第七十七話:コード・イエローラビット
名前諸々を決めてなかったせいで頭をひねりまくって時間がなくなりお話が短くなった作者をどうかお許しください……。
「荒野さん、起きてください。朝ですよ」
目を開けると朝日と鳴神くんの顔が見えた。
「……この目覚まし時計、殴って止めるやつだっけ」
「オレは目覚まし時計じゃないし、殴って止める目覚まし時計もありません」
探せばありそうだけどね、殴らないと止まらない目覚まし時計。
なんなら爆発する目覚まし時計とかも……こっちは普通にテロで使われるやつか。
「はぁ~……どうせ起こされるなら綺麗な女の人に優しく起こされたかった」
「それはオレに女装しろって言ってるんですか?」
「ハッ、天才か…ッ!」
「すいません、オレが馬鹿でした。もう言わないので準備してください」
そんなこんなで生乾きな服を着て外に出る。
昨日までの雨が嘘のように晴れ渡る空模様である。
これでは雨を言い訳にして帰ることもできない、つらい。
取り敢えず着替えている間に詳しい情報共有みたいな感じで鳴神くんに昨日の出来事を話すとドン引きされた、解せぬ。
病院の外に出ると大型トラックなどの車が続々と集まっており、人も何十人も集まっていた。
鳴神くんの後をついて先に進んでいくと、道のど真ん中に大きなコンテナを積んだトラックが停まっていた。
開いたコンテナの中を見てみると備え付けのイスや駆除に使うような道具が並べられており、男の子ならテンションが上がりそうな内装となっていた。
トラックの横には天月さんにフィフス・ブルームの人達が何人かと、見慣れない服装で統一されている人達がいた。
黄色と黒色の模様があるジャンパーのようなものを着込んでおり、腕にはビックリ箱からウサギが顔を覗かせているようなアイコンがあった。
彼らと話している天月さんを見つけると、隣にいた軽井さんが手招きしてくれた。
「おはようございます、入院はもういいんですか? まだお腹が大きいですけど」
「おはよう。残念ながらこの中にあるのは尊い生命じゃなくて死蔵された脂肪なんだ」
というか男が孕むのはちょっと嫌だよ。
……ちょっとどころじゃないな、死ぬほど嫌だ。
軽井さんとの挨拶をしていると天月さんもこちらに気付き、軽く会釈をしてくれる。
「おはようございます、荒野さん。昨日は大変だったようですね」
あぁ~……真心のこもった労いが身に染みるぅ~……。
「これだよ、これ! 分かる? 普通は天月さんみたいにこうやって労うものなの! なのにキミは開口一番で朝だから起きろって言ってねぇ!」
「分かりました、分かりましたから。次からはちゃんと生きてて偉いって言ってから起こしますから」
「ん~、もう一声ッ!」
「あんたどんだけ承認欲求に飢えてるんですか」
人の欲望に際限なんてないんだ。
だから人は死ぬまで、こう、色々なものを求め続けるんだ。
まだ死んだことないけど、そういうことにしておこう。
とまぁ日本面々への挨拶はこれくらいにしておこう。
次は中国の……中国の、何だこの人達……?
なんか有名らしいけど、久我さんに聞いておけばよかった。
とはいえ先ずは普通に挨拶をと思ってスマホの翻訳アプリを起動させる。
あれから何度かアップデートがあり、なんと自分を相手の国に合わせて喋ってくれるようになったのだ!
ちなみに製作者は上野にある外来異種研究所の皆様方。
各分野の研究レポートを読むおかげで各国の語学について堪能だとか。
これ売れば億万長者になれるんじゃないかと思いきや、もしも普及したら誰も他国の言葉を勉強しなくなり、翻訳という職業が焼け野原になってアップデートも修正もできなくなると言われた。
世の中、早々上手くはいかないものである。
「どもども、黄兎鳴声で日本語通訳してる无题言います」
そんなことを考えてたら自分よりも背の小さい笑顔の男がこちらにやってきた。
……ん?
翻訳アプリの調子がおかしいのか、なんかおかしな口調だぞ。
もしかしてアプリのアップデートによる不具合か!?
いや、気のせいじゃなければ機会音声じゃなくてこの人で聞こえてきた。
ということは―――。
「天月はんから話は聞いとります、ボランティアの方やとか。今日はよろしく頼んます」
「あー、よろしくお願いします。ちなみに、日本の方ですか……?」
カタコトでもなければ、日本語としてのおかしな発音もない。
ぶっちゃけ日本人といって差し支えないくらいだ。
「ハハハ、よう言われますわ。大阪弁とか京都弁、地方の言葉を使うと細かいことに気が回らんようなるんで、わざと似非関西弁とかを使わしてもろてるんです」
ははぁん?
落書きに傷が入っていても気にしないけど、モナリザのような名画に傷が入ってたら凄く気になる心理ってことか。
それから无题という人にあちらの人員について紹介される。
といってもあっちは距離をとっている風なので、无题が勝手に喋っている感じだ。
ちなみに无题は身長が低いので年下だと思っていたら同い年らしい。
同学年とかに身長で勝ってると優越感を感じるのはまだ少年の心があるからだろうか。
髪が長くて顔を隠している大学生くらいの男が金吒。
俺よりも背も体格も大きい岩のような男が悟空。
まだ高校生かと思うくらい若く、ポニーテールが横に二つ並んでいる鈴黒。
鈴黒の双子の妹で、こっちはポニーテールが縦に二つの鈴銀。
そして――――。
「あとはウチの頭領なんやけど……おっと、出てきたで!」
トラックに積まれたコンテナの奥から出てきたのはこの場で一番大きな体躯……いや、あれパワードスーツじゃない!?
なんか身体の各所にアーマーがついてて、両手に人の腕くらいあるトンファー持ってる人が出てきた!
「あれがウチの頭領の天魁や。どや、あれ凄いやろ? 外骨格っちゅうんかな、重い物を持つだけやのうて、こん中で一番速く走ることもできるで」
「いーなー! 俺もあれ欲しい!」
「無理無理。あれは試験品の実地テストも兼ねてるもんやからな、非売品やで」
いやでも試験品であそこまで完成度が高いなら普及もすぐっぽくない?
かたや、日本で借りた試験品といえば爆発するナイフに爆殺する弾丸。
殺意では勝ってるのだがその他の部分で敗北感がハンパない。
「さて、自己紹介も終わったことですし仕事の打ち合わせをしましょうか」
鳴神くんが手を叩き、地図を広げる。
「先ず仕事の範囲についてですが、奥多摩のコロニー化がどれだけ広がっているか不明です。なので、先ずは奥多摩湖までの道の安全を確保していきます」
おぉ、流石は名高きフィフス・ブルームのエースである。
他の駆除業者のように片っ端から駆除して金を貰うだけではなく、人命の救助を視野に入れている。
そこで无题が質問をする為に手をあげる。
「ちょう質問ええかな。そこまでは歩いて行くんか、それとも車で行くんか?」
「荒野さんの話では途中で事故車があって道が塞がってるみたいなので、ここから徒歩で向かいます」
「ウチの頭領なら車動かせるかもしれへんけど、横転してるのはちょいキツイかもしれんな」
「オレも吹き飛ばすくらいならできますけど、それやると川に落ちてしまいますから」
鳴神くん、車吹き飛ばせるんだ。
ごめん一般人の感性からするとそれはちょっと引く。
「事故車両の撤去については自衛隊か消防隊、とにかく後続の方がやってくれるので、我々は奥多摩湖まで向かい、そこからコロニー化が解除されるまで外来異種の駆除を行います。何か質問は?」
帰っていいですかと聞こうと思ったが、それより先に軽井さんが手をあげる。
「はい。我々はいつも二課が調査を行ってから一課が掃討していますが、今回は全員が固まって行動するのでしょうか?」
そういえばフィフス・ブルームはきっちり役割分担してるんだっけな。
今回も調査からするとなると時間がかかりそうだ。
しかし鳴神くんがそれに答えるよりも早く无题が口を開く。
「なら、ウチがその調査に同行しつつ先行しましょうか」
「えっと、いいんでしょうか?」
「人命救助優先や、構いまへん。ウチのイメージアップのためにも、頑張らせてもらいますわ」
ということで仕事の段取りは決まった。
先ずは天月さん率いる二課と、コード・イエローラビットが先行偵察。
逐次後方にいる一課に情報を共有しつつ奥多摩湖まで向かうという流れだ。
ちなみに自分は久我さんから監視してほしいという頼みがあるせいで強制的に先行偵察組である。
仕事道具とかほとんどあっちに置いてあるんだけど、何かあったらダッシュで逃げ帰っていいよね?




