魔法少女、モンスターテイマーに拾われる
小さな外套着きの学生服を纏った少女が、気の強そうな視線を二人に飛ばす。
だがそんな彼女をマスターは無視し、二人へ手招きする。
「丁度良かったハリス、キミに頼みたい事があってな」
彼の言葉に招かれるまま、カウンターへ歩み寄る二人。
その一方、少女はマスターへ顔を上げる。
「話の途中です! 一人でも受けられるクエストをください!」
「そうは言われても、ソロクエストをキミの年齢に依頼することはできない。強さは認めるが、わかってくれ」
目を伏せて謝るマスターに、ぐぬぬと声を漏らす少女。
二人が話している間に、ハリス達がカウンターの前に立つと、マスターは裏から分厚いファイルを出し、一番上に収められたクエスト用紙を取る。
「昨日の今日ですまないが、キミにもう一度世界樹へ向かって欲しい」
用紙を受け取り、二人は顔を寄せて詳細を見る。
マスターの言葉通り、目的地は世界樹。だが今度は内部ではなく、周辺と樹上に関する、緊急性の高いクエストだった。
黙読する二人に、彼は口頭でも内容を語る。
「ここ数日、世界樹の周囲で冒険者の失踪が多発している。それに加え、以前は大量にいたモンスターすら、何故か減少傾向にある」
「その原因を、俺達が見つけると」
「ああ。それなりに腕の立つ冒険者も失踪しているから、生半可な強さの者には頼めなくてね」
「随分と買ってくれているようだな」
「こういう職業上、人を見る目はあるのだよ」
ファイルを閉じ、白い歯を見せてドヤ顔するマスター。
クエスト内容と報酬、そして「フェンリルを探しに行く」という目的への今後の展望を考えたハリスは、マスターにクイッと指を動かす。
その動作に気付き、羽ペンを手渡したマスター。
サインを書こうとするハリスに、横で見ていたレナが尋ねる。
「私もハリス様のお手伝いをしたいのですが、可能ですか?」
「好きにするといい。キミの強さもこの目で確かめたしね」
昨晩の戦闘を茶化すように、マスターは手をひらひらと振るう。
話を聞いていたハリスも、自身のサインを書き終えると、羽ペンと用紙をレナへ手渡そうとした。
しかし一方で、彼等の会話を蚊帳の外から聞いていた少女は、三人のやり取りを見て呟く。
「私も……できるはずなのに……」
虫の羽音よりも微かな少女の声。
ハリスとレナが彼女の声に気付くと、クエスト用紙を持ったまま、振り返る。
少女は二人を見上げ、エメラルド色の瞳を揺らめかせ、頬を膨らます。
わかりやすく不満を表す彼女を見て、ハリスはマスターに尋ねる。
「この子は?」
「西にある魔術学園の生徒でな。実績を積むために休学して、一応冒険者をしている」
彼の〝一応〟という言葉に、顔をムスッとさせる少女。
だがすぐに彼女は、表情を整え背筋を伸ばすと、ハリス達に向き直る。
「魔術学園・極西支部在籍、リンゴ・S・ターナです。先程はお二人の前で声を荒げてしまい、御迷惑をおかけしました」
リンゴはハッキリと語り、握手を求めて手を差し出す。
彼女の小さな手に、ハリスも自己紹介で応じつつ、ある事に気付く。
「ひょっとしてターナ家のご息女か?」
「はい……末の子ですが」
指摘に対しリンゴは肯定しながら、強張った表情を帽子で隠す。
彼等が握手を終えると、レナはハリスの耳元で尋ねる。
(ターナ家とは一体?)
(西の地方では有名な、魔術師一族の名門だ。彼女の在籍する学園の創設にも関わっている)
(なるほど……)
頷きながらリンゴへ視線を落とすレナ。
すると三人の様子を見ていたマスターが、補足するようにカウンター越しに語りかける。
「キミ達が昨日対峙したパーティ、アレは元々二組で、男女のバディに一昨日の朝までリンゴも所属したのだが……」
追加された情報に、俯くリンゴをハリスは凝視する。
彼女は言わばハリスと同じ立場。
純粋な年ごろの少女には酷な処遇に、自身を重ねたハリスは、マスターへ尋ねる。
「彼女も今回のクエストに参加させて構わないか?」
放たれた言葉にマスターは勿論、レナとリンゴも驚愕する。
「べ、別に構わないが……」
「ありがとう。レナも大丈夫か?」
「私はハリス様の決定に従います。驚きですけれど……」
戸惑いを隠せないレナだが、彼女は自分の名を記したクエスト用紙を、リンゴに手渡す。
合わせてハリスは顔を上げた彼女に対し、温和な声で尋ねる。
「奇しくも同じ男女バディだが、それで良いなら一緒に来ないか?」
用紙を受け取ったリンゴは、星空のように瞳を輝かす。
そして彼女はカウンターに紙を置くと、少し背伸びをし、丁寧な字で名前を書き記した。
三人の著名がされた用紙に、目を通すマスター。
最後に彼は受領印を押し、紙をファイルに戻すと、リンゴに視線を下ろす。
「普通ならまずない事だ。強気も悪くないが、少しは弁えろ」
「……はい」
注意を受けたリンゴは、ハリス達へ顔を向ける。
するとレナは、先程の彼女のように手を差し出す。
リンゴがハリスにした時と同じように、握手を交わす二人。
朗らかな笑みを浮かべるレナは、新たな仲間に自身の名前を告げる。
「レナと申します。以後お見知りおきを」
「どうも……あの、失礼ですが」
脈絡なく放たれた言葉に、動作を止めるハリス達。
何かに気付いた様子のマスターは、再び頭を抱えている。
目の前で固まるレナを見て、怪訝そうに首を傾げたリンゴは、鋭さのある疑問をぶつける。
「何故冒険者が女給の制服を着ているのですか? 特に効果ありませんよね?」
その様子を見たハリスは、リンゴの人となりを何となく察した。
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