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兵站局に来た新人さん 中篇

意外と長くなったので三分割(またか!)

「――というわけです……」

「…………なんとも、まぁ」


 待望の新人アルパ・ワカイヤは明後日の方向に突き進むことが得意らしい。


 どうしてこうなった?

 思い込みの激しいというレベルではないような気がする。あ、だから魔王軍に志願したのか?


 でもなんで採用したし。嫌がらせか? 嫌がらせなのか?

 最近はめっきりそういうのなくなったけど、まだ根が深い問題なのか。


「うぅ、すみません。私が不甲斐ないばかりに……」

「あ、いや、リイナさんが気にすることではないですよ。私が人間であることや、ソフィアさんとの関係は隠しようがないですし」


 隠す気もないし。むしろこういうのは堂々としてた方が波風が立たない。たぶん、きっと。


「でも、普通はそこまで敵愾心は抱かないものだとは思いますが……アキラ様、私に隠れて何かやらかしたんですか?」

「全く心当たりがないと言ったら嘘になるんですよねぇ……」


 ワカイヤくんに何かした記憶はないが、間接的にとなると心当たりがいっぱいある。

 開発局の予算を削ったことだろうか、それとも憲兵隊の物資横領の証拠を見つけて陛下に突き出したこと? あるいはそれとなく伝えて弱みを握ったことだろうか。そうなると心当たりが多すぎて……。


 などと思ったが、意外と答えは単純だったようである。


 それを知っていたのは、脇で話を聞いていたエリさん。


「恐らくなんですけど、ワカイヤさんはきっとソフィアさんに惚れてるんだと思いますわ?」

「……根拠は?」

「彼、気づいたらソフィアさんを目で追ってますし、ソフィアさんに話しかけられると一瞬目が泳いできょどりますわね」


 なんともわかりやすい恋する少年だろうか。

 ソフィアさんも心当たりがあるようで「あぁ、そういえば――」と言っていくつか彼の不審な動きを報告した。


 これは対面が發・白をポンしている上に場に中がない状態だな。んでもってワカイヤくんはたぶんその状況で中を捨てる猛者だろうと思う。ご愁傷様です。


 まぁなんいせよ、理由がわかった。

 人間に対する偏見と嫉妬だろう。なんとも面倒くさい。ソフィアさんも大きな溜め息をついて「……困りますね」と呟いた。


「モテモテですね、ソフィアさん」

「あまり嬉しくはありませんね。心に決めた人がもういるのに」


 嬉しいことを言ってくれる。でもみんなの前でそれはやめてほしい。わざとなのか天然なのかは知らないが、恥ずかしいと言うレベルではないぞこれ。


「……まぁそれはそれとしてです。これ以上状況が悪化されるのは私的にも公的にも困ります。ワカイヤくん、このままだと所謂『無能な働き者』になりますよ」

「なんです、それ?」


 エリさんが首を傾げ、他ソフィアさんやリイナさんも同様に頭上に疑問符を浮かべた。

 地球のとある軍人が言ったとされる格言。後世の捏造と言う説が濃厚だが、全文はだいたい下記の通り。



 世の中には「有能な怠け者」「有能な働き者」「無能な怠け者」「無能な働き者」の4種類の軍人がいる。


「有能な怠け者」は指揮官に向いている。

「有能な働き者」は参謀に向いている。

「無能な怠け者」は歩兵(あるいは総司令官)に向いている。

「無能な働き者」は殺すしかない。



 端折ったが、こんな感じである。

 やらなくていいことをやってしまう、時間の無駄どころか社会の害悪となるから殺すべき。そんな意味である。


「……殺すんですか?」

「喩えですよ。それに、彼が本当に無能かどうかわかりませんし。……リイナさん、直属の上司としてはどう見えました?」

「えー………………っと。あの、ちょっと待ってください。今思い出しますから」

「あ、無理しなくていいです」


 諦めよう、それこそ時間の無駄である。

 リイナさんが匙を投げるレベルで良い所が思いつかない。どうなんだろうこれ。一を聞いて十を知るというのは望まないが、せめて十を聞いたら三くらいは理解してほしいものだ。


 それでもまだ簡単な仕事自体はできているのだから、全くもって無能と言うわけでもないのが唯一の救いだろうか。


「で、彼は今何やってるんです?」

「……タページ陣地への輸送路策定作業です。止めたんですけど、勝手に始めちゃって……難しいのに……」


 兵站の事務でも抗命罪って適用されんのかなぁ……。


「アキラ様、どうします? 今なら殺さないにしても、懲罰部隊とか窓際部署とか色々なところに飛ばせますよ?」

「ソフィアさん、言ってることが怖いですよ」

「いえ、あんなにマジマジと見られるのは正直言って気持ち悪いですし」


 だから怖いって。


「ソフィアさんの意見は極端とは言えませんわねぇ……。一周回って戦闘部隊の方が向いてるかもしれませんわよ?」


 と、エリさん。それに対してリイナさんが「戦闘部隊出身の試験官がこっち回してきたんですけどね」と小声で冷静なツッコミをする。

 うん、どこにも行き場所ないんだな。


「ところで局長。輸送路策定作業ってそんなに難しいんですの?」

「あれ、エリさんやったことないっけ?」

「手伝ったことはありますけれど……」


 ふむ。長い事やっているエリさんもやったことはないのか。

 まぁ確かに、あの作業を好きだと言える奴の方が少ないのは間違いない。むしろ幹部職員でもないし古参でもないトゥニさんって人がちゃっちゃと終わらせちゃうのがおかしい。


「……まぁ、難しいですね。ざっと見た所、タページ陣地はまだ簡単な部類ですが」

「難しいというより、面倒が多いって感じですけどね」


 とソフィアさん。

 ソフィアさんもこの作業は嫌だと思っているらしい。俺より早く終わらせるからそんな感じしないんだけれども。


 たぶんエリさんなら出来そうな気がする。ユリエさんだと無理。リイナさんはうんうん唸りながらもなんとか出来る程度。

 慣れてないというのもあるが、幹部連中がこのザマなのだから入って数日のワカイヤくんには無理だ。


 とは言え、ワカイヤくんにとっては良い社会勉強となるんじゃなかとも思う。うん、そうだな。そうしよう。


「決めました。ワカイヤくんに輸送路策定作業させます」

「ほえ!? なんでですかぁ、絶対失敗しますよ!」


 直属の上司であるリイナさんが悲鳴に似た声を挙げた。


「うん、知ってます。だからやらせるんです」

「……はい? あの、局長様? 大丈夫ですか?」

「頭は大丈夫です。ま、色々考えがあるんですよ。もし彼が作業を終えたら、私の所に持ってくるよう彼に伝えてください。トゥニさんの抜けた穴については……そうですね、エリさん、手伝ってあげてください」


 普段であればソフィアさんにやらせるところだが、ワカイヤくんのアレがソレでコレだから今回はエリさんに任せる。


「了解しましたわ。リイナさん、教えて下さらない?」

「は、はい!」


 よし、こっちはとりあえずOKだな。あとは……、


「ソフィアさん」

「はい?」

「ワカイヤくんが作業を終えたあたり――たぶん来週のどっかで、タページ陣地に向います。予定の確認と、留守を頼みます」

「畏まりました。……何をするつもりかは知りませんが」

「別に、大したことじゃないですよ。それよりも、お願いしますね」

「はい」


 ソフィアさんは俺のものだ、って彼に主張するための行動をしなければ。




---




 四日後。

 意外と早く、ワカイヤくんがタページ陣地への新輸送路策定作業を終えた。


「アキラサマ局長様、出来ました。確認願います!」


 おい誰だそれは。


「ワカイヤくん、私の名前は『アキツ・アキラ』です。面倒なら局長だけでいいですよ。みんなそう呼んでますので」

「はい、局長!」


 うん、元気でよろしい。ワカイヤくんの数少ない「良い所」というやつだな。「悪い所」でもあるんだろうけれども。


 まぁそれはそれとして、早速ワカイヤくんが持ってきた書類を見る。意外と綺麗な字で書かれているそれは、一見すると素晴らしい。

「地図上」において最も効率的なルートを選んでいる。そのほかの部分についても、初めてにしては上出来だ。


「うん、却下」


 だから書類を投げ捨てた。不要書類専用の木箱に、彼のここ数日の努力をポイっと入れる。

 ゴミはちゃんとゴミ箱に入れないとね。


「な、なぜですか! 不当です! 差別です! 鬼畜! 外道! 悪魔!」

「人間です」

「知ってます! だから悪魔なんです! おばあ様も言ってました!」


 ひどい言われよう、と思うだろうが魔王軍だとさして珍しい話でもない。会議室で魔王軍の高級将校たちに罵詈雑言を真正面から受けた身としては蚊に刺されたようなものである。


 本当だよ。泣いてなんかいないよ。


「僕――じゃない、私の作った計画は完璧です! ケチのつけどころがありません! 地図もちゃんと見ましたし、各魔像や荷馬車の性能緒元も見ました。各物資の重量や必要量も頭に入ってます! それなのに何がいけないんですか!」


 ほほう。意外と記憶力が良いのかな?

 案外、一を知って一を知るタイプなのかもしれない。


 まぁでも、この計画は論外だけど。


「納得のいく理由を教えてください!」

「ひとことで言うと現実的じゃないからです。……まぁ、口で言ってもわからないと思いますけど」

「わかりません! やはりこれは何かの陰謀――!」


 それを当人を目の前にして言うセリフではないと思います。


「大天使ソフィエル様の恩恵を自分だけのものとしようとしている、正に悪魔の所業です!」

「誰」


 ソフィアさん、いつの間にそんなに出世したの。

 って、いかんいかん。どうも流されてしまう。ワカイヤくんは勢いに任せて会話を明後日の方向に突き動かす天才のようだ。なにに使うんだそんな能力。


「ワカイヤくん、とりあえずコレ見て」

「……なんですかこれ……タページ陣地への補給路? ……こんな遠回りのルート、非効率! 無能! 現実が見えてないですよ! 誰が考えたんですかこれ!」

「私です」

「はい!?」


 うん、すまない。私なんだ。君がウンウン唸りながらやっていた傍ら俺も同じことをしていたんだ。


 俺の案と彼の案。違いは多い。

 ワカイヤ案に比べて、俺のはルートが少し遠回りというのが最大の相違点だろう。


「こ、こんな非現実的な――」

「非現実的かどうかは、現実を見て判断しましょうか」


 さて、ここからが本題だ。


「ワカイヤくん、明後日予定入ってます? 入ってなければ、ちょっと付き合ってください」

「……はい? え、あの」

「あ、これ業務命令なんで」

「横暴だ!」


 人聞きの悪いことを言う奴だ。


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