◆◆◆◆ 6-2 不予 ◆◆◆◆
……このヨスガたちの窮地からさかのぼること、数日前。
大宙暦3133年(帝ヨスガ2年)、孟秋の月(7月)。
南方で軍勢が火花を散らしている頃、宮廷では――
【 ミズキ 】
「――では、国母さまはさほどの病ではないのですね?」
【 レンス 】
「はっ、いささか気分がすぐれぬようではありますが……決して、世に広まる噂のようなことはございませぬ」
煌・レンスはうずくまったまま、大仰に一礼してみせた。
レンスは国母こと煌太后の甥であり、招きに応じて参上したのである。
【 レンス 】
「陛下にご心配いただくほどのことはございませぬゆえ、どうか、お気遣いなさいませぬよう――」
【 ミズキ 】
「……とのことですが、陛下?」
【 ヨスガ 】
「……ふむ……」
手にした楽器の弦をいじりながら、生返事をするヨスガ。
【 ミズキ 】
「陛下――」
【 ヨスガ 】
「お……おお。そうだな……病だというならば、我が太医に診せてはどうだ?」
*太医……皇帝付きの医師。
【 レンス 】
「おお、もったいないお言葉……! されど、そこまでの恩寵を賜るほどの病ではございませぬゆえ、なにとぞお気遣いなく――」
【 ヨスガ 】
「ふむ……つまり、見舞いには行くまでもない、ということだな?」
【 レンス 】
「ははっ……!」
【 ヨスガ 】
「そうか。国母さまのご快癒を祈っている。……この饅頭でも見舞いに持っていくか?
【 レンス 】
「ははっ、かたじけなく……されど、陛下のいたわりのお言葉のみで、国母さまもたちどころに全快いたしましょうぞ――」
床に擦りつけんばかりに頭を下げたあと、レンスは退室していった。
【 ヨスガ 】
「……ふん。相変わらず芝居がかった男よな」
【 ミズキ 】
「あの調子では、どこまで本当なのか、定かではありませんね」
【 ヨスガ 】
「どこまで煌太后と通じているのやら……?」
皇太后ランハ、不予――その噂は、すでに城内どころか市中にも伝わっているという。
*不予……貴人が病になること。
放置しておけることではないので、甥であるレンスを呼び出したのだが……あまり得るところはなかった。
【 ミズキ 】
「帝都はおろか、各地に伝わるのも時間の問題でしょう……そう、戦地にも」
【 ヨスガ 】
「……まぁ、そうなるな」
実質的に宙帝国を支配している煌太后にもしものことがあれば、その影響は計りしれない。
帝国はさらに求心力を失い、ただでさえ乱れている世が、いっそう乱れることになるだろう。
【 セイレン 】
「これはまさに千載一遇の好機! 今こそ機先を制し、陛下の大願を成就するべきではありますまいか!」
【 ヨスガ 】
「ええい、めったなことを申すでないわ……!」
【 セイレン 】
「んむむむむ!?」
口に饅頭を突っ込まれて、物理的に黙らされる天子の(自称)軍師。
【 ミズキ 】
「〈我影也〉からは、なにか知らせは?」
【 ヨスガ 】
「今のところはないな。どちらにせよ……すぐには動けぬ」
と、そこへ女官がやってきて、
【 女官 】
「陛下、黄龍老師が謁見を願っておりますが……いかがいたしましょう?」
【 ヨスガ 】
「ほう……?」
ヨスガは、ミズキと顔を見合わせた。
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