表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/60

モンスターテイマー、ドラゴン娘を従者(なかま)にする

 二人の眠る部屋の窓から、朝陽と小鳥たちの囀りが飛び込んでくる。

 日の光に当てられ、ゆっくりと起き上がるハリス。


 だがその時、彼は片方の腕に、むにゅん……と柔らかい感触を得る。

 身体をビクンと震わせ、感触のした方向を見ると、そこにはレナの胸を鷲掴みにする、自身の手があった。


 ハリスが手を引くと遅れて彼女も目を覚まし、きょとんとした顔で彼を見る。


「おはようございます……どうされました?」


 暴力的な果実を備えたレナの、無防備すぎる寝起き姿。

 彼女は眠たげなジト目で、ハリスに顔を寄せると同時に、無意識に胸も寄せて強調する。


 純粋な彼女の様子に耐えられなくなった彼は、罪悪感を漂わせ答える。


「……すまない、先程お前の胸を触ってしまった」


 全身に申し訳なさを纏い、謝罪するハリス。

 レナはボケっと聞いたが、事を理解すると、表情を変えずに顔を紅潮させ、自分の身体を隠すように抱いて尋ねる。


「何も言わなければ私も気づきませんでしたし、役得だったのでは?」


「そういうわけにもいかないだろ……」


 奇妙な指摘をするレナに、ハリスは応じて頭を抱えた。


 *


 一時間後、彼は町の装備店にレナを連れて訪れる。

 ボロ布を纏っただけの彼女に、このままではまずいと、二人で服を見繕いに来たのだ。


「そういえば、レナが着ているその布は何なんだ?」


「鱗の一枚を形状変化したものです。元は私の鱗なので、頑丈です」


 的確な回答をするレナに、感心の声を上げるハリス。

 それから二人は、装備店に並ぶ服や装備の数々に、吟味する目を輝かす。


 戦士用の鎧に、ゆったりとした魔術衣、チャイナ服のような格闘家の装い一式。

 ゆっくり歩く足進め眺めるハリスは、ボソリと背後へ尋ねる。


「レナはどんな服が好みだ?」


 ……その声に、レナからの返答は無い。

 気付いたハリスが店内を探し回ると、彼女はあるマネキンに展示されている服に釘付けになっていた。

「ハリス様、この服はいかがでしょうか?」


 それはいわゆる、女性給仕の制服――メイド服であった。


 丈の長い黒のワンピースに、フリルの眩しいエプロンがセットになり、加えて手袋とカチューシャの付いたスタンダードな一式。

 意外な選択にハリスは唾を飲み、彼女へぎこちなく顔を向ける。


「これが何か、わかっているか?」


「確か、めいど服……でございますよね? これを纏っている女給を見たことがあります」


 山のような胸を張り、得意げに答えるレナ。

 理解した上でメイド服へ齧りつく彼女に、ハリスは理解が追い付かず、重ねて問いかける。


「これを着るということは、誰かに仕える気でもあるのか?」


 意地悪な質問とハリスは理解しつつ、レナに投げかける。

 それを受けた彼女は、不思議そうに目を見開き、彼の顔を見つめる。


 二人の視線が合ったまま、数秒の沈黙が流れる。

 それで全てを察した彼は、自身の顔を指差し、引きつった笑みを浮かべる。


「もしかして、俺か?」


「そのつもりだったのですが、いけませんか?」


 即答したレナは目を潤ませ、子犬のようにハリスを見る。

 カミングアウトを受けた彼は、表情を変えずに頭を抱え、首を振ってみせた。


「全然理解が追い付かないのだが、理由を教えてくれ」


「簡単です。私がハリス様の事を、強くお慕いしているからです」


「お慕いって、別に俺は何も……」


 真っ直ぐなレナの返しに困惑するハリス。

 向かい立つレナも狼狽するが、意を決して息を飲むと、ハリスの前に跪いて理由を告げる。


「楔から私を解放していただき、自由へ手を差し伸べ、二度の食事まで頂いた……これだけのご恩を抱えて、お返しできないだなんて、私にはとてもできません」


「それは全部俺の勝手で、自由に行動しただけで」


「例えそうであってもです」


 低姿勢でありながら、自らの意志を強く語るレナ。

 彼女はハリスの目を見ると、「それに」と言葉を繋げ、ウインクする。


「ハリス様は私に自由だけを与えて、そのまま放置するような、酷いお方ではございませんよね?」


 半ば押し切るようにそう告げたレナだったが、直後に彼女はやりすぎたと反省し、ぎこちなく笑う。


「……なんて。本当はただ、ハリス様と一緒にいる理由が欲しいだけなのです」


 それまでの強い声色とは違い、とても自信なさげに語るレナ。

 彼女は誰もいない周囲を気遣い、姿勢を正して立ち上がる。


 二人の視線が近くなると、彼女の話をすべて聞いたハリスは、軽く手を挙げて声を張る。


「店員さん、この服が欲しいのだが」


 ハッキリと告げられるその言葉に、レナは瞳を輝かせた。


 *


 装備屋を出て酒場に戻ったハリスは、一息ついて隣を見る。

 そこには買い与えられたメイド服を纏い、淑やかに立つレナの姿があった。


 一見清楚な雰囲気を醸し出しているが、彼女の胸に聳える連山は、はち切れんばかりに存在を主張している。

 それでも下品な印象を与えず、ハリスも安心して感想を語る。


「自分で選んだだけあるな、とても似合っている」


「ありがとうございます……えっと……」


 感謝を告げた後、彼女は顎に指を当て、何かを考え込む。


「どのようにお呼びすればよろしいですか? やはりご主人様や、旦那様のほうが?」


「それは行き過ぎだ、関係性は可能な限り対等でありたい。だからせめて今まで通りで頼む」


「はい……では、ハリス様」


 頬を染め、いじらしく名前を呼ぶレナ。

 普段と変わらぬその呼び方だが、衣装の変化で雰囲気も格段に上がり、思わずハリスも息を飲む。


 そうして二人が酒場の内部へ入っていくと、彼等の存在に気付いたマスターが、カウンターから呼びかける。


「おお、戻ったか二人とも」


 同時に彼とカウンター越しに話していた、魔女のような帽子を被った少女もハリス達を見る。


 学生服を着た背の低い少女が、振り向きざまに長く美しい髪を靡かせると、酒場は途端に爽やかな林檎の香りで包まれた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ