◆◆◆◆ 5-36 東方戦線 ◆◆◆◆
【 ウツセ 】
「――早急に手を打つべきかと思います」
【 ヤクモ 】
「ふむ……」
翠・ヤクモの本陣では、辰・ウツセがヤクモを相手に熱弁をふるっていた。
【 ウツセ 】
「本来なら、すでに森羅軍と合流できていた頃ですが、悪天候のせいで大幅に遅れが生じています。このままでは……」
宙軍十万に対し、ヤクモ軍は五万、森羅軍は四万……合流して初めて互角の兵力である。
分断された現状では、各個撃破される可能性も否定できない。
【 ヤクモ 】
「こちらからの指示を待ってくれているならいいが……そうとも限らぬな。どう見る?」
【 ウツセ 】
「女王陛下が、みずから兵を率いているならば……おそらく、独自に判断して行動されるでしょう」
森羅の女王〈嫋やかなるアグラニカ〉のことを思い出し、ウツセはそう分析した。
【 ヤクモ 】
「ほう、そう思うか?」
【 ウツセ 】
「……女王陛下とは、いささか語り合いましたので。誰かの指示を仰がねば動けない御仁ではありません」
【 ヤクモ 】
「なるほどな。そなたが言うなら、そうなのであろう」
とヤクモは頷き、
【 ヤクモ 】
「では、急ぎ森羅軍のもとへ向かってもらおう。どう動くかは、臨機応変にたのむ」
【 ウツセ 】
「……っ、はっ……!」
ウツセは一礼して席を立ち、さっそく支度に取りかかったのだった。
岳東の街道を東へ向かう、万余の軍勢。
その先頭に立つのは、全身黒ずくめの異様な一団である。
【 シュレイ 】
「アイリ殿の様子はどうだ?」
【 シンセ 】
「は……今は落ち着いておられます。昨夜は、いささか荒れておられましたが……」
【 シュレイ 】
「嶺将軍の説得が功を奏したか」
【 シンセ 】
「そのようです」
【 シュレイ 】
「森羅の呪術は並々ならぬものがあるとか……油断は禁物だ」
【 シンセ 】
「――心得ております。きっと、お力になってみせましょう」
軍を離れ、東に向かったウツセが森羅軍を発見したのは、岳東の地においてであった。
【 ヴァンドーラ 】
「おお――男にして女のごとき勇士! 壮健でなによりにござる――」
出迎えたのは、森羅の将〈聡きヴァンドーラ〉である。
【 ウツセ 】
「ご無沙汰しています――陛下はいずこに?」
【 ヴァンドーラ 】
「ちょうど、戦勝祈願の祈祷が終わるところなれば。案内いたそう」
【 ウツセ 】
「かたじけなく――」
ヴァンドーラに従って森羅軍の本陣へ向かうと、
【 アグラニカ 】
「お久しゅうございます、辰将軍」
森羅の女王、〈嫋やかなるアグラニカ〉が待っていた。
少し疲労の色が見えるのは、祈祷を終えたばかりだからであろうか。
【 ウツセ 】
「こちらこそ、ご無沙汰しております。遠路はるばるお出でましいただき、感謝にたえません」
深々と一礼し、長途をねぎらう。
*長途……長い旅路の意。
【 ウツセ 】
「援軍の派遣、かたじけなく存じます。いささか予定が狂ってしまいましたが……」
【 アグラニカ 】
「是非もありません、ここは異郷……我らの守り神の加護も薄れておりますれば」
【 ウツセ 】
「今後の方針ですが、どうお考えで?」
【 アグラニカ 】
「翠公との合流が難しいとなれば、いっそ、宙のみやこを衝く――という策も考えましたが……」
【 ヴァンドーラ 】
「それは容易ではない様子。されば、宙軍の背後を衝くべし――と、態勢を整えているところにて」
【 アグラニカ 】
「もっとも、あちらもそれくらいは考えておりましょう。辰将軍の読みはいかに――?」
【 ウツセ 】
「は、おそらく宙軍は一軍を割き、こちらへ兵を差し向けるものと思われます。各個撃破を図って大軍を送ってくるか、足止めにとどめるべく小勢にとどめるか……恐らくは後者とみますが」
【 アグラニカ 】
「なるほど……こちらは遠征軍、糧食も豊富ではありませぬゆえ、長期戦は厄介ですが……」
【 ヴァンドーラ 】
「ならば全力をもって、一気に敵に当たるべし!」
【 森羅の将 】
「しかり! 宙の弱き男どもに、我らが後れを取ろうはずもなし!」
【 ウツセ 】
「……どうあれ、敵の動き次第ですな」
と、一同が相談している最中に、
【 偵察兵 】
「申し上げつかまつる――宙の軍勢が西より接近中、その数およそ二万!」
西へ指し向けていた偵騎が戻り、そんな知らせをもたらした。
【 アグラニカ 】
「二万ですか……足止めをもくろんでいるようですね」
【 ウツセ 】
「そのようですが、油断は大敵です。敵将はただならぬ男ですので」
そう言いつつもウツセは、嶺・グンムがみずから来ることはさすがにあるまい、と見定めてはいた。
【 ウツセ 】
(閣下と対峙しながら、本陣を空けるなどありえない……いや、やりかねないか?)
そう思わされるだけでも、グンムの術中なのかもしれなかった。
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