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第二十六話:外来異種vsヒトの悪意

 家から駅に戻った時はもう夕暮れが沈んだ後だった。

 駅の北口から中に入ると何か違和感を感じる…人が少なくなっているのだろうか。

 まぁそんなことは気にしたところでどうしようもない、駅の会議室に入ると軽井さんがいた。


「荒野さん、どこに行ってたんですか? 鳴神さんが心配してましたよ」

「あぁ、ちょっと実家に戻っててね」


 その言葉を聞いて、軽井さんが申し訳なさそうな顔をした。

 なんだろう…別に俺が悪いわけじゃないのに、悪い事をした気になってしまう。


「ちょっと地図借りるね。あと情報とかも集めさせてね」


 そういって俺は色々と書き込まれた地図を見つつ、スマホでTVを見る。

 なにせ業者の頑張りのおかげで安全な区域が増えているのだ、マスコミの皆様が玉石混交なニュースを報道することだろう。

 

 富山に駐屯していた自衛隊は周辺地域の救助のほかにも空港の警備にまわっているらしい。

 そのせいで駅にいた人の何割かは、駆除業者よりも自衛隊の方が頼りになるということでそちらに向かったらしい…道中の安全について考えているのだろうか。


 政府による生物災害対応については、"会議は踊る されど進まず"といった状況らしい。

 自衛隊を向かわせるならどれだけ向かわせるのか、富山以外にも必要ではないか、武装は必要ないのではないか、甲種にどう対応するのか、自国内で兵器を使うつもりなのかetc…。

 そして最後はだいたい同じ台詞"責任をとれるのか"で終わっている。

 なんかもういつも通りすぎて何も感じなくなってきた。

 とはいえ、甲種がずっと日本にいるということは好ましくない状況なので、なんだかんだありながらも何とかするのだろう。


 逆にいえば、自分が何かをするなら、それまでに何とかしなければならないということだ。

 海外でも甲種は軍隊が出張るレベルの相手だというのに、俺ができることって何だよ。

 せめて鳴神くんみたいな新世代なら特別な力で何かできたかもしれないが、適応世代の自分にはそういうものは一切ない。

 少年漫画だったら、こう…なんかいい感じで覚醒したかもしれないけど、そういうのもなさそうだ。

 そんなこんなで頭を抱えて唸っていると、不破さんが乱暴に扉を開けて入ってきた。


「お前こんなところでタバコふかしてサボってんじゃねぇよ!」

「イダダダ! 吸ってない、吸ってないですよ! 咥えてるだけですって!!」


 不破さんの両手が俺の肩を掴み、肩のコリどころか肩甲骨まで揉み砕こうとする。

 不破さんなら、抗体世代の人ならあのクソ亀をなんとかできるだろうか…いや、無理だよなぁ。

 そんなやりとりをしてたせいで、ポケットからタバコの箱が落ちてしまった。


「しかもお前、それ前に廃盤になってたやつじゃねぇか。なんで持ってんだ?」

「ウチのオトンの遺品ですよ。家から回収してきたんですけど、吸います?」


 不破さんは面倒くさそうな顔をして手を横に振った。

 そして、オトンがオカンに怒られながらもタバコを何十カートンもまとめ買いしていた頃の事を思い出した。


「俺がタバコを吸ってるのはお百度参りみたいなもんだ。この百箱を吸い終われば、きっとお前に彼女ができてるはずだ」


 そんなこと言うオトンに、それなら宝くじ一等当たるように願えと言ってたなぁ。

 まぁもう吸う人もいないからタバコが切れることもなく、この分だと俺には一生彼女はできないんだろう。


「この分なら大丈夫そうだな。そら、お前にお客さんだ」


 不破さんが扉を開けて外から手招きをすると、鳴神くんと未来ちゃんの二人が部屋に入ってきた。

 鳴神くんの方はかなり思いつめたような顔をしており、顔色も悪かった。

 俺みたいに顔も悪くなってればよかったのだが、不健康そうな顔もイケメンでちょっと嫉妬してしまう。

 未来ちゃんの方は目元が赤くなっており、まるで泣いていたかのようだ。

 つまり、これは………。


「分かった。鳴神くんをころちゅ!」

「せめて何があったか聞いてからにしてあげてください」


 軽井さんからのツッコミがきたが、これどう見ても私達結婚します的なやつではないでしょうか。

 あれ…この場合、天月さんはどうなるんだろう。

 捨てられたとかだったら俺の鉈を貸すのもやぶさかではない。

 なんならウェディングケーキの入刀のごとく、二人で鳴神くんのお腹にブッスリ入れることも視野に入れる。

 …俺と一緒とか普通に拒否られるな、うん。


「本当に申し訳ありません。オレのせいで、荒野さんのご両親が……」

「あの……ごめんなさい、あたし達のせいで、助けにいくのが間に合わなくなって……」

「……へぁっ?」


 二人の言ってることがさっぱり理解できなかったせいで、おかしな声が出てしまった。


「え~っと……ちょい待ち。先ず未来ちゃん、それどういう意味?」

「大丈夫だったあたし達を助けにきたせいで、荒野さんのお父さんとお母さんを助けに行くのが遅れちゃったわけですから……」


 んんんん???

 なんか恐ろしい勘違いが発生してる気がする。

 ぶっちゃけ雅典女学園の人達を助けようが助けまいが、結果は同じだったと思う。

 いや、むしろ俺の方が助かったといってもいいかもしれない。

 だってもしも助けに行ってたら、夜中に甲種が来てたわけだ、そしたら俺も巻き込まれて確実に死んでたと思う。

 禍福は糾える縄の如しというものだ。


「あー…未来ちゃんは何も気にしなくていいし、何の責任もないよ。ウチの両親も電話した時に助けに来いとか言わなかったし、俺もあっちに行かなかったから助かったもんだしね」


 そんな俺の言葉を聞いたからか、未来ちゃんの目には大粒の涙が溜まっていった。

 溜まりに溜まった涙がひとつ、ふたつと零れて落ちていくのを見て心にジャックナイフが刺されたかのような気持ちになってしまった。


「いやいやいや! ほんと気にしなくていいからね!? ほら、よーしよしよしよし!」


 泣いてる女の子にどう接すれば分からない俺は、犬とか猫と同じように撫でながら対応することしかできなかった。


「えーっと…それで、鳴神くんは何なの?」

「……オレの判断ミスで、多くの犠牲が出てしまいました。そしてその中には荒野さんのご両親も……本当に、どう謝ればいいのか…」

「なに言ってんだコイツ」


 イカン、つい本音が出てしまった。

 いやでも今のは誰が聞いてもオカシイって思うよ。


「ウチの両親が死ぬことを計画してやったってんならまだしも、少しでも犠牲者を減らす為に行動して、それが成功したのなら責めるのはオカシイって」


 そう、犠牲者は出たけどアレは失敗と断じるようなものではない。

 あのまま放置していたら、あのクソ亀はここまで来ていたことだろう。

 それを予知して駅周囲の人達を避難させたとしても、数が多すぎて絶対に間に合わなかった、そしたらもっと多くの人が犠牲になっていた。

 ベストな結果ではなかったかもしれないが、それでもマシな結果である事は疑いようもない。


「まぁあれだよ、そんな罪悪感背負って無くていいよ。誰かになんか言われたら…じゃあお前がやればよかっただろ!…ってキレ散らかしていいよ」


 多分、色々と言ってくる人がいるんだろうなぁ。

 こちとら駆除業者…誰かを助ける義理はあろうと、責任はない。

 そんなことまで背負ってられるか。

 鳴神くんのせいで死んだ人がいるというのなら、鳴神くんのおかげで助かった人の事も勘定に入れなければ辻褄が合わない。

 ん? そう考えると、この二人は間接的に命の恩人でもある…?

 今から土下座して靴でも舐めた方がいいのだろうか…いや、未来ちゃんにやったら間違いなくお縄になって留置所にダンクシュートされるな。


「取り敢えず鳴神くんはメンタルを切り替える為にも今から一時間、天月さんとイチャイチャしてきなさい。一秒でも過ぎたら殺す」

「荒野さん、最後の一言」


 だって軽井さん! こいつイケメンなんだよ! 羨ましいよ!!

 まぁそんな感じでこの件は有耶無耶になった。

 掘り起こすようなものでもないし、このまま忘れてしまうのが一番である。

 ちなみに水無瀬さんと九条さんにも会いにいったのだが、二人共涙で顔がボロボロだった。

 ウチの両親が死んだ事にここまで悲しんでくれると、逆に凄く申し訳ない気持ちがある。

 だって、俺なんか未だに悲しむどころか現実感がなくてフワフワしてるし。

 まぁあのクソ亀は殺すけど。


 そう…何時間かけて考えてみたものの、何の作戦も思い浮かばなかった。

 まぁ軍隊が出張るような相手だ、個人が頑張ったところでたかが知れてる。

 こういう時は発想と着眼点を変えるべきだ、もう殺せなくてもいいからとにかく嫌がらせする方向に切り替えよう。

 今、あのクソ亀は常願寺川の近くにある霊園で休んでいるので動くことがない。

 これが三国志とかだったら洪水の計とかで川を氾濫させて海まで押し戻せるのだが、残念ながら黒部ダムは山の向こう側だ。

 というかダムの開け方が分からないのでどうしようもない。

 そんなわけで自然の力を利用するのはアウト。

 

 ただ、山というキーワードが引っ掛かった。

 あぁ……そういえばアレのことを忘れていた、アレを使おう。

 ついでに東京の刑事さんである大山さんに電話をする。

 少しばかり恩着せがましくお願いをすると、何とかするとの言質をもらった。

 あとは人員が少しばかり必要か。

 本当は一人で何とかしたかったのだが、仕方がなく鳴神くんに作戦と一緒に相談しに行った。


「……荒野さん、馬鹿なんですか?」


 ちょっと一緒に地獄に来てくれないかと説明したのだが、心底信じられないものを見るかのような顔をして言われた。


「まぁテストの点も悪かったし物分りの悪い馬鹿だよ。……で、やる?」

「フゥー…分かりました、オレも覚悟します」


 そして深夜に男二人で車に荷物を詰め込んでいたのだが、天月さんと軽井さんにバレてしまい、悲しそうな顔で問い詰められてしまう。


「二人共、どこに行くつもりですか?」

「ちょっと愛の逃避行に…」

「荒野さんちょっとややこしくなるから黙っててください」


 鳴神くんに怒られてしまった。

 まぁ彼女に同性愛疑惑を持たれるとか死ぬほど嫌だもんね、分かるよ。

 ごめん、彼女がいたことないからやっぱり分からない。


「牧さん。荒野さんはああいってくれましたけど、オレは自分のやったことに責任を取らないといけない。だからあの外来異種、枯渇霊亀を何とかしないといけないんだ」

「それなら私も一緒に行く! なんでも一人で抱え込まないで……じゃないと私、どうしていいか分からなくなっちゃうよ…」


 そうして抱き合う二人を見て、思わず痰を吐いてしまった。


「荒野さん、空気読んでください」

「だって、だって! 軽井さんはアレ見て何も思わないの!?」

「いいじゃないですか、映画みたいで」


 この場合、確実に助かるのはあの二人だけだと思うんですけど。

 なんなら一番最初に死ぬのは俺だと思うんですけど。

 そして鳴神くんは二人の同行を許可したせいで、俺の肩身が狭くなった。

 というか一人だけ仲間外れなんですけど。

 落ち込む気分を鳴神くんイジりで上げるとして、四人で荷物を車に積んでいく。


「そういえば、たくさん積んでるこの袋って何ですか?」

「あぁ、それはお清めの塩だよ」

「……それで駆除できたら楽なんですけどねぇ」


 軽井さんがやれやれといった感じで溜息をつく。

 フッ、そんな軽井さんに良い事を教えよう……塩はたくさん摂取すると死ぬ!


 必要な荷物を全て積み込み、警察本部に向かう。

 とっくに夜なのだが、不測の事態に備えているのか建物の電気はまだついていた。

 三人を車で待たせておいて、警察本部で荷物を受け取る。

 流石は大山さんだ、こっちの頼みをちゃんと通してくれていたようだ。



 そして常願寺川を遡るように車を走らせて、何時間もかけて山道を通り抜け、朝になる頃には標高約二千四百メートルにある室堂に到着した。

 ちなみに三人は途中で寝て、俺だけ起きて運転してた、つらい。


「あの、ここに何があるんですか?」


 何も聞かずにこんな所にまで連れて来られたせいか、天月さんが不安そうな声で尋ねる。


「えー、ここから北に行くと温泉があります」

「温泉……」


 天月さんが気の無いような声を出す。

 まぁこんな非常事態に温泉という単語を聞いても、現実感がなかろう。


「そこから更に北にはエンマ台という場所があり、地獄谷を一望できる場所があります。そこが目的地です」

「不吉な場所ですね」


 軽井さん、正解。

 不吉というかもう災厄の象徴みたいなもんがいるんだけどね。


 そして俺たちは車から降りてエンマ台に向かう。

 そこから見える景色に、天月さんと軽井さんが絶句した。


「あ…あれ……甲種の…」

「万魔巣…ですよね……」


 うん、一番最初にウチの県にきた甲種の外来異種でございます。

 地獄谷でお休みしていることを、TV局の皆様がニュースで教えてくれました。

 こういう時はほんとに役に立つ。


「それじゃあ軽井さん、あれ撃って」

「………は?」


 立て続けに驚愕するような内容を受け取ったせいか、軽井さんがフリーズしてしまった。

 まぁそうじゃなくても正気を疑うような事だけどね。


「待ってください、ちょっと待ってください。………倒す気ですか、あれを?」

「とんでもねぇ、こんな少人数で勝てるわけがない」

「じゃあなんでアレと戦おうとしてるんですか!?」


 軽井さんが大声をあげて抗議する。

 普通に考えれば自殺行為だが、こちらには作戦がある。


「あのクソヤドカリを、クソ亀にぶつける」


 それを聞き、また軽井さんと天月さんがフリーズした。

 そして鳴神くんは後悔するかのような顔をしている。

 賛同してくれたのに、その顔はないんじゃなかろうか。


「……なに食べてたら、そんな考えが出てくるんですか」

「分からない…取り敢えず、これが終わったら、うな重食いたい」


 ここまで苦労したんだ、それくらいのご褒美くらいはあってもいいと思う。

 そして鳴神くんが俺の説得だけでは不足していると感じたのか、説得に加わってくれた。


「軽井さん、いずれは自衛隊がここに助けにきてくれる。その時に甲種の二匹が消耗していれば、犠牲を少なくしてこの生物災害を乗り越えられるかもしれないんだ。だから…お願いだ」

「はぁ……分かりました。鳴神さんが言うのなら、信じます」


 それを聞き、軽井さんがまんざらでもなさそうな顔をして了承する。

 これは…浮気ですねぇ……。

 軽井さんは覚悟を決めて銃を取り出し、狙いを定める。

 大口径の銃から放たれた弾は、万魔巣の八つある複眼の一つを撃ち抜いた。


 直後、重く圧しかかるような声が地獄谷に響き渡り、その衝撃がこちらの全員に叩きつけられた。

 それを合図にしたかのように、万魔巣の殻からは多種多様な外来異種が出てきた。

 軽井さんが注意を引くようにもう一度引き金を引く。

 二つ目の複眼を撃ち抜き、全ての視線がこちらに向いた。


「よぉーし、撤退!」


 その場にいた全員が走って車に戻ろうとするが、それよりも早く鳥型の外来異種がこちらに追いついてきた。

 襲い掛かってくるかと身構えたのだが、その鳥は体液をこちらに撒き散らしてきた。


「この臭い…まずい、マーキングされました! 急いで脱がないと!」


 軽井さんの衣服に黄色い体液が付着し、そこから異臭が漂い始めた。

 だが、それはこちらにとって好都合だった。


「よし、その服を貸して! こっちで預かるから!」


 そう言って俺は軽井さんの上着を脱がそうとする。


「ッスゥー……待って、これはその…いやらしい目的とかじゃなくてね?」

「そんなの気にしてませんから早く!」


 よかった、軽井さんは男に服を脱がされても平気な人だった。

 あとで頼んだらもう一度脱がせてくれるだろうか…射殺されそうだから止めておこう。

 服を預かった俺は、車の中に置いておいたカバンからテープを取り出し、車の上部に貼り付ける。

 これで相手がこちらを見失うことはないはずだ。

 そして俺たちは車に乗って、一目散にその場から逃げ出した。



 下山してから数時間、外来異種はこちらを見失わずに追いかけ続けてくる。

 当初の予定では戦っては退き、こちらの存在をアピールしながら逃げる予定だったので順調だと言える。

 誤算があるとすれば、相手の速度がこちらの想定を上回っていたことである。


「軽井さん、一時方向と十一時の方向!」

「了解!」


 天月さんは新世代としての力で、周囲の状況が大雑把に分かるらしい。

 なので、天月さんが前方に回りこんだ外来異種を報告し、軽井さんがそれを先んじて仕留めるというコンビネーションのおかげで無事故で運転できている。


「あー! 軽井さん困ります! そんなに密着されると! あー困ります!」

「ちょっと静かにしててください!!」


 訂正…密着事故は発生してたりする。

 いつもならヒャッホゥ最高だぜぇと喜ぶところだが、運転中だから集中力が落ちるデメリットしかない。

 ちなみに鳴神くんは車の上で近づいてくる奴を斬り飛ばしてる。

 念動力のおかげで車に張付けているらしいが、急ブレーキを踏んだらどうなるのだろう…すごく気になる。

 そして目的地である霊園に近づいてきたので、後ろから迫ってくる外来異種を振り切るようにアクセルを踏んで一気に突き放す。

 遠くからはしっかりと万魔巣が近づいてきているのが確認できていた。


「よし、それじゃあそろそろ塩の準備しといて!」


 車を止めた俺は、テープで止めておいたマーキングされた軽井さんの服を回収して、警察本部で預かった大型ジュラルミンケースを持って河川敷に降りる


「荒野さん、そっち危ないですよ!!」

「知ってる! そっちは鳴神くんの指示に従って逃げて!」


 なにせ自分の進んでいる方向にはあのクソ亀がいるのだ、危ないに決まっている。

 それでも草木が生茂っているおかげでかなり近くまで接近できた。

 そして車のエンジン音が遠ざかるのも確認できた。

 あとはタイミングだけだ。


 しばらく待っているとマーキングされた臭いを嗅ぎ取ったのか、鳥型の外来異種が上空を飛び始めたので、神通川に軽井さんの服を不法投棄する。

 そしてジュラルミンケースを開けると、そこには大山さんが叫竜を駆除した時に使っていた試作品のテーザーガンがあった。

 警察側で外来異種の駆除による利権を狙っていたのであれば、各地にこういったものを準備しているだろうと思っていた。


 さて…川の上流からは万魔巣がやってくるが、このままでは互いにすれ違って終わりだろう。

 何故なら外来異種は互いに攻撃したりしないのだから。

 ……だが、例外もある。

 相手に攻撃された場合、命の危機に瀕した場合、そういう時は互いに襲ったり捕食する事があるのだ。

 俺はテーザーガンを川に撃ち込んで電流を流す。

 すると、先ほどまで大人しかった枯渇霊亀が叫び声をあげて起き上がった。

 鳴神くん達が上流から大量の塩を流した甲斐もあり、川の水は電解質溶液に変化していたのだ。

 だから、遠くに離れている場所から電流を流してもあちらに届いたのだ。


 さて、これがゲームであればあのクソ亀は俺を認識して殺すことだろう。

 だかこれはゲームじゃない…生茂った草木に紛れた小さな俺を見つけることは難しい。

 そうなればクソ亀は誰が攻撃したと認識するだろうか?

 そう…遠目からでも見えるクソヤドカリだと思う事だろう。

 なにせ近くにそいつの手下がいるのだ、そう疑って当たり前だ。


 クソ亀はもう一度雄叫びをあげ、そして強力な胃酸をクソヤドカリにぶっ掛ける。

 これで両者が戦闘体勢に入った、もう誰にも止められない。

 いやぁ…まさかアメリカでやってた外来異種による恐竜大合戦を生で見られるとは思わなかった。

 こんなことならポップコーンとコーラでも用意しとけばよかった。

 まぁこんなところでボーっとしてたら巻き添えで死ぬので、さっさと逃げることにしよう。


 この状況を見て、自分は本当にただの人間だということを思い知る。

 そう…自然界においてこれほど恐ろしい生物もいないだろう。

 肉食獣がその爪と牙で獲物を狩るというのに、人間にはそれができない。

 草食獣がその蹄や脚で遠く逃げるというのに、人間にはそれができない。

 だというのに、人類はここまで繁栄してきた…何故だ?

 それは知恵…頭脳……そして悪意によるものが大きい。

 脆弱だった人類は、脅威となる獣を罠と武器で殺した。

 殺した獣の皮を剥ぎ取り衣とし、その肉を喰らい力をつけ、そして骨と牙を武器としてまた殺した。

 肉を食うだけでは飽き足らず、植物を食うだけでも飽き足らず、あらゆるものを喰らってきた。

 何度も何度も、何万年もそういった営みを積み重ね続けてきた。

 そして今日…また一つ、その当たり前の営みを積み重ねたにすぎない。


「くたばれ、クソ共」


 俺は相争う二匹に中指を立ててから、その場から離れた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >外来異種は互いに攻撃しない ここ一個疑問。 例えば害獣Aと人に擬態状態の皮剥が遭遇した場合もこの基本ルールは順守されるんでしょうか? それとも擬態元の人物によっては(例えば駆除人とか…
[良い点] 復讐ついでにはっちゃけてるラリ感がサイッこーーー!!! [一言] 人には鋭い爪も強靭な体も頑強な牙もない、だから知恵を駆使し小さな悪意で害獣だろうと殺し尽くす。 蟻が象を打倒するするように…
[良い点] >「なに言ってんだコイツ」 この台詞がとっても好き。
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