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第百三十八話:二人乗りの銀河列車

【ジョンソン宇宙センター:会議場】


「先ず今回の作戦目標は目標R、ルビコンの排除」


 会議場の中央にいる軍人さんがモニターを操作して地図や画像が表示される。


「目標は核廃棄施設に偽装されていたC粒子研究所、通称プロビデンスにて停滞中。再度活動を開始する前にこれを排除しなければならない」


 モニターには衛星から撮影された黒い泥のルビコンは、様々な形状に変化しており……まるで最適な姿形を模索しているような感じであった。


「現行兵器を使用した場合、ルビコンが衝撃波により付近に飛散し、そこから復活する可能性が考えられる為、今回は特殊な方法で攻撃することが決定した。それに伴いサターンVを運搬中である」


 その言葉に会議場が一気にざわつき、何人かが立ち上がって声を上げた。


「待て! あんな骨董品でどうするつもりだ!?」

「そもそも他の戦力は? まさかロケット一発で何とかなるとでも!?」


 噛み付くかのように迫る人達を抑えるように中央にいる軍人さんが手を叩いて制止させる。


「この作戦はTier-4モンスターとの接触経験が豊富な専門家の意見によって立案されたものだ。その専門家が、そこにいるミスター・コウヤである」


 それを聞き、またざわつき始めた。

 まぁいきなり知らない人間がこんな作戦を言い出したとか不満しかないよね、分かるよ。

 だからもっと大きな声で反対してほしい、俺もこれをやるのはどうかって思ってるんだから。


「おい、アレが……?」

「あの中国産のTier-4駆除方法を実践したイカレたBadass?」

「あの顔見ろよ、噂じゃ海底都市でもテロリストとモンスターを殺しまくったらしいぜ」

「オイオイ、どこのカテナコを握った物理学者だよ」


 なんか話がおかしくない?

 僕は安全ですよアピールとして精一杯の笑顔をしながら軽く手をあげる。


 先ほどまでいきり立っていた皆が視線を逸らし、そっとイスに座った。

 解せぬ。


「ゴホン、それでは説明を続ける。今作戦の為に改修したサターンVはここジョンソン宇宙センターの北側にある大きな敷地で行う。発射台は新世代のエレノアが地面を持ち上げ、即席の発射台を作る」


 エレノアは以前に山や海すら切り開き、持ち上げた実績がある。

 なので、今回もそれを利用して土台を作る時間を短縮しようというわけだ。

 とはいえずっと手で土台を持ち上げていては腕の震えなどで細かな誤差が発生する為、今回は専用の器具で腕を固定させるらしい。


「現在、スーパーコンピューター"Summit"で天候情報とサターンVなどの情報を入力して、発射角や燃料の計算を行っている。そのデータを基にサターンVはロフテッド軌道によって目標へ着弾させる」


 ロフテッド軌道とは高高度……千キロメートル以上の上空まで上昇した後に目標に向けて落下する弾道ミサイルなどで使われるものである。

 ルビコンが感知できるかどうかは分からないが、極力迎撃されない為の作戦でもある。


「そして……このサターンVには新世代であるルーシーが搭乗してもらう」


 その言葉により会議場が騒然とした。


「無人でも飛ばせるのに何故!?」

「彼女をライカにするつもりか!」


 ライカ……確かソ連の宇宙船発射実験の犠牲になった犬だったか。

 確かにこんな作戦、犠牲が前提みたいなもんだよね。


「いやぁ~……女を弾にするとか、よぉそんなこと考え付くもんやなぁ」

「じゃあ反対しろよ! なんでこんな作戦が許可されてんだよ! 誰か止めろよ!!」


 犬走の首根っこを掴んで前後左右に激しく揺らす俺の後ろで、ルーシーはずっと不機嫌そうにこちらの背もたれを蹴り続けている。

 映画館にいるマナーの悪い客でもこんなに蹴らないだろうが、ミサイルに詰め込まれて発射されることを考えたらまだ優しいくらいだ。

 なんなら後ろから撃たれても文句を言えない。


「現行兵器ではルビコンを排除できない。 故に、彼女の力を以ってサターンVにより発生した運動エネルギーを超熱量に変換し、目標を一瞬で蒸発させることが今目標の成功となる」


 作戦の説明をしている軍人さんが言ったように、ルーシーの力は強い力ほど高い熱量に変換できる。

 打ち上げの際にエンジンが切り離されるとはいえ、百トン以上の重量とそれに加えられた速度は恐ろしい熱量を発生させることだろう。


 下手したらアメリカ大陸に太陽が誕生するかもしれん、というかやろうと思えばやれそう。

 まぁ今回は一応先にスパコンで計算してもらって大丈夫だって結果だけ知ってるけど。


 その後も説明役の軍人さんが色々説明し、簡単に要約するとこんな感じになる。

 ・エレノアの力を利用して即席の発射台を作り、改修されたサターンVを発射する。

 ・ロフテッド軌道でルビコンへと再加速しながら突っ込む。

 ・サターンVの先端に作られた専用の部屋にルーシーを押し込み、力を使いルビコンに着弾した瞬間にそのエネルギーを全て熱量に変換する

 ・ルビコンは熱により蒸発し、運動エネルギーが消えたロケットはそのまま地面に落下。頑丈な部屋にいるルーシーだけは無事……の予定


 …………うん、どうして誰も止めなかったんだろうね。

 あとはサターンVを利用していいのか、無事に発射できるのか、途中で迎撃されないかどうか、命中するかどうかとか、色々問題点があったりもする。


 ただ、迎撃については大丈夫な自信がある。

 外来異種は外来異種を攻撃しないという生態を利用して、捕獲した"DarkLie"をロケットの先端に貼り付けるからね!

 通常攻撃を無効化するやつだし、ルーシーの入る部屋の緩衝材としての役目も期待してる。


 ―――もしも俺が新世代でルーシーと同じ力を持ってたら、イヤイヤ言いながらもロケットに乗っていたことだろう。

 俺が考えたんだ、死ぬとしても俺だけってのが道理だろう。


 だからこそこんな作戦さっさと頭から消す為に、言ってみただけなのに、肝心のルーシーが「右の頬をぶたれたからド頭を潰せって習ったからな」と言ってやる気になってしまった。


 結果的に俺が彼女を利用して、危険に晒して、ルビコンを駆除する手駒にしてしまっている。


 嗚呼、嫌だ嫌だ。

 俺という人間がつくづく嫌になる。

 こんな自分に全然嫌悪感が沸かないのが余計に嫌だ。


 本当にクソッタレである。


「―――以上が作戦の概要となる。何か質問があるものは?」


 そんなことを考えていたら説明が終わっていた。

 何人かが手を上げようとしていたが、こっちと目が合ったら手を下げてしまった。

 諦めんなよ、今からでも反対しようよ!


 とか思ってたら一人が気だるそうに手を上げてくれた。

 というか後ろにいるルーシーだった。


 やっぱり今になって怖くなったから止めるとかそういうのだろうか。


「今さらだが、アタシがこのイカレた作戦に乗るのに条件がある」

「聞こう。多くのアメリカ国民の安全に関わることだ、最大限の助力を約束しよう」

「コイツも乗せろ」


 そう言って首根っこを掴まれて無理やり立たせられた。


「ふぁっ!?」

「テメーも、乗れ、ペンギン野郎」

「何の意味があって!? デブの重さが加算されても威力はそんな変わんないよ!?」


 いやまぁ恨まれる要素はあったよ?

 でもそれならこう、法的手段とかもっと直接的な方法を使えばいいじゃん!


 俺が乗ったところで何の意味もないよ!

 なんでそんな意味のないことしようとするの!?


「ちょ、ちょっとトイレに……」


 いっそこのままルーシーごと引き摺って会議場から出ようとする。

 イーサンが肩を掴んできた。


「何処へ行くつもりだ?」

「いやいや、今の内に用を足しておかないと発射の反動で漏らしちゃうから」

「そういえばアユム、最近新しいトイレ機能付きの宇宙服が完成したらしい」

「実地テストはやんないよ!?」


 やばい、このままでは女性と二人の密室でお漏らしするという最悪の汚点が……。

 こうなれば死なばもろとも!


「俺が乗る条件としてこの二人も乗せてください!」


 そしてイーサンと犬走の手首を掴んだ。

 ふふふ、自分だけは大丈夫だと思ったかな?


 残念ながら何の意味がなかろうと、俺は人を道連れにするぞ!


「荒野さん、残念ですけど改修したスペースの空きからして二人が限界です」


 後ろから、御手洗さんがもの凄く嬉しそうな顔でそう告げた。

 俺は決意した……もしも次があるのなら、必ずや三人を道連れにするということを。

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― 新着の感想 ―
[一言] 想像を軽くぶっちぎったイカれっぷりに読み初めて以来最大の戦慄を感じている。 もっとも最悪でも犠牲者が最大二人というのは荒野さんにしては穏便なのか?
[一言] >「オイオイ、どこのカテナコを握った物理学者だよ」 物理学者というより自分の生存本能に「恐縮だが」されて命じられるがままに駆け抜けた一般遭難者(一般的ではない)な気がする。 あれも海底都市が…
[一言] あはははは、流石アユムだ安定のオチ ルーシーはさり気なく乙女心でアユムにアタックしそう、エレノアが新しい力に目覚めないといいけど ルーシーはまぁちょっと間違った教育受けてそうだからキスし…
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