表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/60

モンスターテイマーたち、女勇者と旅に出る

 マスターの言葉に、酒場にいた冒険者たちが一斉にざわつく。

 丸机にいる三人もまた、レナを除いて思わず声の方向に顔を上げる。


 一方でマスターに紹介され、ドヤ顔で胸を張る勇者・ポーラ。

 それを見る冒険者たちは、その肩書にあまりにも似合わぬ姿に、ヒソヒソと話しだす。


(本当に勇者なのか? もっと王道冒険者的な……)


(いや、逆にああいう癖のあるヤツのほうが適任なんじゃないか?)


(ああー多様性ってヤツ? 確かにそれなら)


「ちょっと聞こえてるんですけど!」


 腰に手を当て、コミカルな表情で叱責するポーラ。

 これには思わず冒険者たちも申し訳なさそうに頭を掻く。


 ぶー、と唇を尖らせたポーラだったが、やがてマスターが群がる冒険者たちを切り開くと、表情を変えないまま中へ入っていく。

 腕を組み、唇をフグのようにした彼女を、ハリスは戸惑いつつ立ち上がる。


「……初めまして。俺の名前はハリスだ」


 握手を求め、手を差し伸べるハリス。

 するとポーラも不機嫌な表情を戻し、笑顔でそれに応じる。


「あたしはポーラ・セーシェル。ご紹介に預かりました通り、勇者やってまーす」


 他の冒険者たちが言う通り、彼女の言動には威厳というものが感じられない。

 それでもハリスは、細く白い掌越しに、彼女が只者ではないと察する。


 握手を終えた二人だったが、ポーラは彼の様子を見て、腰のポシェットに手を突っ込む。


「あ、一応証拠あるけど見る?」


「証拠?」


「うん。勇者の証なんだけど」


 そう言って取り出したのは、重々しい金色の紋章に『28』という数字を示す印が押され、青いリボンで装飾された豪華な称号だった。


 黄金のそれを見た、ハリス含む一部の冒険者は、勘付いて息を飲む。

 いっぽうで〝勇者〟というシステム自体を知らないレナは、首を傾げて尋ねる。


「これは、一体?」


 その質問に、ポーラではなくハリスが答える。


「勇者号。幾つもの国家が勇者と正式に承認した者にだけ与えられる、本物の証。この番号は、世界で二十八人目に賞与されたという意味だ」


 冷静な回答に、レナもポーラが凄い人物であると理解する。

 ポーラは彼の反応を見て、澄ました表情で微笑む。


「ふーん、ニセモノだって疑わないんだね」


「誇らしげに証拠として提出したんだ。疑う必要はないだろう」


「話が早くていいねぇ!」


 嬉しそうに告げた彼女は、近くの席から椅子を取ると、丸机に四人目として着席する。


 視線をハリスからリンゴに移し、改めて状況を把握するポーラ。

 彼女は指を組んでその上に顎を置くと、単刀直入に提案する。


「あなた達、北に行く予定は無い?」


 告げられた言葉に、ハリスとレナは強く反応する。


 北と言えば、ハリスがかつて求めていた伝説のモンスター『フェンリル』の住まう地。

 その場所を悟るかのように、ピンポイントに告げるポーラ。


 僅かに警戒したハリスは、顔を俯かせて牽制する。


「もしあったとして、何故それを聞く?」


「そうねぇ。ここは明かせない理由になるのだけど、言ったら私は用アリなのね」


 質問を受け、頭の後ろへ腕を回し、椅子の背に重心を傾ける彼女。

 あぶなっかしく椅子の後ろ脚でバランスを取る彼女は、困った様子で続ける。


「たださぁ。極寒で迷子になりやすい、出現するモンスターもそこそこ強い北への用事となると、不安にもなるわけよ。勇者と言えど」


「だから、同行する仲間が欲しいのか?」


「そうそう正解! そうしたら、巨人を実質三人で倒した凄い三人がいるって聞いたじゃない?」


 お喋りなポーラのおかげで、少ない質問で理解するハリス。

 仲間が欲しい彼女にとって彼等の存在は、まさに求めていた人材なのだ。


 彼女の魂胆を知って、ハリスは「うーん」と唸りつつ腕を組む。


「理由はわかったが、それがリンゴの首輪とどう関係する?」


 最初の話題に戻り、自分達へのメリットを尋ねる。

 北に行くことと、リンゴに装備されてしまった『隷従の首輪』を外すことに何の共通点があるのか、彼女はまだ答えていない。


 だが指摘されたポーラは、ふふんと笑ってそれに答える。


「ほら、あるじゃん。というかいるじゃん? どんな魔術も知り尽くした、伝説のモンスターが。それに聞けば、わかるんじゃない?


 焦らすように語るポーラ。

 だがそれだけで、ハリスは何者を指しているのか理解した。


 レナとリンゴが見守る中、ポーラの提案を全て理解したハリスは、深く頷いて答える。


「ポーラが北へどんな用があるのか、それは聞かないでおこう」


「それはつまり?」


「ああ、行こう――氷狼フェンリルを探しに」


 *


 それから一時間も経たず、ハリス達にポーラも含めた三人は、旅の支度を整えて酒場の前にいた。


 ひときわ大きなリュックサックに、荷物をこれでもかと詰めて背負うレナの左右に、ハリス達は並んでいる。

 彼等を見送る冒険者たちが集まる中、マスターはハリスと握手する。


「二階の部屋は残しておこう。早めの帰りを待っているよ」


「ああ。すぐに終わらせて、帰ってここの料理を食べたいからな」


「私も、あのお肉としばらく会えないというのは……少し寂しいです……」


 しょんぼりと告げるレナに、苦笑いするマスター。

 するとリンゴは、彼の袖を引っ張って振り向かせ、申し訳なさそうに告げる。


「あの、ごめんなさい……私のせいで、稼ぎ頭のハリスさんたちを巻き込んでしまって……」


「それを言うなら本人に言いなさい。キミはもう、彼等の大切な仲間だ」


 マスターにさとされ、二人を見上げるリンゴ。

 彼女の視界に映るハリス達は、優しい笑顔で微笑んでいた。


 思わず涙ぐむリンゴに、マスターは続ける。


「それにキミも、二人の下で十分に強くなった。キミはもう足手纏いなんかじゃなく、立派な冒険者だ」


 ニッと笑うマスターの言葉に、リンゴは滲む涙を振り払う。

 そして彼女も満面の笑みを浮かべ、ハリス達へ振り撒く。


 やがて冒険者たちの労いも止み、先頭に立つポーラが告げる。


「さ、行こっか!」


 手を振り上げて歩き出す彼女に続き、三人も歩を進めていく。

 離れていく彼等の背を、冒険者は様々な身振りと共に送り出す。


 こうして彼等は、フェンリルを探し、リンゴの呪いを解く旅路に立つ――。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ