表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/60

モンスターテイマー、漆黒のドラゴンを鎮める

 町からほど近い草原に聳え立つ、空高く浮かぶ雲すら突き抜ける巨木、世界樹。

 草原に大きな影を落とす大樹の下、根の狭間に空いた世界樹の内部へ続く穴の前に、ハリスの姿はあった。


 松明を手に持った彼は、眼前に口を開ける暗闇に臆さず踏み出す。


 縦横に広く少し湿った洞窟は、僅かに下への傾斜ができており、ハリスを地下へ誘う。

 周囲の根と土壁を照らし、暗闇をしばらく進んだ彼は、咄嗟に違和感を覚える。


(妙だな……こんな環境なのに、モンスターが一体もいない)


 広く暗い洞窟内。出現して日が浅いとしても、コウモリやゴブリン等、モンスターが住むには絶好の場所である。

 にもかかわらず、モンスターの姿はどこにもない。


 異常性に気付いた彼は立ち止まり、思考を巡らせようとする。

 だが、その時である。

 まるで彼が止まるのを予期していたかのように、頑丈に見えた地面が、突如崩れたではないか。


(しまった)


 油断に唇を噛み、闇へ落下していくハリス。

 上へ手を伸ばしても遅いと悟った彼は、空中で姿勢を整え、数秒後に真っ暗闇の中で着地した。


 無傷の彼は慌てることなく、落とした松明を手に周囲を確認する。


 足元に転がる無数の宝玉、壁も天井も見えない広大な空間。

 暗闇に響く、二つの呼吸音。


 自分のものではない大きな生物の吐息に、ハリスは松明の火をその正体に掲げる。


 一枚一枚が人間大の漆黒の鱗。

 爬虫類に似た頭に伸びる、一対の角。

 ハリスの身長の約五倍はあろう橙色の瞳が、彼を睨みつける。


『グルルルルルゥゥゥ……ッッ!』


 直後、地面の宝玉や土壁から露出していた貴石の巨塊が光を放ち、暗闇の中に潜む怪物を照らし出す。


 巨大な四つの脚、一対の翼、太く長い凶器のような尾、剥き出しの牙。

 露になったその姿に、ハリスは思わず声を上げる。


「ドラゴン……!?」


 刹那、彼の声に呼応するように、ドラゴンは巨大な地下空間一杯に翼を広げ、咆哮する。


『ガオオオオオオォォォォォォォゥッッッ!!』


 危機を察知したハリスが松明を捨てて後ろへ飛ぶと、ドラゴンは彼のいた場所に頭を突っ込み、地面の岩肌をいとも簡単に粉砕する。

 凄まじい破壊力の攻撃に、ハリスは思考を巡らす。


(千年前に絶滅したと記録される幻のモンスターが、何故こんな場所に?)


 彼の記憶通り、この世界におけるドラゴンは、大昔に歴史から姿を消した存在。

 絶大な力を持ち、人の文明を一度滅ぼしたとされる破壊の象徴である。


 当然ハリスも、本物のドラゴンを見るのは初めてだ。

 彼は暴れ狂うドラゴンの振り下ろす、刺々しい尾の打撃を捉えると、片手を指鉄砲の形にして構える。


「『キャプチャーリング』」


 瞬間、指先から大きな青白い輪が放たれる。

 ドラゴンの尾に直撃したリングは、サイズを急速に縮め、命中個所を拘束する。


 空間に縛られ、動かなくなる巨大な尻尾。

 だが制止できたのは数秒程度で、ドラゴンが大きく抵抗すると、リングはガラスのように砕け散った。


 その間にハリスは、ドラゴンをぐるりと回り込むように走る。

 ドラゴンは目を動かして彼を見つけると、再び尾を振り上げ、先程の何倍もの速度で叩きつけた。


 巻き上がる粉塵。

 砂埃を見つめるドラゴンだが……突如、何かに驚き目を見開く。


 晴れていく土煙の中、姿を現した無傷のハリスは、片腕で尾を受け止めている。

 そうして彼は尾を弾き、発動していたスキルの名を告げる。


「『シンクロ』」


 これこそがハリスの本領、絶対に敗北しないと言われる所以ゆえん

 対峙する者と互角に戦えるレベルに自己を瞬間改造する、モンスターと対等に戦闘し関係を築きたいと考える、彼の創り上げたユニークスキルである。


 無事な彼を見たドラゴンは眉間に皺を寄せ、岩石のような前足を持ち上げ、踏みつける。


『グオオオオォォォォッッッ!』


 その攻撃をひらりとかわし、地面を蹴って跳躍するハリス。

 ドラゴンの頭上に跳びあがり、空中で再び指鉄砲を構える彼を、巨獣は橙色の視線で追う。


 青い光を腕に灯す彼を警戒し、口元へ紫炎を込めて放とうとするドラゴン。

 しかしそれよりも早く、ハリスは光を指先から射出する。


「『キャプチャーステラ』!」


 彼の指先から流星群のように放たれた、大きく星の描かれた無数の魔法が、ドラゴンへと降り注ぐ。


 魔法陣はキャプチャーリング同様に、命中した個所を拘束する。

 更にドラゴンを縛ったリングからは次々に光の鎖が伸び、地面や壁に突き刺さる。


 暴れてリングを破壊しようとするドラゴンだが、今度はびくともしない。

 尚も暴走するドラゴンを見て、ハリスは光の鎖の上に飛び乗ると、ドラゴンの頭部目掛けて駆け上がっていく。


 深刻な顔をする彼は、ドラゴンの身に起きている異常事態を察知していた。


(『シンクロ』して理解した……このドラゴン、急激に魔力が漏れ出ている)


 魔力とは、キャプチャ等の魔術攻撃を使う際に用もちいられる力の源。

 先ほどドラゴンが放とうとした紫炎も、魔力を変換したものである。


 同時にどんな生物でも、魔力が完全に枯渇すれば動けなくなってしまう、この世界では水のように重要なエネルギーでもある。


 ハリスはドラゴンと『シンクロ』した際、その肉体から異常な速度で魔力が消耗し、弱っていることを察したのだ。

 怪我をして興奮状態になった、手負いの獣と同じである。


 ドラゴンの異常に気付いたハリスは、鎖を駆け登りながらドラゴンの顔を見つめ、力強く告げる。


「今、楽にしてやるからな」


 激しく鎖が揺れる中、ハリスがドラゴンの全身を注視すると、その首裏に異物が存在することに彼は気付く。


 うなじに突き立てられた、剣のような物体は、柄やグリップはあるものの、刃の代わりに棘の並ぶ先細りした棍棒のような、謎めいた武器であった。


 ハリスはそこに目標を定めると、鎖をしならせて跳び移り、一切の迷いなくそれに手を掛ける。


「ぐっ……!」


 食いしばる彼の声と共に、ズ……と生々しい音を立て、引き抜かれる物体。

 するとドラゴンは、突如全身から光を放ち、激しく咆哮した。


『ガオオオ――――ッッッ!』


 暴れ狂い、頭を高く上げて叫ぶドラゴン。

 ハリスの仕掛けた拘束も解け、彼は武器を持ったまま地面へ戻る。


 するとやがて、ドラゴンの光は収束し、人の形になって地面へ落下した。

 その姿を見たハリスは、呆けた声を上げる。


「女の子……?」


 先程までドラゴンのいた場所に倒れているのは、マントのようなボロ布を纏った、長い黒髪の少女。


 茶色くくすんだ布に隠れる彼女の胸は、とてもとても、豊満であった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


作品執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ