ドラゴン娘たち、奇襲を仕掛ける
ヴァイスの奇襲から半日以上が経った夜明け前。
ゾンビとして強化されたならず者に乗っ取られた町は、荒らされつくしていた。
残っていた食料を食べ尽くした彼等は、人間らしく眠りにつく。
ヴァイスも例外でなく、大きな十字路で目を開けたまま横たわるファブニルの腕の中に潜り、無垢な顔で眠りについている。
……その眠りを妨げるように、どこからともなく凄まじい爆発音が轟いた。
「はえっ!?」
耳をつんざくその音に目を覚ますヴァイス。
ファブニルも気づいたのか、ピクリと体を揺らす。
すると直後、彼女たちのもとに一人のならず者が駆け寄ってくる。
『やべぇ! 奴等、町に魔術ぶっ放して来やがった!』
「なんだって!? ここは彼等の町なんだよ!?」
略奪された自分達の街を攻撃するという手段に、ヴァイスは驚きを隠せない。
跳び起きた彼女は身支度を整えると、彼に命じる。
「みんなを起こして! ボクも出る!」
『わかった! 起きろ野郎共オォォ――!』
叫びながら走り去っていく男。
彼のうしろ姿を見届けると、ヴァイスは一度しゃがみ込む。
そして横たわったままのファブニルに手をかざし、告げる。
「キミも起きて。あの黒い龍、また戦いたいみたいだよ」
ささやきかけると、黄金の龍はゆっくりとその巨躯を持ち上げる。
だがその時、龍と彼女は同時に何かを感じ取る。
(上……!?)
彼女たちが見つめるのは、漆黒の闇が広がる星空。
そこから流星のように……夜と同じ色の龍が奇襲を仕掛ける。
『グオオオオオオォォォオォオォオォッッ!』
黒龍と化したレナの咆哮が、夜の町を駆け巡る。
上空からの突進に不意を突かれ避けられないヴァイス達。
両者が激突すると、ファブニルは地面に捻じ伏せられ、地面を抉るほどの衝撃波が走った。
「ハデにやってくれるじゃないか……っ!」
ファブニルと共に地面へ崩れ、ヴァイスは悔しげな声を上げる。
その瞬間、黄金龍を押し倒したレナの背中から、小さな人影が飛び出す。
影はみるみるヴァイスに迫りながら、剣を抜いて叫ぶ。
「ヴァイス、覚悟ッ!」
「――ポーラか!」
合わせるように抜刀し、刃を交える両者。
ジリジリと剣同士が火花を散らす中、二人は睨み合って微笑む。
「不死身なのに身を守るなんて、ずいぶんチキンじゃん?」
「キミこそ一度もボクに勝ててないのに、また戦いに来たんだね」
「リベンジマッチってコトで、付き合ってよ先輩!」
告白めいた言葉で茶化しつつ、ポーラは剣を振るう。
ヴァイスもそれに応じ、二つの刃は舞う。
超速の剣が両者の技巧を交え、重々しい鉄の衝突音を響かせる。
剣戟は乱舞し、ヴァイスの刃が大振りになった瞬間、ポーラの瞳がギラリと輝く。
「そこだっ!」
踊るように姿勢を変え、刃を突き入れるポーラ。
しかしヴァイスはニヤリと笑い、無理な姿勢から跳躍する。
「残念、ブラフだよっ!」
楽しそうにバラしながら、彼女は一文字に剣を振り下ろす。
だがその時、ヴァイスの胸を真正面から刃が貫いた。
隠し持っていた二本目の刃を突き上げ、ポーラは呟く。
「だろうと思ったよ」
「く……かはっ!」
ポーラに一枚上を行かれ、彼女は大きく咳をする。
普通なら吐血してもおかしくないが、刃にも彼女の口元にも、やはり血液は一切無い。
以前の戦闘経験から、ポーラは剣を手放して引き下がる。
彼女達の背後では、二体の龍が立ちあがって戦闘を開始する。
するとヴァイスも身を起こし、胸から刃を引き抜く。
「ちょっとはやるじゃないか……やっぱり致命傷は痛いね……」
「くそっ、元気だなぁもう!」
「当たり前だろ、ボクは不死身――」
言いかけていた時だった。
突如ヴァイスの足がゆらりと揺れ、力が入っていないかのように千鳥足になる。
本人の視線も、まるで酔っ払ったかのようにふらつく。
「一体、何を……っ!」
「剣の表面に、町の人たちが持ち出していたありったけの〝毒物〟を塗っておいたの」
意味深に告げるポーラの言葉を聞き、ヴァイスは咄嗟に状態異常を解除する魔術を使おうとする。
しかし何故か魔術は発動せず、眩暈は収まることは無い。
「まるで、何かに邪魔されてるかのような……」
「邪魔してるんじゃない? 魔力を奪われた仕返しに」
彼女の一言にハッとするヴァイス。
対峙するポーラは剣を向け、強く睨みつける。
「どんなに弱い毒でも、解毒できなきゃキツいっしょ……さすがに不死身でもさ」
「やってくれたね……!」
「容赦はしないよ、皆に任されてるんだから!」
勇ましく声を上げ、斬りかかるポーラ。
だがヴァイスはふらつく足でなんとか高く跳びあがり、ファブニルの肩へ乗る。
するとポーラも彼女を追い、地面を蹴って跳躍する――。
*
――同時刻。
ヴァイスの指示で飛び起きたならず者たちが、世界樹にある草原へ向かおうと街道を走る。
しかしその街道の果て、町と草原を曖昧に分ける境界線に、多くの人影が建ち並ぶ。
その先頭に立つハリスを、群衆に紛れるリーダーが見つける。
彼はニタリと笑みを浮かべると、ゾンビ達を鼓舞するように叫ぶ。
『奴等は俺達を殺せねぇ! やっちまえ!』
リーダーの狂声に鼓舞され、彼等は荒々しく声を上げる。
彼等に立ち塞がる冒険者たちは、まっすぐな視線で前を見据える。
そしてハリスは隣に立つリンゴに、目を合わせずに告げる。
「リンゴ、魔力はどの程度残っている?」
「敵の妨害に少し使っていますが、ライトレイなら七回打てます」
「なら一発使ってくれ」
彼の提案に返事をせず、リンゴは杖を前に向ける。
帽子を目深に被った彼女は、鋭い瞳で焦点を合わせ、詠唱する。
「『ライトレイ』」
直後、放たれた極太の光線が、ゾンビ達へ迫っていく。
かつてのハリスの仲間たちは、寸前で避けて地面に倒れる。
それでも多くのゾンビ達が光線に巻き込まれ吹き飛ばされていく。
顔を上げたリーダー達と、足を止めたならず者のゾンビ達を、冷ややかな目で見つめる。
「確かに殺すことはしないが、殺さない程度で手加減はしないことにした」
彼はそこまで言うと、リベイルケインを前に翳して告げる。
「痛い目を見たくないなら、大人しくするんだな……行くぞ」
ハリスの号令と共に、リンゴと彼等の背後に並び立つ冒険者たちは、一斉に走り出した――!
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