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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
95/421

◆◆◆◆ 5-40 予感 ◆◆◆◆

【 シュレイ 】

「おお――〈雲竜飛聖うんりゅうひせい〉!」


 シュレイは思わず席を立ち、声を上げた。


【 シンセ 】

「まぁ、こちらが、従兄様の弟弟子の……」


【 シュレイ 】

「そう、雲竜飛聖こと〈ヘキ・サノウ〉だ。こんなところで会うとは……」


【 サノウ 】

「な、なんだか、つらそうな人が多かったから、〈甘露盃かんろはい〉で治しておきましたよ。ふ、ふふふ……」


 甘露盃とは神仙の力をもつ祭器であり、清浄なる甘露水を生み出し、邪悪を祓い傷を癒すとされている。


【 シンセ 】

「私だけでなく、神鴉兵たちも癒していただき……感謝に堪えません」


【 シュレイ 】

「かたじけない――それにしても、しばらく顔を見なかったが、どこでどうしていたのだ?」


 先日、シュレイと再会したサノウはしばらく行動を共にしていたものの、ある日ふいに姿を消し、以来行方知れずであった。


【 サノウ 】

「せ、仙薬の材料を探したり、変てこな書肆ほんやに紛れ込んだり、いろいろありましたけど……師兄たちがいくさに出たっていうんで、よ、様子を、見に来たんですよ、ふふふ……」


【 シュレイ 】

「おお――そうか、助太刀に来てくれたのだな?」


【 サノウ 】

「え? い、いやぁ、人界のいくさにかかわるのは、ちょっと……でも、今回は森羅が相手なんでしょ? ど、どんな術を使うのか、興味があったんですよぉ。くふふ……」


【 シュレイ 】

「……そ、そうか」


 わかっていたことだが、この男に義理や人情を求めても仕方はなかった。


【 サノウ 】

「あ、あっちの、呪術っていうんですか? あれ、面白いですよねぇ~。蓄積された力を解放して……地脈を媒介に……えへへ、う~ん、興味深いなぁ~」


【 シュレイ 】

「と、ともあれ……しばらくはここに滞在してはどうだ?」


【 サノウ 】

「そ、そうですねぇ。もっと研究したいし……うぇへへへ」




 そして、翌日――


【 ヴァンドーラ 】

「――敵の呪術兵、健在の模様!」


 敵陣の様子をうかがってきたヴァンドーラが、復命した。


【 ウツセ 】

「むむ……見せかけだけかもしれませんが?」


【 アグラニカ 】

「いえ――昨日同様の呪力を感じます。いえ、むしろ、それ以上とすら……?」


 宙軍の陣を睨みながら、アグラニカが首をかしげている。


【 ウツセ 】

(敵方に援軍があったということか?)


 どうあれ、これで短期決戦は困難となった。


【 ウツセ 】

「ここは相手の様子をうかがいつつ、本軍との合流を目指す――というのが無難かと」


 いたって面白みもないが、そうならざるをえない。


【 アグラニカ 】

「そうですね……ヴァンドーラの意見は?」


【 ヴァンドーラ 】

「宙の弱兵ごとき、物の数では――と強がりたいところですが、そうとも言えません」


【 アグラニカ 】

「占術でも『今は待ちが吉』と出ていたし……ここは動かない方が賢明かもしれませんね」


【 ウツセ 】

「…………」


 歯がゆい思いを抱きつつも、ウツセは頷いてみせた……




【 シュレイ 】

「……動きはない、か」


 森羅軍の様子を探らせて、シュレイは内心安堵した。


【 シュレイ 】

(ムキになって押し寄せてくるかと思ったが……冷静だな)


 正面からぶつかれば、いかにサノウやアイリの援護があったとしても、苦戦はまぬがれないところだけに、願ってもない展開だった。


 その一方で。


【 シュレイ 】

(そろそろ、何かが起こる――か)


 それが南征軍の陣中においてか、はたまた、帝都においてなのか……

 昨夜、シンセとともにアイリを訪ねた際のことが思い出される。




【 シュレイ 】

「――アイリ殿、先ほどのご助力、まことにありがとうございました。おかげで我が軍は難を逃れることができ、感謝に堪えませぬ」


【 アイリ 】

「…………」


 シュレイは拝跪して謝意を述べたが、アイリは聞いているのか聞いていないのか、どこか夢うつつな様子だった。


【 シュレイ 】

「(……寝ているわけではないのだろう?)」


【 シンセ 】

「(はい……たまに、このような状態になりますが……)」


 小声でシンセと囁き交わしていると、


【 アイリ 】

「そう――そうですか。また……始めるのですね?」


 突然、なにかに憑かれたかのように、奇妙なことを口走り始めた。

 あたかも、誰かと話しているかのような……


【 アイリ 】

「ふたたび、炎を……世をあらためる、きよめの炎を、燃やすのですね――」


【 アイリ 】

「ええ――今度は、もっと大きい炎となりましょう――七年前よりもずっと大きい――きっと、この濁り穢れたエン氏の天下を、燃やし尽くす炎に……! ふふ……はは……あははっ……!」


【 シュレイ 】

「…………っ」


 高笑いをあげるアイリの狂態に、シュレイらは言葉もなく、見守る他はなかった……




【 シュレイ 】

(あれは――予言、なのか?)


 アイリが口走った奇妙な言葉は、ただのうわごとに過ぎないのか?

 だが、邪法の類とはいえ、ただならぬ力を持つ彼女が口にしたことだけに、聞き流せるものではない。


【 シュレイ 】

(……レイ将軍が彼女と出会ったのは、七年前の〈五妖の乱〉においてとか)


 峰東の地で勃発した大規模叛乱・五妖の乱において、〈五王〉を称した反乱軍の頭目たちがいた。

 そのうち三人は死亡が確認されたが、うち二人はいまだ消息不明である。

 不明の一人は、うら若い女であったとか――


【 シュレイ 】

(もしやと思っていたが……そういうことなのか?)


 もしアイリが五王の関係者……どころか、五王のひとりであるとしたら――


【 シュレイ 】

(……つくづく、とんでもない男だな)


 改めて、レイ・グンムの豪胆さに呆れてしまう。

 ともあれ、


【 シュレイ 】

(いよいよ、機が近づいている……か)


 すでに世は乱れている……が、さらに想像を超えた、大乱世が迫っている。


【 シュレイ 】

(この私が――大願を果たす、その時が……!)


 ひとり、不敵にほくそ笑むガク・シュレイなのだった。

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