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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
97/421

◆◆◆◆ 6-2 不予 ◆◆◆◆

 ……このヨスガたちの窮地きゅうちからさかのぼること、数日前。


 大宙暦3133年(帝ヨスガ2年)、孟秋の月(7月)。

 南方で軍勢が火花を散らしている頃、宮廷では――




【 ミズキ 】

「――では、国母さまはさほどの病ではないのですね?」


【 レンス 】

「はっ、いささか気分がすぐれぬようではありますが……決して、世に広まる噂のようなことはございませぬ」


 コウ・レンスはうずくまったまま、大仰に一礼してみせた。

 レンスは国母ことコウ太后の甥であり、招きに応じて参上したのである。


【 レンス 】

「陛下にご心配いただくほどのことはございませぬゆえ、どうか、お気遣いなさいませぬよう――」


【 ミズキ 】

「……とのことですが、陛下?」


【 ヨスガ 】

「……ふむ……」


 手にした楽器の弦をいじりながら、生返事をするヨスガ。


【 ミズキ 】

「陛下――」


【 ヨスガ 】

「お……おお。そうだな……病だというならば、我が太医たいいに診せてはどうだ?」

 *太医……皇帝付きの医師。


【 レンス 】

「おお、もったいないお言葉……! されど、そこまでの恩寵おんちょうを賜るほどの病ではございませぬゆえ、なにとぞお気遣いなく――」


【 ヨスガ 】

「ふむ……つまり、見舞いには行くまでもない、ということだな?」


【 レンス 】

「ははっ……!」


【 ヨスガ 】

「そうか。国母さまのご快癒を祈っている。……この饅頭まんじゅうでも見舞いに持っていくか?


【 レンス 】

「ははっ、かたじけなく……されど、陛下のいたわりのお言葉のみで、国母さまもたちどころに全快いたしましょうぞ――」


 床に擦りつけんばかりに頭を下げたあと、レンスは退室していった。


【 ヨスガ 】

「……ふん。相変わらず芝居がかった男よな」


【 ミズキ 】

「あの調子では、どこまで本当なのか、定かではありませんね」


【 ヨスガ 】

「どこまでコウ太后と通じているのやら……?」


 皇太后ランハ、不予ふよ――その噂は、すでに城内どころか市中にも伝わっているという。

 *不予……貴人が病になること。


 放置しておけることではないので、甥であるレンスを呼び出したのだが……あまり得るところはなかった。


【 ミズキ 】

「帝都はおろか、各地に伝わるのも時間の問題でしょう……そう、戦地にも」


【 ヨスガ 】

「……まぁ、そうなるな」


 実質的に宙帝国を支配しているコウ太后にもしものことがあれば、その影響は計りしれない。

 帝国はさらに求心力を失い、ただでさえ乱れている世が、いっそう乱れることになるだろう。


【 セイレン 】

「これはまさに千載一遇の好機! 今こそ機先を制し、陛下の大願を成就するべきではありますまいか!」


【 ヨスガ 】

「ええい、めったなことを申すでないわ……!」


【 セイレン 】

「んむむむむ!?」


 口に饅頭を突っ込まれて、物理的に黙らされる天子の(自称)軍師。


【 ミズキ 】

「〈我影也しのびのもの〉からは、なにか知らせは?」


【 ヨスガ 】

「今のところはないな。どちらにせよ……すぐには動けぬ」


 と、そこへ女官がやってきて、


【 女官 】

「陛下、黄龍コウリュウ老師が謁見を願っておりますが……いかがいたしましょう?」


【 ヨスガ 】

「ほう……?」


 ヨスガは、ミズキと顔を見合わせた。

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