ドラゴン娘、人々の命を託される
マスターによって、町の皆の前へ連れ出された四人。
彼等は四人を……特にレナを、不安の宿った瞳で見つめていた。
自分たちを囲む視線に、耐え切れなくなったレナ。
彼女は一歩前に出ると、深々と頭を下げた。
「皆様、これまで身分を偽り騙していた無礼、誠に申し訳ございませんでした」
声に一切の淀みも無い、まっすぐな謝罪。
町の人々は頭を下げたレナを見つめ、口を開かない。
するとそこへ、彼女の隣にハリスも並び立って礼をする。
「世間体を考えて俺が指示したことだ。悪いのは俺だ……すまなかった」
レナと同じく深く腰を曲げたハリス。
町の人々はそれを見るが、並び立つレナが彼の姿に困惑する。
「ハリス様! 悪いのは私でございます! ハリス様が謝罪する事など!」
「いや、俺はお前の正体を知っていた。その上でパートナーとして契約し、お前に嘘をつかせ続けた。罪ならば同罪だろう」
歩み寄って頭を上げさせようとしたレナだが、彼の語った理由を聞き、何もできずに離れる。
町の人々の二人を見る目は、不安から同情へ変わっていた。
彼等の向ける視線の意味が理解できないレナ。
その理由を語るために、マスターは町の人々を代表するように前へ出る。
「レナ、キミの立場や出自は邪龍の伝承としてなら知っている。この町に住まう者だからな」
「左様でございますか。でしたらさぞ、私を恐ろしくも思いましょう」
「キミたちの活躍を見て来なかったなら、ね」
そのマスターの一言に、レナは勿論、ハリス達も顔を上げる。
彼等を見つめる村人たちの顔は、一人ずつまばらに、順々に柔和になっていった。
「まあそうだよな俺達をニーズホッグや巨人から助けてくれたのはアンタ達だ」
「今回の一回目の戦いも、作戦立案から最前線の戦闘までやってくれたからな」
「謝られるどころか、私たちが感謝したいくらいなのに」
彼等を受け入れるような、温かい声が次々にとどく。
これまでの彼等の活躍が生んだ結果だが、レナの正体を受け入れてくれるとは、ハリスも思っていなかった。
町の人々を仕切るマスターは、口々に感謝を語る彼等をよそに、四人の前へ歩み寄る。
そして彼は、先ほどの二人と同じように頭を下げた。
「実は、キミ達の正体は、何となく察しがついていた」
「な……レナの秘密をしっていたということか?」
「ああ。キミの持ってる、ソレのおかげでね」
姿勢を正したマスターは、ハリスの腰へ指を差す。
そこに携えられたリベイルケインを指さしつつ、彼は語る。
「遠いご先祖様が言っていてね。命ある限り、営みはいくらでもやりなおせる、って」
「まさか、マスターの先祖とは……」
「昔は『太陽の王子』と呼ばれていた、今はない王家の英雄さ」
マスターのカミングアウトに、四人は絶句する。
特にレナは彼の正体を知った瞬間、目が点になった。
今までフレンドリーだったうえ、稀に世話まで焼いてくれた男が、因縁の相手の血族だったのである。
一方で彼等の反応を見たマスターは、それを予期していたようだ。
「キミを倒した俺の先祖は、キミへの監視とこの地を復興するために残ったらしくてね。昔の資料を漁っていたら、封印の時に使用したっていう神具に似たものをハリスが携えているもんだから」
「ということは、最初からきづいていたのか?」
「最初は疑惑だったが、ニーズホッグ討伐の話を聞いて確信したね」
白い歯を見せてニヤリと笑うマスター。
彼の事情を知ったハリスとレナは、彼に乗せられて「ははは……」と乾いた笑い声をあげた。
一仕事終えたように背伸びしたマスターは、レナに告げる。
「でも、俺の監視ももう終わりだ。人類を滅ぼそうとした邪龍が、こんなちっぽけな町の人々を助けてくれた。その事実に変わりはない」
「ちっぽけなどではありません。もうたくさんの思い出を刻んだ町です」
「そう言ってくれると幸いだよ」
互いにニッと笑い合う二人。
わだかまりの消えていくレナを見て、ハリスは安心する。
すると二人の様子を後ろから見ていたポーラとリンゴが、話に混ざるように首を突っ込んでくる。
「じゃあ因縁も解消したところで、何か策はあるんだよね?」
「余裕のあるうちに、作戦会議をしましょう!」
二人の乱入により、賑やかさを増す空気。
そこからなだれ込むように、四人とマスター、そして多くの冒険者が顔を付き合わせた作戦会議が始まった。
まず議題に上がったのは、マスターと人々のスタンスだった。
「キミたちが時間を稼いでくれたおかげで、町の重要物資や当面の食料は確保できた。しかし町自体は奴等の根城に変わっている」
「どうするつもりだ?」
「どうもしないさ。町に住まう全員、覚悟は決めてきた」
マスターの言葉とともに、住民や冒険者たちが、何かを決意したように頷く。
彼等の様子を見たハリスは、その答えに気づく。
「まさか……町を捨てるのか?」
「形が残るに越したことは無いが、今回は非常事態だ。命さえあれば構わない」
そう言うと、人々は合わないながら全員首を縦に振る。
正気とは思えない覚悟だが、それが彼等の意思であった。
しかしそれでも疑問が残るレナは、表情を強張らせて口を開く。
「ですがそれでは、皆さんの住んでいる場所がなくなってしまうのですよ?」
「そうです! それに復興にもお金はいっぱいかかります!」
二人とも別々の理由で、彼等の答えに疑問を呈する。
すると今まで話を聞くだけであった研究員が、小さく笑いながら前に出て、彼等に答える。
「先程ちょうど連絡が来て、世界樹を研究する数々の機関から、復興費の全額負担の提案が届いているのだよ」
「随分太っ腹だな……」
「ああ、それともう一つ」
前置きをして、研究員は更なる情報を開示する。
他の者たちには既に伝えられていた『それ』は、ハリス達をもう一度驚かせた。
「それなら確かにヴァイスのカウンターにもなるけど、本当に大丈夫なの?」
「ああ。町の在り方は変わるかも知れんが、継続はできる」
研究者はそう言うと、頭上高く聳える世界樹を見上げて告げる。
「終わりは常に突然訪れる。その度に人はまた新しいものを作る。それが人間の営みというものさ。わかるかな、ドラゴン?」
問いかけられたレナは、首を大きく縦に振る。
人々の覚悟を請け負った彼等は、それを踏まえて考えだす。
四人はそれぞれの案を提示すると、そこに人々の知識も加わり――ヴァイス達を倒す『奇策』は完成した。
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