表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/60

モンスターテイマー、ドラゴン娘と混浴する

 探索を終えた夜、ハリスは露天風呂にいた。

 湯に肩まで浸りつつ、彼は探索で見た異様な光景を思いだす。


 ハリスは内心、リンゴの首輪を外すだけでは終われないと、既に覚悟を決めていた。


 そして彼はおもむろに、夜の景色に浮かぶ山を見る。

 山に残った狩人が無事なのか、心配する彼。


 だがそのとき、自分しかいない露天風呂の扉が開く。


「ご心配なさらずとも、狩人は生きておりますよ。ハリス様」


 背後から聞こえたレナの声に、ハリスは驚いて振り向く。

 そこには布で前を隠した、一糸纏わぬ彼女が、頬を染めてこちらを見ていた。


 宿のルールとしては、現在の時間は混浴のため、決して悪いことではない。

 しかしハリスも、初めて見る完全に露出したレナの肢体に、思わず顔が赤くなる。


 それでもレナは止まらず、桶に汲んだ湯で身を清め、湯船に入る。


「お、おい」


「……匂いと、気配がありますので」


 焦るハリスに、粛々と言葉の続きを述べるレナ。

 同じ湯の中にいる二人だが、互いに身を寄せ合うことなく距離を取る。


 時間はもどかしく流れ、沈黙に堪えられなくなったレナは、顔を上げて尋ねる。


「お、お背中お流ししましょうか!?」


「……もう全身洗ってしまった」


 しかしレナの空元気もむなしく、彼女は俯いて黙り込む。

 対するハリスも、自身の選択を間違えたと察し、頭を抱える。


 だが同時に、ハリスは彼女の焦燥感を悟る。


「何か、話したいことでもあるのか?」


 質問するが、レナからの返事はない。

 困ったハリスは、彼女が何故こんな行動に出たのかを考える。


 今日の一日、探索の際に起きた事を回想していると、彼はやっと思い当たる。


「……ひょっとして、拗ねているのか?」


「…………」


「狩人の事になると、妙な行動が多かったと思うのだが」


 ハリスが問いただすと、レナは彼の元へ寄って問いかける。


「本当に狩人とは、過去に何もないのですか?」


 目を潤ませ、唇を尖らせて尋ねるレナ。

 やっと気持ちが通じ合い、ハリスも少しだけ緊張を解く。


「無いと思うのだがな。亜人種の知り合いなら、忘れることもない」


「本当ですか?」


「ああ、だが妙に親しげなのは少し気になるな」


 考え込んで顎に手を当てるハリス。

 彼がチラリと隣を見ると、レナの不安が拭えている様子はない。


 すると彼は、何かを決意したように頷いて答える。


「心配なら、明日にでも聞いてみるか」


「そんな! ハリス様のお手間を取らせることなんて!」


「パートナーの不安を払拭するのは当然の行動だ」


「……ありがとうございます」


 感謝を告げて湯の中へ肩を沈めるレナ。

 しかし彼は、それでもレナの不安が消えていないことに気付く。


「まだ何か抱えているようだな。教えてくれ」


 途端にレナは目を見開き、ハリスと距離を取ろうとする。

 だがその際にハリスを見た彼女は、自身を見つめる彼の顔に見惚れてしまう。


 凛とした表情に、レナは更に紅潮し、一度そっぽを向く。

 そしてレナは意思を固め、前置き尋ねる。


「今から話すことは、リンゴたちにはまだ話さないでください」


「ああ、約束する」


「それと……」


 言いかけて少し間を置き、彼女はより顔を俯かせる。


「今から話す内容を聞いても、ハリス様は私をパートナーとして、お傍に置いてくださるでしょうか?」


 自信喪失を如実に表すように、レナは告げる。

 彼女の語気からは、それだけ深刻な内容を今から話すという意思が、滲み出るようにハリスへ伝わる。


 だが、その言葉を受けた当のハリスが、レナの肩を優しく掴む。


「……あまり、パートナーを舐めるな」


「は、ハリス、様?」


「俺たちの関係はそんなに軽くない。例えどんな話をしようが、俺はレナと共にある」


 決意の滲む彼の言葉に、レナは泣きそうになる。

 話す前から涙ぐむ彼女に、ハリスは指でその涙を拭う。


 彼の行動でレナも自分の涙に気付き、振り払って本気の顔を作る。

 その表情は、かつて二人が初めて出会い過去を話した時の顔によく似ていた。


「ハリス様にもまだ、私が何故封印されていたか、話していませんでしたね」


「ああ。戦いを終えて疲労していたというのは聞いたが」


 おさらいするように答えるハリス。

 彼女はそこに、新たなページを付けたす。


「ドラゴンがかつて、人類の文明を一度滅ぼしたという歴史は、ハリス様もご存知ですね」


「…………まさか」


「はい。私こそが、その伝説の邪龍です」


 予想だにせぬレナの告白に、ハリスもさすがに言葉を失う。

 それでも彼はすぐに我へ返り、驚いてしまったことを謝罪したうえで、レナへ質問する。


「それをいま話そうとしたということは、理由があるのだな?」


「――フフッ、ハリス様は鋭いですね」


 小さな不安すら払拭され、微笑むレナ。

 すると彼女は、ここからが本題と言わんばかりに語る。


「私が文明を滅ぼしてしまった理由、それはあるドラゴンを倒すため。かつてフェンリルを見たのも、その際の出来事なのです」


「そうか。レナは一度ここへ来たことがあるのか」


「というよりも、この地で私は決着をつけたのです」


「レナ、そのドラゴンは一体何者なんだ?」


 ハリスの問いが一気に核心へと迫る。

 レナも一切臆することなく、彼と見つめ合って答える。


「不死龍ファブニル。決して命が潰えることなく、その力で死者の蘇生すら可能な、とても凶悪なドラゴンでした」


 語られたその名は、ハリスも知る伝説上のドラゴンだった。

 フェンリル同様、存在自体が疑われていたその名に、彼は胸を動かされる。


 それと同時に、レナが何故話したかを考えていた彼は、真意に気付く。


「まさか、アンデッドの大量発生はファブニルが?」


「恐らくは。私のほぼ全ての魔力と、余波によって人類の文明を滅ぼす悪を背負い放った一撃ですら、ファブニルの亡骸の一部が残りました」


 人間の片手に収まる程度の亡骸を、レナはこの地に隠した。

 だがそれからすぐに、彼女自身もあの世界樹の地下に封印された。


 過去を語り終えたレナは、最後に懸念を漏らす。


「ファブニルの亡骸は、恐らくかつての権能を持ち合わせています」


「つまり誰かが利用すれば、これだけのアンデッドを量産することも容易ということか」


「……それどころか、本体の復活も」


 彼女の告白により事態の深刻さが浮き彫りになる。

 既にハリスの脳内は、どのようにして解決するかという思考に突入していた。


 全ての話を受け入れ、考え込むハリス。

 にもかかわらず、当のレナは話を受け入れてくれた嬉しさのあまり、思わず彼を抱きしめる。


 しかしながら、ハリスの体とレナの体の間で、むにゅりと形を変える双丘の感触に、彼の思考はかき消されてしまった。


「さ、さすがに近すぎるぞレナ」


「少しだけ甘えさせてください。良い主人を持ったことを感じたいのです」


「だから俺達の関係は対等で……はぁ……」


 完全にデレきったレナに、ハリスは溜息をつく。

 頬を染め思考の回らない彼は、悶々と頭の中に疑問を作る。


(なぜ文明だけ滅びて、人類は滅びなかったのか……いま聞いてもな……)


 最後に残されたその謎を、彼は一度抱え込み、今はレナを受け入れることに集中した。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

明日は普段通り正午の更新を予定しております。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ