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ドラゴン娘、もう一度再会する。

 爆発音の発生地にいち早く駆けつけたレナたち。

 遅れてハリスもやってきたが、そこに広がる光景に、彼等は眉を八の字に歪めた。


「ヒャッハー! 怪我したくなきゃ道開けな!」


「よくも俺達をコケにしてくれたなァ!」


 荒々しく声を上げるのは、ハリスの元仲間であるリーダーたち含む、町を襲ったならず者たち。

 他の都市へ移送になるはずの彼等が、なぜか外で暴れていた。


 それなりに数のいるならず者たちに、一般市民は逃げ惑う。

 戦闘要員は、近場にハリス達しかいなかった。


「手を組んで脱獄したか。厄介だな」


「どうする? 応援待ち?」


「一般の人たちが危険です。まずは私たちだけで対処しましょう」


 ハリス、ポーラ、リンゴの三人が意見を揃える。

 するとそれを聞いていたレナが、三人の前に出る。


「私も戦います」


「ダメだ、今回は下がっていろ」


「でも私は、ハリス様のパートナーで……」


「だからこそだ。魔力は枯渇寸前、見た目は元気そうだが、今のレナは俺達より脆いだろ?」


 見透かされたレナは、歯を食いしばって引き下がる。

 そんな彼女の肩を取り、同じく魔力の減退が激しいフェンリルが、仕方ないさと宥める。


 しょんぼりとするレナ。そんな彼女にハリスは振り向く。


「大丈夫。俺達が守るから、安心しろ」


 強い眼差しと言葉に引き下がるレナ。

 ハリス達三人が横並びすると、リーダー達もそれに気づく。


「また邪魔しに来やがったのか、ハリス……!」


「お前こそこの期に及んで、まだ罪を重ねるつもりか?」


「オレ達がこんなになるまで落ちぶれたのは、全部テメェのせいだろうがッッ!」


「お前達があの街でモノに暴力を振るったからだろ。俺のせいにされても困るぞ」


「ッ……うるせぇぇぇぇえええええええ!!」


 激情を見せ襲いかかる三人。

 それにつられて、他のならず者たちも、彼等に向かって走り出す。


 奇しくもハリスの言葉が挑発となり、三人以外の者には目もくれず、本来起こるはずだった被害が抑えられる。

 その間に人々が逃げるなか、ハリス達は各々に武器を構える。


「リンゴ、ポーラ、準備はいいか?」


「はい。魔力もそれなりに貯蓄済です」


「こっちもいつでもオッケーだよ」


 モノから譲り受けた長杖を握るリンゴと、刃の先をならず者に向けるポーラ。

 二人が返事をすると、彼等は合図もなしに戦闘を開始した。


 前方に跳びだすハリスとポーラ。

 少し早く前に出たポーラは、剣を大振りに構え、薙ぎ払う。


「「「ぐああああああっっっ!?」」」


「大丈夫、斬ってはいないから」


 そう言いつつも、彼女の振るった刃により、ならず者たちのほとんどが吹き飛ばされていく。


 彼女の放った衝撃から耐え、踏んばるリーダーたち。

 しかしそこに、大きく伸びたリベイルケインが、風を切る音と共に叩きつけられる。


「ぐ、おお……っ!」


「よく耐えたな。ならば、これはどうだ?」


 三人に近づいたハリスが、懐からカードをとりだす。

 それはフェンリルとの戦いで使用不能になっていた、鬼の絵が描かれたカードだった。


 ハリスがそれに呪文を詠唱すると、彼の腕に光が纏わりつき、巨大な手甲のように拡大される。

 鞭の勢いで上空に跳んだ彼は、拳をそのまま彼等に振り下ろす。


 焦って逃げるリーダーと髭の男。

 よけそびれた大男は、隕石のような拳を顔面に叩きつけられる。


「ぶべらっ!?」


 間抜けな声と同時に、彼の頭は地面に沈む。

 めり込んだ大男の姿を見て、敵わないと察して踵を返す二人。


 だがそんな二人の眼前に、超極太の光線が走り去る。


「気をつけたほうがいいです。この杖のおかげで私のライトレイは、威力の操作も精密性も上昇しましたので」


「ひっ……!」


「サンクチュアリよりも痛くできますよ?」


 幼げな容姿に似合わぬ威圧感に、髭の男は戦意喪失し、腰を抜かして地面へ倒れる。


 他のならず者たちも、ハリスとポーラの大暴れに近い活躍により、次々に撃破、鎮圧されていく。


 残されたリーダーが、歯を食いしばり彼等を見る。

 その瞳には未だ、反逆の意思が残されていた。


「こうなったら……!」


 言いながら振り上げられるリーダーの腕。

 掲げられた手の甲には、入れ墨のような彫り物で、複雑な刻印が描かれていた。


 ソレを一目見た途端、リンゴの顔が青ざめる。


「爆発魔術――危ないっ!」


 忠告に気づいたハリス達が一斉に回避する。

 刹那、リーダーは彼等に向かって掌を掲げ、苦悶の表情を浮かべる。


 赤く輝く刻印。次の瞬間、てのひら大の光球が放たれる。


 ハリスとポーラのギリギリを掠め、リンゴへ迫っていく一閃。

 彼女は咄嗟にドーム状のバリアを張り、滑らせるように後方へ弾きとばす。


 しかしリンゴは光弾を視線で追う。

 その先には、三人に戦場を任せ、人々を避難誘導させていたレナの姿があったのだ。


「レナさん! 危ない!」


「え……っ」


 彼女の眼前に迫った光弾。

 直後にそれは輝きを増し、周囲を飲み込む光を放って炸裂する。


 ――ドゴオオオオオオォォォオォォオッッッ!

 先ほどハリス達が聞いた爆発音が、レナと一部の人々を巻き込み、響き渡る。


 巻き上がった砂煙で内部は見えないが、生身の人間では、とても耐えきれる威力ではないと誰もが悟った。


「レナさぁぁぁぁああああああああああんッッ!」


 爆風を見つめ叫ぶリンゴ。

 ポーラや離れて戦闘を見ていたフェンリルも、巻き上がる土煙に意識を奪われる。


 しかしただ一人、ハリスの視線は他の者とは違っていた。

 彼が爆炎を見るその瞳は、何か異質なものを感じ取っていた。


(レナは無事だ……だが、この気配は……?)


 安心感を超える不信に、彼の背筋は凍りつく。

 直後、内側から砂煙が斬り払われ、その正体が姿を現す。


「な、なんで……!?」


 最初に驚愕の声を上げたのはポーラだった。

 リンゴも言葉を失い、レナの前に立つその姿を見る。


 白いワンピースに黒いエプロンとヘッドドレス……レナの者とは色が逆転した、奇妙な見立てのメイド服。

 それを纏うのは、白く長い髪をなびかす少女。


 黄金の角が生えたその容姿に、ポーラは口を開く。


「何故生きているの……ヴァイス……ッ!」


 彼女の言葉のとおりである。

 角の生えた彼女の姿は、ハリス達が確かに倒した宿敵・ヴァイスのものだった。


 角と服装だけが違う彼女は、ゆっくりとレナのほうを向く。

 彼女の姿に怯える人々やレナに対し、彼女は微笑む。


「お怪我はありませんか、レナ」


「は、はい……」


「それは良かったです。危ないので、ボクより前には出ないでくださいね」


 そう言って、彼女はリーダーへ顔を向ける。

 彼もまた、彼女の生存に驚き、口をあんぐりと開けていた。


 そんな彼の隙をつき、彼女は一気に距離を詰める。


「う、うわああああっ!」


 咄嗟に放たれる小さな光弾。

 閃光は彼女の腕に直撃し吹き飛ばすが、かつての彼女と違い、まるで生えてくるかのようにすぐに回復する。


 流れるように彼の懐へ潜り込んだ少女は、二本の指を立て、紋章の刻まれた手を貫く。


「ぎゃああああッッッ!?」


「これで抵抗手段はもうありませんね」


 尋ねた直後、彼女はエプロンを脱ぎ払う。

 そうして脱いだエプロンで彼を捕縛し、いともたやすく地面へと転がす。


 ならず者の最後の抵抗は、こうして幕を下ろした。

 幕引きをした、ヴァイスの顔を持つ少女は、ワンピースのスカートを持ち上げて礼をする。


 彼女の正体を見抜いたレナは、恐る恐る尋ねる。


「まさか、あなたは……!」


 それを眺めていたフェンリルも、渋い視線で一人言を呟く。


「随分と悪趣味な姿になったじゃないか、ファブニル」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


次回は5月以降の投稿となります。

理由にいたしましては後ほど活動報告にて掲載させていただきますので、そちらをご一読いただけますと幸いです。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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