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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第一部 人間 vs 猫

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子猫暴走

 猫本さんが白い子猫といつの間にか仲良くなっていた。


 マコトさんが作り直したニジマスの南蛮漬け──改めただの『ニジマスの素揚げ』がお皿に並べられ、猫たちがそれを夢中で食べているところに、遅れて猫本さんがやって来た。


「おっ。コユキ、みんないいものを食べてるぞ」

 そう言って肩の上に乗せた白い子猫を見る。

「おまえも食べるか? どれか好きな皿を……」


 子猫の目つきが変わった。


 瞳が真っ黒に、おおきくなり、爛々と輝き出した。


 勢いよく猫本さんの肩から飛び降りると、食事中の猫たちの中へ、突っ込んで行った。


『これぜんぶ、ぼくのニャーーー!!』


 すると大人の猫たちが、ばつが悪そうに身を引いた。


『ぼくのニャー!』

 そう言いながら、子猫はすべてのお皿を回り、ちょっとずつ口をつけては、また走り出す。

『ぼくのニャーウ、モガモガ、ばうっ、ばうっ』


「こらっ、コユキ!」

 猫本さんがまるで父親のように叱る。

「行儀が悪いぞっ! みんなのを取っちゃダメだ!」


 俺の隣でそれを見ていたマオが、駆け出した。


 コユキという子猫のほうへ向かって、まっすぐに全力疾走して行く。


 子供を叱るのかと思ったら、違った。


『それ、ぼくにゃんが目をつけてたやつーーッ!』


 どうやら一際美味しそうな一匹のニジマスに目をつけてたようだ。

 コユキがそれに近づいたのを見て、取られまいと必死だ。


 コユキが獰猛な声をあげた。

『地球の支配者ごときがぼくの邪魔をするなーーーッ!』


 マオはたじろぎながらも負けまいとする。

『それ、そこのお腹の膨らみが、美味しそうなのにゃーーッ!』

 語尾は泣き叫んでいた。


 コユキのほうが強かった。

 手でマオのほっぺたを押すと、マオが簡単に後ろに倒れた。

 まるで子供同士の喧嘩だ。


『マオちゃま……。無邪気すぎてステキ』

 さる……山田先輩に抱かれながら、ミオが呟いた。

『でもヤマダ様もステキやの……。ふたりの男性の間でココロ揺れるあたし……』


 コユキとマオが喧嘩している間、他の猫たちは固まってしまった。

 二匹の喧嘩を遠巻きに眺めながら、食べる手を完全に止めてしまった。


『こらぁ〜』

 遂にマコトさんがツノを出した。

『仲良く食事しないとダメでしょうがぁ〜……! あたしの料理をみんなが楽しんでくれるのを邪魔する気!?』


 するとコユキがマオとの取っ組み合いから離れて、マコトさんのほうへ駆け出した。

 ぴょん! と飛び上がって、マコトさんの胸をドン! と押す。


『きゃっ!』


 マコトさんの胸が、ぷるる、ぷるるる〜んと、揺れた。


 なんて恐ろしいことを……。あの子猫、蹴りを喰らうぞ?


 そう思ったが、急にマコトさんの目尻が下がり、優しい顔つきになった。


『もぉ〜……! いきなり何するのよ〜! 子供は可愛いなぁ』


 子供は得だ……。


 しかも動物の子供は……無敵だ。


 さる……山田先輩が羨ましそうに指を咥えて見ていた。先輩が同じことをしたら、たぶん再起不能になるまで痛めつけられることだろう。


 猫本さんが、メガネをかけた白猫と話していた。

「ユキタロー、あれ、叱らなくていいのか? おまえの息子だろう」

「子猫は何をしても許されます。ごはんを食べるのも子猫がまず先で、子猫が満足するまで成猫は待っているものですよ」



 どこからか子猫の声がたくさん聞こえて来た。


 そっちのほうを見ると、割烹着のようなものを身に着けた猫が、大勢の子猫を従えてやって来ていた。


『はいはい、みなさん。ごはんがこちらにあるそうですよ』


 保母さん猫のようだった。


 ついて来る子猫たちは皆、コユキと同じように目が爛々と輝いている。


『ごはんニャー!』

『ごはんニャー!』

『ぜんぶぼくのニャー!』


 保母さん猫がにこやかに言った。

『それではみなさん……、ゴー!』


 まっしぐらで子猫たちがやって来た。


『ダメにゃー!』

 コユキが全力で阻止に行く。

『ぜんぶぼくが食べるんにゃー!』


 しかし集団の力は凄まじかった。

 コユキは雪崩なだれに飲まれるように無力に押し流され、子猫たちはそれぞれのニジマスに食いついた。

 それを大人の猫たちはじっと見守っている。よだれを垂らしながら、仕方なさそうに、子猫たちのお腹が膨れて、食べ残しのお皿が空くのを待っていた。


 俺も猫本さんもさる……山田先輩も、人間の男は皆、呆気にとられてそれを見ていた。


「ふふっ」

 マコトさんだけ、頼もしいものを見ているように、楽しそうに言った。

「猫の親も人間の親も、同じなのね。子供が優先! 優しい世界だなあ」




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― 新着の感想 ―
それではみなさん……、ゴー! > なんだろう? 面白い事は面白いセリフではあるんだけど、何故ここまでそう思えるんだろう? 長毛種でにこやかおっとりタイプだったのが、「ゴー!」の瞬間だけ劇画調に変化する…
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