表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/60

魔法少女、モンスターテイマーに拾われる

 小さな外套着きの学生服を纏った少女が、気の強そうな視線を二人に飛ばす。

 だがそんな彼女をマスターは無視し、二人へ手招きする。


「丁度良かったハリス、キミに頼みたい事があってな」


 彼の言葉に招かれるまま、カウンターへ歩み寄る二人。

 その一方、少女はマスターへ顔を上げる。


「話の途中です! 一人でも受けられるクエストをください!」


「そうは言われても、ソロクエストをキミの年齢に依頼することはできない。強さは認めるが、わかってくれ」


 目を伏せて謝るマスターに、ぐぬぬと声を漏らす少女。

 二人が話している間に、ハリス達がカウンターの前に立つと、マスターは裏から分厚いファイルを出し、一番上に収められたクエスト用紙を取る。


「昨日の今日ですまないが、キミにもう一度世界樹へ向かって欲しい」


 用紙を受け取り、二人は顔を寄せて詳細を見る。


 マスターの言葉通り、目的地は世界樹。だが今度は内部ではなく、周辺と樹上に関する、緊急性の高いクエストだった。

 黙読する二人に、彼は口頭でも内容を語る。


「ここ数日、世界樹の周囲で冒険者の失踪が多発している。それに加え、以前は大量にいたモンスターすら、何故か減少傾向にある」


「その原因を、俺達が見つけると」


「ああ。それなりに腕の立つ冒険者も失踪しているから、生半可な強さの者には頼めなくてね」


「随分と買ってくれているようだな」


「こういう職業上、人を見る目はあるのだよ」


 ファイルを閉じ、白い歯を見せてドヤ顔するマスター。

 クエスト内容と報酬、そして「フェンリルを探しに行く」という目的への今後の展望を考えたハリスは、マスターにクイッと指を動かす。


 その動作に気付き、羽ペンを手渡したマスター。

 サインを書こうとするハリスに、横で見ていたレナが尋ねる。


「私もハリス様のお手伝いをしたいのですが、可能ですか?」


「好きにするといい。キミの強さもこの目で確かめたしね」


 昨晩の戦闘を茶化すように、マスターは手をひらひらと振るう。

 話を聞いていたハリスも、自身のサインを書き終えると、羽ペンと用紙をレナへ手渡そうとした。


 しかし一方で、彼等の会話を蚊帳の外から聞いていた少女は、三人のやり取りを見て呟く。


「私も……できるはずなのに……」


 虫の羽音よりも微かな少女の声。

 ハリスとレナが彼女の声に気付くと、クエスト用紙を持ったまま、振り返る。


 少女は二人を見上げ、エメラルド色の瞳を揺らめかせ、頬を膨らます。

 わかりやすく不満を表す彼女を見て、ハリスはマスターに尋ねる。


「この子は?」


「西にある魔術学園の生徒でな。実績を積むために休学して、一応冒険者をしている」


 彼の〝一応〟という言葉に、顔をムスッとさせる少女。

 だがすぐに彼女は、表情を整え背筋を伸ばすと、ハリス達に向き直る。


「魔術学園・極西支部在籍、リンゴ・S・ターナです。先程はお二人の前で声を荒げてしまい、御迷惑をおかけしました」


 リンゴはハッキリと語り、握手を求めて手を差し出す。

 彼女の小さな手に、ハリスも自己紹介で応じつつ、ある事に気付く。


「ひょっとしてターナ家のご息女か?」


「はい……末の子ですが」


 指摘に対しリンゴは肯定しながら、強張った表情を帽子で隠す。

 彼等が握手を終えると、レナはハリスの耳元で尋ねる。


(ターナ家とは一体?)


(西の地方では有名な、魔術師一族の名門だ。彼女の在籍する学園の創設にも関わっている)


(なるほど……)


 頷きながらリンゴへ視線を落とすレナ。

 すると三人の様子を見ていたマスターが、補足するようにカウンター越しに語りかける。


「キミ達が昨日対峙したパーティ、アレは元々二組で、男女のバディに一昨日の朝までリンゴも所属したのだが……」


 追加された情報に、俯くリンゴをハリスは凝視する。


 彼女は言わばハリスと同じ立場。

 純粋な年ごろの少女には酷な処遇に、自身を重ねたハリスは、マスターへ尋ねる。


「彼女も今回のクエストに参加させて構わないか?」


 放たれた言葉にマスターは勿論、レナとリンゴも驚愕する。


「べ、別に構わないが……」


「ありがとう。レナも大丈夫か?」


「私はハリス様の決定に従います。驚きですけれど……」


 戸惑いを隠せないレナだが、彼女は自分の名を記したクエスト用紙を、リンゴに手渡す。

 合わせてハリスは顔を上げた彼女に対し、温和な声で尋ねる。


「奇しくも同じ男女バディだが、それで良いなら一緒に来ないか?」


 用紙を受け取ったリンゴは、星空のように瞳を輝かす。

 そして彼女はカウンターに紙を置くと、少し背伸びをし、丁寧な字で名前を書き記した。


 三人の著名がされた用紙に、目を通すマスター。

 最後に彼は受領印を押し、紙をファイルに戻すと、リンゴに視線を下ろす。


「普通ならまずない事だ。強気も悪くないが、少しは弁えろ」


「……はい」


 注意を受けたリンゴは、ハリス達へ顔を向ける。

 するとレナは、先程の彼女のように手を差し出す。


 リンゴがハリスにした時と同じように、握手を交わす二人。

 朗らかな笑みを浮かべるレナは、新たな仲間に自身の名前を告げる。


「レナと申します。以後お見知りおきを」


「どうも……あの、失礼ですが」


 脈絡なく放たれた言葉に、動作を止めるハリス達。

 何かに気付いた様子のマスターは、再び頭を抱えている。


 目の前で固まるレナを見て、怪訝そうに首を傾げたリンゴは、鋭さのある疑問をぶつける。


「何故冒険者が女給の制服を着ているのですか? 特に効果ありませんよね?」


 その様子を見たハリスは、リンゴの人となりを何となく察した。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ