がちょっと身に覚えが……」


 今回の「旧支配者級戦闘艦」の命名がいい例だ。

 俺に命名の権限がないのに、俺の不注意という理由ではあるが結果的にそうなってしまったのだ。


 それ以外でも、海軍工廠改革において多少の無茶はしてしまった。

 俺が陛下が行った召喚の儀式によって異世界から召喚された救世主という立場も、俺の知らないところで異様な効力があったのかもしれない。


 俺自身、そんなことをした覚えはないのだが……よそから見れば違うと言うことか。


「まぁ、どうやら君の心の中で理解ができたようで話が早くて助かる。それに結果論になるが、君がそう言った行為をしてくれたおかげでノルト・フォークの奴らは働くようになったし、それ以外の部門についても改革が及んだから、深く追及しないでおこう」

「……陛下の御寛恕あって、誠に感謝の極みにございます」


 俺が頭を下げて感謝の意を述べると、陛下は「そんなことを言うキャラじゃないだろう」と笑ってみせた。


 しかし越権行為か。

 兵站局の仕事は魔王軍全軍の兵站を統括することにあるから線引きが難しいな。魔王軍に組織だった軍官僚組織がないこともあって、兵站局の権限はかなり手広い。


 それが「越権行為」と「陛下の権威を利用」という苦情になって陛下の下に届いたのだろう。


 とするならば、兵站局という組織では不足なのだ。

 他の部局の信頼を勝ち取る一方で、陛下直々に兵站局の権威権限を拡大してもらって合法的に軍制改革を行えればいい。


 具体的には兵站局の上にさらに政治的な権力を持つ軍政省を立ち上げ、軍政大臣に俺もしくは俺に近しい人を据えて組織を巨大化させていけば――、


「アキラ、悪い顔をしているぞ」

「ハッ」


 いかんいかん。


 こちらの考えを見透かす魔王ヘル・アーチェ陛下の眼前でやってしまった。


「まぁ確かに、軍政省に関してはいいかもしれないな。兵站局の仕事が兵站部門以外にも及んできて、それが批難に値すると言うのなら兵站局の権限縮小に役立つだろう」

「そう、仰っていただけると大変ありがたいです。早速――」

「あぁ。早速具体的な要綱を『私が』作成することにしよう。軍政大臣の選抜も『私が』決めることにしよう。だから君は安心して兵站局局長としての責務を果たしたまえ」


 あぁ、アイディアとついでに権限も取られた。


 悲しみに打ちひしがれてその場で崩れそうになったところで、陛下がフッと笑って「冗談だよ」 と言った。


 なんだか今日はいつにもまして陛下に遊ばれている気がする。これが新手の罰なのだろうか。


「軍隊の後方業務に関しては、我が魔王軍においては君が一番の理解者であり専門家だ。軍政省を立ち上げるにしても立ち上げないにしても、君の手腕というのは必ず必要になる」

「……過大評価では」

「正当な評価のつもりだがね」


 にこやかな表情を崩さない陛下の顔は、本性を上手く隠している。冗談なのか、そうではないのかは、陛下の顔からは読み取ることはできない。


 たぶん付き合いの長いソフィアさんとかだったら読み取れるんだろうけども。


「まぁ、それはさておくとして、だ。アキラが私の権威を振りかざしている、あるいは振りかざしているように見えるというのは事実だろう。君がどう思っているかはさておき、あまりこういうことが続くと私の信用問題にもなる。これは、アキラならわかるはずだな?」

「……はい。度々のご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません」

「別に謝罪が欲しいと言うわけではないよ。何度も言うが、これでもアキラには感謝しているんだからね」


 言って、陛下は持っていた苦情、もとい資料をポンと机に投げ出して言葉を続けた。


「だがこれも何度も言うが、こういうことがあまり長く続いても困る。さっき言った『十数件』という数字の殆どは、一件目と似た内容だよ」

「……申し訳ありません」


 いやほんと、好き勝手やりすぎたよ。陛下の迷惑も考えずにやってしまった。


「謝るな。必要なのは謝罪ではなく今後の対策さ」

「はい」


 ……しかし「殆ど」と言うことはそれ以外もあるということか。何があるんだろう。またナヨナヨかな。


「一件は『仕事中に副官とイチャつかれると鬱陶しい』というのがあるよ」

「それ絶対兵站局員が告発した奴ですよね?」


 やろう。絶対見つけ出してやる。それに大してイチャついてないし!

 っと、また話が逸れた。


「コホン。……それはそれとして、今後どのような対策を取るのか、陛下はお考えですか?」

「そうだな。シンプルに行こうか。私はアキラほど難しい話ができるはずがないからな」


 これは絶対嘘だな。間違いない。言わないけど。言わなくても無駄だけど。


「ふふっ。君に対する監査役として、私の方から一人乃至(ないし)二人を兵站局に派遣する。兵站局の暴走を防ぐための監視装置として、当然公表もするよ」


 なるほど。


 そのことを公表すれば、苦情を出した奴は「陛下が意を汲んでくれた」とみて陛下に感謝するだろう。ガス抜きついでに忠誠を得られる。


 人の事どうこう言えないくらい黒い考えじゃないか?


「監査役は私との連絡係という役目もある。私に何か伝えたいことがあれば監査役に言ってくれれば、時間は多少かかるが私の下に情報が来るよ」

「……直接言ってはダメなのですか?」

「アキラがそう判断した場合は、従来通りそれでもいい。だがあまりやらない方がいいだろう。私と君とが、こうして二人きりで執務室で会話することを『私的・公的な関係強化』だと警戒する者が出てくるからな」


 というか出ているんだがな、と陛下は続けた。


「とりあえず、来週あたりに監査役を派遣するよ。事務仕事が出来る奴を送るから、兵站局の仕事をある程度手伝わせても問題ない。ただ命令系統は別個だから気を付ける様に」

「畏まりました」


 やれやれ。今後は監査役に見張られながら仕事をする羽目になるのか。その程度で済んだから幸いと言えばそうなのだが、息苦しいというかなんというか。


 身から出た錆なので反論も出来ないのがなんとも辛い。


 そんな俺の不安を読んだのだろうか。陛下は最後にクスッと笑ってひとつ付け足した。


「監査役は処女の女を選ぶから安心しろ」


 何を安心しろと言うのだろうか、この魔王さんは。私には心に決めた人が――ってそう言えば陛下ってば一夫多妻制推奨派でしたね。


 あぁ、不安で胃が痛い。


前回の「旧支配者級」について「ダゴンだろ」「なんでツァトゥグァやねん」というツッコミが多く寄せられましたが、これらの艦名については某ウィキで調べた邪神様に適当に番号を振って1D10で出た目に従って決定しました。


つまり適当。あるいは邪神様の言う通り。だから文句はダイスの邪神様に言ってね!(責任回避)




なお、次話でこの造船編を終わらせたいと思います。いよいよ新型戦闘艦が竣工し世界に羽ばたきます。

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