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第百二十五話:送り送られ狼

 タンブル・オクトパスに飲み込まれていた女性を介護する為、イーサンが車の中へと連れて行く。


「見てごらんエレノア、あれがかの有名な"オモチカエリ"だよ」

「オォ……アレがそうなのデスね……!」


 うんうん、エレノアは純真でいいね。

 この調子でどんどん悪いことを教えていこう。


「あんさん、あとでしばかれるで」

「やらない善よるやる偽善、私の好きな言葉です」

「言葉の方があんさんから脱兎で逃げるで」


 別にいいよ、後ろから車で轢いてハイエースしてやるから。

 逃げたくらいで逃げられると思うなよ。


 そんなこんなで全員車に入る。

 イーサンはベッドに寝かせた女性の口へと再び顔を近づけ……呼吸を確認していた。


 ここで犬走と一緒に「キース! キース!」と言って手拍子したら多分撃たれるので、念波だけ送ることにする。


「アユム」

「日本にはぁ! 内心の自由というものがありましてぇ!!」

「……キミが何を考えていたかについては後で追求するとして、私の鞄から応急処置キットを持ってきてくれ。念のために気道を確保する道具を用意しておきたい」


 日本の救急箱と違ってアメリカはそんなのまで入ってるのかと感心しながらイーサンの荷物を漁っていると、ベッドの方で動きがあった。

 どうやら女性が目覚めたらしい。


「キミ、この指の本数は? 名前は言えるか? 手は動かせるか?」

「指……三本……名前……ローズ……」


 イーサンの意識レベルの確認によって、取り敢えず女性は大丈夫そうだということが分かった。

 ローズと名乗った女性はまだぼんやりとしながらも身体を起こし、イーサンがその背中を支える。


「……ここは?」

「モンスターに襲われて意識を失っていたので、こちらの車に避難させた」

「私の……車は?」


 その問いに気まずい顔をしながらも、イーサンは彼女に肩を貸して外に出る。


「ワォ……」


 無残にもドアや窓がぶち壊された車を見て、その一言しか出てこなかったようだ。


「い、一体どうして……」

「イーサンがやりました」

「アユム!?」


 責任の追及が怖かったので、すかさずイーサンになすりつける。


「でも許してやってください! 確かに車はお釈迦になっちまいましたけど、イーサンはそれだけあなたを助けようと必死だったんです!」


 もちろんフォローだって忘れない。

 大丈夫だよイーサン、僕達は苦楽を共にするって決めたじゃないか!

 十秒前に、自分の心の中でだけ。


「今のキミの必死さには負けるぞ……」

「あんさんのそういうところ、ほんま末恐ろしいわ」


 あーあー男二人の言葉は聞こえませーん!

 それよりイーサンはこっちにばかりかまけてていいのかなー?

 お隣のローズさんのご機嫌取りした方がいいんじゃないでしょうかー!


「ハァ~……まっ、命の恩人だしね」


 そう言ってローズさんはイーサンの思いっきり引き寄せ……その頬にキスをした。

 イーサンは困った顔をしながら顔を遠ざけて、その頬を掻く。


「犬走ぃ! なんで!? どうして俺以外の人ばっかりモテんの!? こんなのおかしいよ!」


 あまりにも羨ましい展開による嫉妬力があふれ出したせいで、隣にいた犬走の胸倉を掴んで発散させる。


「じゃあワイと変わるか? いつでもええで」

「いや、それはいい」


 お前と入れ替わったらモテ期じゃなくて死期がやってくるし。

 ……いやでも冷静に考えてみよう。

 イーサンがあんなことになったのなら、きっとエレノアが軽蔑した目を向けてそれでイーサンが死ぬはずだ!


 しっかりしろイーサン!

 傷は浅くても深くするぞ!


 ―――と思っていたのだが、エレノアはイーサンの様子を微笑ましく見守っていた。

 いやまぁ嫉妬されてたらそれはそれでアカンかった気もするけど、それでも頬を膨らませるくらいはしてほしかった、かわいいだろうし。


「ねぇ、私の車をスクラップにした責任ついでに家まで送ってくれない?」


 そんなことを考えてたらローズさんがイーサンに言い寄ってる。

 これはあれか、イーサンがお持ち帰りしたと思ったらお持ち帰りされるとかそういうやつか。


「いや、すまないが我々の都合に巻き込ませるわけには―――」

「別にええやんけ。それともイーサンはこんな荒野のど真ん中に女一人を放り出すんか?」


 犬走の援護によりイーサンが困った顔をする。

 外来異種のホードと砲撃で車の往来が激しいというか絶賛渋滞してたりするものの、近くに民家もない場所で置き去りというのはよくないと考えているのだろう。


「ヘイ、イーサン。ちなみに何処まで行きたいの?」

「……テキサス州だ」


 ローズさんからの問いに、流石にプロビデンスにバカ正直にプロビデンスのことは言わず、濁した感じでイーサンが答える。

 ここからテキサス州まで七百マイル近く……千キロ以上もある。

 だというのにローズさんは明るい笑顔で胸を叩いた。


「それなら余計にウチに来なよ、数時間で送ってあげられるよ」


 それを聞いて全員が不安そうな顔をする。

 道路が混んでなくても十時間はかかる道のりだ、今の状態だと一日か二日は覚悟しなければならない。

 だというのに数時間でテキサスにまで行けるというのは、あまりにも信じがたいものである。


 イーサンが困った視線をこちらに送ってくるので一考し……決めた。


「いいんじゃない、送ってあげても? 無理そうな案なら断ればいいし、女の人をここで放り出すのはテキサス男子失格だよ」

「女捨てるのは別にテキサスに限らず男失格やろ」


 そんなことはない。

 だって自分はまだ女を捨てたことないのに、人間失格みたいなこと言われたし。


「あー! 俺も一度でいいから女捨ててみたいなー!」

「そんな事言うてるからモテへんのやぞ」


 知ってる。

 でもこの言い訳がなくなってもモテなかったら本気で首を吊りたくなるから一生非モテネタを擦ってくよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 犬走君?状況はどうあれ、キミ現在進行形で自分を想う(フワッフワの意訳)女の子しててるよね? 「やらない善よるやる偽善、私の好きな言葉です」善よるじゃなくて善よりやでメフィラ○。
[一言] 大丈夫、人間の女にモテなくても外来異種にモテモテだから。
[良い点] 立った立った、フラグが立った。 但し、誰に対しての何のフラグかは問わないものとする。 [気になる点] 事が片付いた後、アメリカ辺りなら荒野さんクローンとか作りそう。 [一言] 詳しく知らな…
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