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支えるということ

2話同日更新(2/2)

 ――同時刻 魔王軍公認娼館「ミルヒェ」



「へぇ、そう。アキラさんやっと気づいたんだ」

「は、はい。でもミイナお姉様は会ってすぐわかったんですよね……?」

「伊達に男何人も漁ってないからね」


 兵站局管理担当のリイナは、姉のミイナに会っていた。


 無論仕事であるが――それは殆どついでみたいなものである。

 本当は、久々に姉妹の会話がしたいからという理由だったかもしれない。


 会話の内容は、リイナの上司について。

 つまりアキツ・アキラに出された課題の答え合わせである。まぁ、本人はいないのだが。


「てんちょー、お客さんから指名入った――って、リイナちゃんじゃん!」

「ひ、ひゃい! あ、あの、ティリアさん、お久しぶりです……」

「久しぶり! なに、またメイド服着に来たの?」

「ほらほらティリア、私のリイナで遊ばないの」

「私はティリアさんのでもお姉様のでもありません!」


 リイナが半分涙目で否定した。


 営業中なのでさすがに声を抑えたが、それでも大きめの声だったためにミイナが指で妹の唇を押さえる。


「ティリア。私は今大事なお客様と〝接客中〟だから、って言っといて」

「いいんですかぁ? ダイヤモンドがどうとか言ってますよ、あの……なんだっけ、オリジン定食とか言う吸血鬼」

「オリベイラ、ね。あの吸血鬼、確かに羽振りはいいんだけど下手なのよねぇ……それに私宝石興味ないし、薄味だし。だから適当に追い返しておいて。しつこかったら『組』呼んで」

「アイサー!」


 使命を帯びたティリアはそのままオリベイラなる客の下へ戻る。

 一悶着はあったようだが、ティリアが「組」の存在を口にするとすごすごと帰って行った。


 その間、ミイナとリイナは会話を続ける。


「――で、アキラさんの話に戻るけど、その後は順調なの? あのよくわかんない自己犠牲と奉仕精神は治ったの?」


 それは、ソフィアがあの夜言ったことである。


 つまり「誰にも相談しない」という、アキラの良い所でもあり、悪い所でもあるもの。


 それがミイナの提示した八点の意味であり、気付いたら追加で一〇点の意味でもある。


 未だに本人から課題は提出されていないが、しかしそれでも、結果は変わるだろうと。ただ、道のりは長いようだ。


「治そうとは思っているみたいですけど、まだちょっと無理みたいです。急には変われないみたいで――あ、でも」

「でも?」


 リイナは言葉を止めた。


 言おうか言わないかを迷っている……ではない。

 リイナの頭の中で、口に出そうとした言葉が具現化し、さらには誇大化して収拾がつかなくなって頬を赤く染めているからである。


 それは淫魔の悲しい性という奴だろう。


 その妹の様子に、ミイナは全てを察した。そして、こう呟いた。


「味見、してみたかったなー」


 と。





---





 ――同時刻 居酒屋「共倒れ」


「だから言ったじゃねぇか、無理だって」

「うぅ……やっぱりあの時譲らなければよかった……」

「譲っても一緒だったとオレは思うんだがなぁ……」


 休暇を取っていたエリと、渉外と称してサボりを決めていたユリエが、昼間から酒盛りをしていたのである。

 エリに最近起きた失恋話を肴に。


「こういうのは早いもん勝ちだろ? なんでもっと早く言わなかったんだよ」


 無論、ユリエもサボりたいからサボっているわけではない。


 そのままにしておいたら死ぬんじゃないかというオーラを纏わせていたエリを放っておけなかったからである。


 だからこうして、彼女は親身に話を聞いている。


「だって、あの人ってそういうの嫌いそうなんだもん……」

「そうかぁ?」


 正確に言えば、この時点ではまだ確定はしていない。


 ただ彼らが魔都に戻ってきたときから、何とも言えない雰囲気になっていたことから殆ど決着がついていたと、彼女らが考えただけである。


「つかさ、なんでアレのこと好きになったんだ? こう言っちゃあ悪いけど、アイツ男としての魅力が全然ないだろ」

「だって……」

「だって?」



 エリが数秒ほど沈黙し、恥を忍んで言う。



「一〇五歳の私に欲情してくれるから……」

「………………」


 長寿で有名なエルフの悲しい性を知って、言葉を見つけられないでいたユリエだった。




---




 ――同時刻 魔王城魔王執務室。




 魔王ヘル・アーチェは、黙々と執務をこなしていた。


 魔王軍兵站局なる組織が出来てから、彼女がしなければならない案件は倍増した。

 故に彼女の自由時間は減ったし、前線に出て憂さ晴らしをする機会も少なくなった。


 だがそのことに関して、ヘル・アーチェは不満を持ってはいない。


 兵站局が魔王軍にとって必要不可欠な組織になっていることくらい、彼女にはわかる。


 むしろ彼女が気にしているのは、もっと別の事である。


 ヘル・アーチェは視線を落とし、執務机の下を覗き込む。

 無論そこには何も――いや、誰もいないのだが――彼女にはとある少女が見えていた。


 しかし暫く経つと、その少女の姿は消えていった。

 少女が大人になり、巣立って行ったということだとヘル・アーチェは理解し、笑みを浮かべながら呟いた。


「――ソフィアくんは大人になったが……はてさて、アキラくんは大人になれるのだろうか?」


 身体は大人である。

 精神もまぁ、大人だろう彼。


 魔王ヘル・アーチェにとって数少ない命の恩人である彼、アキツ・アキラは、果たして大人に慣れたのだろうか。


 彼女はそんなことを思いつつ、視線を書類に戻して執務を再開した。




---




 そして一巡し、兵站局。




「えっと、その、あの……ここでそれ言いますか、ソフィアさん」


「はい。アキラ様にどうしても伝えたかったので」


「……その、何と言いますか……こういうのは初めてでして」


「失敬ですね。正確には二度目ですよ」


「……そうなんですが」


「そしてアキラ様、私はその返事を求めていますが、それもお分かりになりますか?」


「…………えーっとですね、それは後日――」


「ダメですよ。要望は、可能な限り早く、確実に届ける。それがアキラ様の作った兵站局の基本理念……ですよね?」


「……」


「だから私は聞きたいのです。アキラ様の言葉を」


「…………えっと、あの、ソフィアさん」


「はい」


「その……」


「なんです?」


「…………魔都三番街の、アプフェル・デン・リンデン通りに新しい店が出来たようなんですが……そこに、一緒に行きませんか。

 出来ればその……二人きりで」


「……ふふっ」


「な、なんですかその笑いは……」


「なんでもありませんよ。では今日の仕事が終わったら、行きましょうか」


「……そうしましょう」


「えぇ。では、今日もよろしくお願いします、アキラ様」


「はい、ソフィアさん」







 魔王軍には「兵站局」という組織がある。

 主な仕事は、支えること。


 戦闘部隊を、魔王を、そして、大切な仲間を――。



                                    了


というわけで、第二章最終話でございます。


途中色々迷走&ご迷惑をおかけしましたが、なんとか終わりました。

予定文字数より2、3万字オーバーして18万字になってしまったことから目を背けたい気分ですが。



で、第三章なのですが……全然考えてません! きれいさっぱりなにも案がないです! ストックなんてあるわけありません! ネタもないです!


投稿はたぶんだいぶ先になると思いますので、ゆったりまったりのんびりお待ちいただければ幸いです。


では新章で、また会いましょう。


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